『ヘボコン』はヘボいロボットが大集合! 「うまくいかないことも楽しむ」極意とは

『ヘボコン』マスター・石川大樹さんに聞く、失敗から生まれることの楽しさ ~後編~

『ヘボコン』主催・ヘボコンマスター:石川 大樹

『ヘボコン』2019年大会の様子。  写真提供:石川大樹
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技術力の低い人限定ロボコン、通称『ヘボコン』主催・石川大樹さんインタビュー。

今年2023年の大会は8月26日(土)。ヘボコンマスターでもある石川さんのもとへは、『ヘボコン』に対する熱い想いが日々届いていると言います。

インタビュー後編では、ヘボコンが生まれた経緯や、記念すべき第1回大会のこと、そしてロボットの“ヘボさ”が教えてくれることについて、お話ししていただきました。

(全2回の後編。前編を読む

『ヘボコン』は「失敗」することから生まれた

──「ヘボコン」が誕生したいきさつを聞かせてください。

石川大樹さん(以下、石川さん):僕は『デイリーポータルZ』というWEBサイトで編集の仕事をしているのですが、このサイトでは工作系の記事も多く掲載しています。

特に以前は、「こういうモノを作りました!」という記事だけでなく、「こういうモノを作ろうとがんばりましたが、うまくいきませんでした」という、失敗した内容も“ひとつの体験記”として載せていたんです。

編集の立場でそれを見て、人が試行錯誤して、それでもうまくいかなかったというのにグッときて、「面白いな」と思っていて。僕はその「失敗する」記事が大好きだったんですね。

『ヘボコン』主催・ヘボコンマスターの石川大樹さん。プライベートは2人の小学生のお子さんのパパです。

石川さん:あとはサイトとして、『Maker Faire Tokyo』(2023年は10月14日に開催)という、モノを作る人が集まって自分の作品を見せ合う、イベントに毎年参加しているのですが、そこに出てくる作品はいずれもよくできている、完成されたモノ。

それは本当に素晴らしいのですが、それらを見ていたときにふと、「失敗作ばかり集めた展示会があったら、面白いだろうな」という考えがよぎりました。

それで失敗作の展示会を企画したのですが、頓挫してしまったんです……。というのも、人は失敗作を手元に残しておかないから(笑)。捨ててしまったり、部品を他の作品に使ったりもするので、ほとんど残っていないんです。

それで、代わりに始めたのがこの、ヘボいロボットたちが主役の『ヘボコン』でした。参加者は大会のためにヘボいロボットを製作するので、確実に作品が揃う、というわけです。

第1回の手ごたえ「これは面白い!」

──第1回の『ヘボコン』の開催の様子を聞かせてください。

石川さん:現在の『ヘボコン』は、『デイリーポータルZ』が運営していますが、1回目は僕の個人ブログで参加者を募集しました。

僕の当初の考えでは、「公民館の和室などを借りて、ちょっとやる」くらいのイメージでいたのですが、蓋を開けたら思っていたよりもたくさんご応募いただけて。『デイリーポータルZ』主催のイベントにすれば、会社所有のライブハウスが使えるので、そこを会場として2014年に第1回を開催しました。

1回目の様子。  写真提供:石川大樹

石川さん:1回目を終えたときの僕の手応えとしては、「これはめちゃめちゃ面白いぞ!」ということ。

ロボット作りの素人さんの作品は、思っていた以上にバリエーションがあって、「こんな“ヘボい”モノもあるんだ!」とめちゃめちゃワクワクしましたね。

第1回大会 1回戦第6試合:鬼ゴリモス2号(じゅんじゅん) vs ぺんだこ(ホリ)試合動画

石川さん:第1回がおもしろすぎて、ハードルが一気に上がったから、2回目はもうやっちゃダメなんじゃないかと思ったぐらいです。あれは僕の人生のひとつのピークでした(笑)。

第1回大会 1回戦第3試合:チリトリーマアム(inuro) vs アキラ一号(アキラ二号)試合動画

「雑さ」が見えるからこそ面白い

──石川さんが“ヘボさ”に愛着を覚える理由とは?

石川さん:僕はわりと昔から、雑に作られたモノや雑に書かれた文章が好きでした。雑さの中に、作り手の手癖や思考、意図などが見えてくるんです。

それと、ちょっと油断しているところもよくて。『ヘボコン』で登場するロボットを見ていても、「途中まではすごく丁寧に作っていたんだけど、ココで妥協したんだろうな」というのが汲み取れる。ヘボいロボットから人間の弱い部分が透けて見えて、僕はそこに面白みを感じるんです。

「雑なことって、すごく魅力のひとつだと思うんです」(石川さん)

──『ヘボコン』は世界でも広がっていると聞いています。

石川さん:第1回の『ヘボコン』が、文化庁メディア芸術祭の審査員推薦作品に選ばれて、それをきっかけに世界でも『ヘボコン』が開催されるようになりました。

今では、僕が数えているかぎりでは25ヵ国以上、南極以外の全大陸で『ヘボコン』が行われているという状況です。

場所は、科学館のようなところで子ども向けワークショップとしてだったり、酒場で遊びとしてやっているようなところもあり、はたまた地域のモノづくりスペース的なところで、“初めてモノづくりをする人向け”として行われるなどやり方はいろいろですね。

『ヘボコン』世界大会。  写真提供:石川大樹

“ヘボい”は世界中にあった!

──2016年に行われた『ヘボコン』の世界大会の様子も聞かせてください。

石川さん:少しずつヘボコンの輪が広がり、スタッフの間で「『ヘボコン』の世界大会をいつかやりたい」と話していたところ、当時いた会社の30周年に絡めて予算が出たので、世界大会開催を進めることにしました。

『ヘボコン』が世界に広まる前までは、「ロボットがうまく動かなくて面白い」と感じるのは、わりと日本的な感覚なのかなと思っていたんです。日本人ってゆるキャラを生み出したりとなんでも擬人化するところがある。だからロボットが転ぶのも面白がれるのかな、と。

でも、世界各地の方が『ヘボコン』の意図をちゃんと理解し、楽しんでくれているのが分かって、すごくおもしろかったですね。ちなみに、ヘボいという意味でよく使われる英語は「crappy」です。

──ヘボコンは2023年で9年目を迎えますが、進化や変化を感じる部分はありますか?

石川さん:「9年もやれば、“ヘボ”のバリエーションも出尽くすのかな」と思っていましたが、ところが毎回、目新しい“ヘボ”が出てくるんです! 

「毎回とってもワクワクしています!」(石川さん)

石川さん:そして、第1回から変わらず意識しているのは、やはり「勝利」の価値を下げること。よくできたロボットがいいのではなく、“ヘボさ”を誇るのが『ヘボコン』です。これからも、不器用であればあるほど称賛され、ヘボさが評価される空間を守っていきたいと思っています。

「最近のお気に入りの対戦です」(石川さん)。  写真提供:石川大樹

『ヘボコン』なら自分の手で作り対戦までたどり着ける

──子どもたちが『ヘボコン』に参加するメリットをお聞かせください。

石川さん:『ヘボコン』は、ロボットにどんな材料が必要か考え、自分の手でロボットを作り、そして対戦して遊ぶというところまでが1セットになっています。

さらに『ヘボコン』的には目的ではありませんが、勝敗というひとつの結果まで出ます。これは、子ども向けプロジェクトとしては魅力的なんじゃないかな、と。

「お子さんも多く参加してくれています」(石川さん)。  写真提供:石川大樹

石川さん:大人もそうですが、特に子どもたちには、『ヘボコン』を通じて、“ヘボい”ことに価値を見出してほしいと思っています。失敗したものやうまくできなかったものは決して無駄ではなく、それはそれで価値があるのだ、と。

「失敗は成功のもと」という言葉がありますが、あの言葉はゴールを“成功”にしていて、僕はあまり好きではなくて。

『ヘボコン』の考え方としては、失敗したときに「次はちゃんとしたものを作ろう」ではなく、「なんだかおかしな動きをするロボットができた! それはそれで面白いじゃん!」と受け入れること。『ヘボコン』を通して、そういう感覚を身につけてもらえたら嬉しいですね。

「失敗を楽しめる。これが『ヘボコン』マインドです」(石川さん)

石川さん:ロボット作りも、最初からうまくいくことはあまりありません。うまくいかないことを「自分が未熟だから」と思うのではなく、「うまくいかないことも楽しむ」。そういうマインドを身につけたら、新しいことにチャレンジするときもきっと役に立つのではないでしょうか。

僕にも小学生の子どもが2人がいますが、子どもたちが何かを作ったときには「これ、いいじゃん!」と言っています。モノづくりが好きなお子さんがいらっしゃいましたら、ぜひ2024年の『ヘボコン』にエントリーしてみてください。

『ヘボコン』では、「うまくできませんでした」は、大歓迎です(笑)! お待ちしています。

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『ヘボコン』にとって、失敗することは、「楽しむ」経過のひとつ。
失敗が許されない、完璧を求める風潮が強い現代ですが、子どもたちにはたくさん「失敗」を経験しながら、作品作りを楽しんでもらいたいなと思いました。

2023年の『ヘボコン』大会は観戦可能(2023年8月26日〈日〉開催)。工作好き親子の夏休みの思い出に、また来年エントリーしたいという方は、ぜひ会場に足を運んでみてくださいね。

撮影/日下部真紀
取材・文/木下千寿

ヘボコンの記事は全2回。
前編を読む

【ヘボコン2023】

日時:2023/8/26(土)OPEN 17:30/START18:00
場所:東京カルチャーカルチャー(渋谷)
観覧:前売りチャージ券3,000円(税込み/入場時に1ドリンク別途購入必要)
観戦チケットはこちらから↓↓↓
https://tokyocultureculture.com/event/general/34554
大会詳細はこちら
https://dailyportalz.jp/kiji/hebocon2023-kokuchi
ヘボコン
https://dailyportalz.jp/hebocon

『雑に作る』共著:石川大樹(オライリー・ジャパン)
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いしかわ だいじゅ

石川 大樹

Ishikawa Daiju
『ヘボコン』主催・ヘボコンマスター

1980年生まれ、岐阜県出身。『ヘボコン』主催、ヘボコンマスター。本業は『デイリーポータルZ』編集。 小学生のころからパソコンに触れ、ゲーム作成するほか、作曲や文章を書いたりと、創作を楽しんでいた。 現在は電子工作でオリジナルの器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしている。 2021年、2022年高専ロボコンの審査員。 最新共著:『雑に作る』 ヘボコン https://dailyportalz.jp/hebocon デイリーポータルZ  dailyportalz Twitter @ishikawa_daiju

1980年生まれ、岐阜県出身。『ヘボコン』主催、ヘボコンマスター。本業は『デイリーポータルZ』編集。 小学生のころからパソコンに触れ、ゲーム作成するほか、作曲や文章を書いたりと、創作を楽しんでいた。 現在は電子工作でオリジナルの器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしている。 2021年、2022年高専ロボコンの審査員。 最新共著:『雑に作る』 ヘボコン https://dailyportalz.jp/hebocon デイリーポータルZ  dailyportalz Twitter @ishikawa_daiju