「見えない・聞こえない」世界を子どもが90分体験 小3男児とママに起こったこと

暗闇体験を経て見える新しい世界とは ~#3親子体験レポート~

ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン代表:志村 真介

小学3年生の息子と「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を初体験! 息子は暗闇の中で頼もしい存在となるか? それとも怖がるのか?

真っ暗闇の中を、視覚障害者のアテンドで、白杖(はくじょう)をついて声や音や足元の感触などを頼りに最大8人チームで進んで行く──。

こうした視覚障害者や聴覚障害者、高齢者の世界を楽しみながら90分間体験できるソーシャルエンターテイメントが今、注目されています。

主宰者でダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン代表の志村真介(しむらしんすけ)さんは、前回までのインタビューにて、体験前後の変化を話してくれましたが、やはり「百聞は一見に如かず」。記者親子が、実際に「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を体験してきました!

※3回目/全3回(#1#2を読む)

2020年にオープンしたばかりの東京・アトレ竹芝タワー内にある「ダイアログ・ダイバーシティミュージアム『対話の森』」。近代アートミュージアムのような現代的でおしゃれな空間デザイン。  写真提供:ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン

視覚障害者を見て息子は「本当に目が見えないの?」

夏休み目前の7月中旬(2023年)。記者は、小学3年生の一人息子を連れて、東京・竹芝にある「ダイアログ・ダイバーシティミュージアム『対話の森』」に参加することに。「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」で今夏開催中のイベントテーマは、子どもが喜びそうな「夏祭り」です。

受付で、事前にネット購入したチケットの領収書と身分証明書を提示。腕時計など暗闇の中で光るものも含めて、スマートフォンなどの手荷物は一切持ち込み禁止のため、コインロッカーに預けることに。

参加者は私たち親子のほか、同じく小学3年生の女の子&ママ、女子大生2人組で、6人チームとなりました。案内役は視覚障害者のTさん。

このTさん、一見、視覚障害者には見えません。目線こそ合わないものの、話す人のほうを向いて会話するし、振る舞いがほぼ健常者と変わらない。さらに、自己紹介時の雑談で、「私のパソコンのモニターはいつも真っ暗なんですけどね~」「いつも電気をつけ忘れるんですよ~」なんて冗談を言って笑わせ、緊張感をほぐしてくれているムードメーカーです。

自己紹介の後は、今日のイベントプログラムの説明を受け、暗闇での手の使い方や、白杖の選び方、動かし方を教わります。

Tさんからレクチャーを受けた息子は、「あの人、本当に目が不自由なの? 全然そうは見えないんだけど」とポツリ。確かにTさんはまるで見えているかのようなスムーズな振る舞い。内心驚いていたのは、きっと私たち親子だけではないはず。

足元の変化を教え合うことでチームに団結力!

一通り説明を受け、いざ、光のない空間へ。

「うわ! 本当に何も見えない!」とみんなが動揺する中、Tさんは「○○(目的地)まで歩くよ~! ついてきて~」と明るい声で誘導。地面についた足の感触、におい、雰囲気、声、音等々、感覚をフルに使いながらこわごわ進みます。

息子は普段、「自分で何でもできるもん!」という、“自立したがり”キャラ。なのに、ここでは私の服を引っ張ったり手をつないできたり、不安を隠せない様子……。

足を進めるにつれ、白杖から伝わる地面の変化に気が付きます。コンクリートから砂利道へ、そして芝生のような草道へ。徐々に草の匂いがし、右手にゴツゴツした木の幹を感じました。

私たちが目的地に到着したことが分かったのは誰かが「ここが○○じゃない?」と言ってくれたから。

途中、暗闇の中でチームが輪になって会話を交わしながら遊ぶ機会が設けられました。意外にも声で位置関係が分かり、遊びは成立。ムードメーカーなTさんの機転とフォローで、初対面同士のチームも、だんだん盛り上がってきました。

団結力がついてきた私たちは、みんなで移動する際にも、「ゴツゴツするよ」「平らになったぞ」「草むらだ」など地面の感触を確かめ、互いに教え合いながら進みます。息子はというと、私の手をぎゅっと握ったまま放しません……。もしやちょっと怖いのか!?

詳細はネタバレになるので書けませんが、その後も夏祭りならではの遊びを満喫できます。音や人の声、息づかいに耳を傾け、手探りすることで、ここがどこで、隣に人はいるのかどうかがなんとなくわかるように。

取材時に聞いた「見えないのに見えているように感じますよ」という話はこういうことだったのか。実際に体験して、しっかり腑に落ちました。

打ち解けてきたチームのメンバーと、地元のお祭りネタを話している最中、突然、打ち上げ花火の音が。

「パーン、パーン」

音のほうに顔を向ける私たち。これまで見てきた花火を想像しながら、見えてないのに「きれいだなあ」と思わず声がもれてしまう。ほかの人からも「見えないのにきれいって言っちゃった」と声が。

見えなくても、音を聞くだけでそれが見えているような錯覚に陥るのが不思議。また、人と会話するときも相手の顔を見ようとしている自分がいます。習慣がついているといえばそうですが、話し相手である自分が相手のどちら側に位置しているのかを声で分かってもらうためにも、いつもよりきちんと相手に顔を向けようとしているのかもしれません。

花火を楽しんだ後、祭りが混みあってきた気配が。他のグループが入ってきました。「Aちゃん、いる~?」「いるよ~」と、ときどきお互いの存在を確かめ合いながら、会場を後に。

90分のプログラムは、本物の夏祭り同様にとてもワクワクし、とても楽しかった。高揚感が抜けないまま、光のある現実へと戻る時間に──。

視覚障害者と心的距離が縮まるのを実感

会場を出て、グループで今日の振り返りを行いました。その際、メンバーの一人がTさんに「街で目が不自由の人に会ったとき、どう話しかけていいのか迷うんだけど?」と質問しました。

Tさんは、「話しかけられるとうれしいんですよ。気づかってもらっていることが分かるから。逆に、近くでずっと人の気配があるのに話しかけられないほうが、その人が何を考えているのか分からなくて怖いかな」と、笑顔で回答。

「渋谷とか人混みは怖くないか」との質問には「全然怖くない。むしろ人が多いほうが安心する。何かあったとき助けてくれるし、分からなくなったら聞けるから」(Tさん)。

そのほか、「スマホはどうやって操作しているんですか?」「お化粧はどうしているんですか?」など気になっていたことを質問し、彼らが普段感じていることや日常の様子を知ることができました。

このころにはTさん含め、グループ同士、すっかり緊張感が解けてすっかりなごやかになっていました。

ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン代表の志村真介さんによると、この「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」で打ち解け、別れ際に連絡先を交換する人、交際する人、そして結婚した人(!!)までいたそうですが、それもなんだかうなずけます。

次のページへ 小3息子に起きた変化とは?
16 件