『ヘボコン』ヘボいロボットコンテストがジワりとウケる 絶対条件は「低い技術力」!
ヘボコンマスター・石川大樹さんに聞く、“ヘボい”ものを評価したいという想い ~前編~
2023.08.08
『ヘボコン』主催・ヘボコンマスター:石川 大樹
技術力の低い人限定ロボコン、通称『ヘボコン』。
子どもから大人までロボットづくりの素人たちが、無理矢理仕立てた自作ロボットを手に、気の抜けた戦いを繰り広げます。そう、この大会では“腕に覚えのないもの”が勝者となるのです!
2023年は、8月26日(土)東京・渋谷にて『ヘボコン2023』が開催。
そんなユニークな大会の発起人でもあり、ヘボコンマスターの石川大樹さんに、大人も子どもも楽しめる『ヘボコン』について解説していただきました。
(全2回の前編)
技術力が低いことが必須!
──まず、『ヘボコン』とはどんな大会なのでしょうか?
石川大樹さん(以下、石川さん):『ヘボコン』の“ヘボ”は、日本語の「ヘボい」から来ているのですが、『ヘボコン』とは、“技術力が低い人たちのためのロボット大会”です。ロボット同士を競わせるロボットコンテスト『ロボコン』のパロディから始まりました。
石川さん:『ロボコン』は、高専学生や大学生など、工学を専門的に学ぶ人たちが、技術をつぎ込んで対戦する大会ですが、『ヘボコン』はその逆。技術を学んでもいないし、ロボットを作る技量も、あるいは根気もないような人たちが、無理矢理おもちゃを改造したりして“ロボットっぽいもの”を作り、戦わせます。
──参加方法や参加者の層について、教えてください。
石川さん:参加したい方は、『ヘボコン』のホームページからエントリーしてもらい、抽選で出場する32組を決定します(※2023年の募集は終了)。
本来ならば地区予選をやり、全国大会をやるというのが本筋かと思うのですが、いかんせんヘボいロボットなので、予選をやると本体が壊れてしまう可能性もあって(笑)。
参加者の層は、親御さんに連れられた赤ちゃんから、現役を引退された元エンジニアの方まで。老若男女幅広く、男女比は6:4といったところです。
──どのような試合の流れなのでしょうか?
石川さん:試合形式はロボット相撲です。大まかに言うと、土俵から先に出る、もしくは転倒したら負け。
トーナメント戦なので、一応“勝ったほうが勝ち”ということで試合を進めていきますが、『ヘボコン』の特色としては、勝つことに重きをおいていません。
『ヘボコン』において、優勝や準優勝、というのはすごく価値が低い賞ということになります。というのも、試合を勝ち上がるのは、やっぱり“よくできたロボット”ということだから。
我々のイベントには、「ヘボいものを評価したい」という軸があるので、『ヘボコン』的に最も名誉あるグランプリは、“最ヘボ賞(最も技術力の低かった人賞)”です。これは、会場投票で決めることにしています。
“ヘボさ”を伝えるプレゼンテーションが楽しみのひとつ
石川さん:また、『ヘボコン』のもうひとつの特色は、試合が始まる前に参加者に登壇してもらい、自作のロボットの“ヘボい”ところについて、必ず説明してもらうということ。
『ヘボコン』的というか、僕的には、これが32回聞けるというのがメインの楽しみで、対戦はほぼオマケ感覚なんです(笑)。というのも、先に自分のロボットのいわゆる弱点をさらけ出し、そのうえでヘボさを楽しむことを大事にしているので、ロボットイベントというよりは、トークショー的な側面が強いかもしれません。
──皆さん、ロボットを作る技術がない中で、どのようにロボットを作っているのでしょうか。
石川さん:おもちゃをベースにしたものが多いのと、『TAMIYA』の工作キットを活用している方がたくさんいらっしゃいますね。工作キットを2つ組み合わせたりする人もいますね。それからミニ四駆や100均ショップで売られているプラレール的なものもよく登場します。
ハプニングあってこその『ヘボコン』
石川さん:試合的にはロボット相撲大会なので、とにかく前進すればOK。進めば相手を押すことができますから、ロボットとして進めば問題ありません。
──“ロボット”と聞くとスムーズに動き、驚くような機能を備えているというイメージが強いですが、『ヘボコン』では技術的に稚拙なロボットばかりが登場するわけですね。
石川さん:はい。パーツが外れたり、動かなかったりとロボット自体の出来が拙いという面白さもありますし、大会当日に会場で起こるさまざまなハプニングも、ヘボさとして採点要素になります。
石川さん:昨年(2022年)のことですが、プログラミングできるレゴを使ったロボットでエントリーされた親子がいました。試合開始直前、操作・制御のためのタブレットを開いたら、そこでなんとファームアップデート(ソフトウェアのアップデート)が始まり、タブレットが一時使用不能になってしまうという事態に(笑)。2022年の最ヘボ賞は、その親子が受賞されました。
世界大会では最後に札束がまかれるアクシデントが!
石川さん:また僕の記憶に残っている最ヘボ賞というと、2016年に行われた世界大会にエントリーしたロボットです。
リモコンを3つぐらい繫げていて、箱の中におもちゃの札束を装塡、モーターを使って箱の上でローラーを回し、札束を飛ばすという凝ったつくりでした。
しかし、いざ動かそうとしたら、製作者がどのリモコンで操作するのか混乱してしまい、試合中にはその力を発揮できず。そして負けが決まった瞬間に、なぜか動き出して札束をぶわーっとまき散らしたんです!
石川さん:まるで、断末魔の叫びのような光景でしたね(笑)。めちゃくちゃ面白くて、まさに“世界大会の最ヘボ賞”にふさわしいロボットだと思いました。
『ヘボコン』の副賞は審査員から
──『ヘボコン』の審査員は、どのような方をお呼びしているのでしょうか?
石川さん:審査委員は、いつも2名ぐらいで、大会ごとに違う方をお呼びしているのですが、必ず一人はエンジニアリング方面の方です。例えば、電子部品を販売しているお店の方や、NHK『ロボコン』の運営側の方など。
もう一人は、劇団の方やYouTuberの方など、エンターテイメント方面からお願いしています。
ちなみに審査員賞も設けていて、副賞は審査員の方に準備していただいています。これも『ヘボコン』的には名誉ある賞なので、ぜひ楽しみにしていただきたいですね。
──参加者の方々は、それぞれどんなところに楽しみを見出しているのでしょう。
石川さん:楽しみ方は子どもと大人で違っていますね。
石川さん:小学校低学年ぐらいのお子さんは、ロボットバトルのつもりで本気で勝ちに来ている子が多くて。例えば、おもちゃを改造して作ったロボットは、おもちゃ自体にパワーがある。そうすると試合には勝てるんですよね。
『ヘボコン』は、勝敗に重きをおいていませんが、お子さんとしては自分が作ったものが活躍できる場と捉えてもらっているのかなと思っています。
石川さん:大人の参加者にとっては、自分が知恵も技術もないなりに全力で作った“冗談”を見せに来る、という場でしょうか。ヘボさというギャグを披露するのが楽しくて参加しているという方が多いと感じています。
勝負という点で考えれば、大人も子どもも平等なので、小さい子どもでも勝てる可能性があるというのは『へボコン』の魅力だと思っています。
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小さなお子さんから大人まで、一緒になって楽しめる『ヘボコン』。
この夏、親子で一緒に“ヘボい”ロボットを作ってみてはいかがでしょうか?
後編ではヘボコンが生まれた経緯や、記念すべき第1回大会の様子のこと、そしてロボットの“ヘボさ”が教えてくれることについて、お話しいただきます。
撮影/日下部真紀
取材・文/木下千寿
ヘボコン記事は全2回。
後編を読む
(後編は2023年8月9日公開。公開日までリンク無効)
【ヘボコン2023】
日時:2023/8/26(土)OPEN17:30/START18:00
場所:東京カルチャーカルチャー(渋谷)
観覧:前売りチャージ券3,000円(税込み/入場時に1ドリンク別途購入必要)
観戦チケットはこちらから
https://tokyocultureculture.com/event/general/34554
大会詳細はこちら
https://dailyportalz.jp/kiji/hebocon2023-kokuchi
ヘボコン
https://dailyportalz.jp/hebocon
石川 大樹
1980年生まれ、岐阜県出身。『ヘボコン』主催、ヘボコンマスター。本業は『デイリーポータルZ』編集。 小学生のころからパソコンに触れ、ゲーム作成するほか、作曲や文章を書いたりと、創作を楽しんでいた。 現在は電子工作でオリジナルの器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしている。 2021年、2022年高専ロボコンの審査員。 最新共著:『雑に作る』 ヘボコン https://dailyportalz.jp/hebocon デイリーポータルZ dailyportalz Twitter @ishikawa_daiju
1980年生まれ、岐阜県出身。『ヘボコン』主催、ヘボコンマスター。本業は『デイリーポータルZ』編集。 小学生のころからパソコンに触れ、ゲーム作成するほか、作曲や文章を書いたりと、創作を楽しんでいた。 現在は電子工作でオリジナルの器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしている。 2021年、2022年高専ロボコンの審査員。 最新共著:『雑に作る』 ヘボコン https://dailyportalz.jp/hebocon デイリーポータルZ dailyportalz Twitter @ishikawa_daiju