「まず性的同意」 産婦人科医が伝える「パパママの性教育アップデート」とは

えんみちゃん・遠見才希子先生の「性教育アップデート」#1〜性の学び直し編〜

産婦人科医:遠見 才希子

避妊の話を押し付けることなく、フランクに話してくれた、えんみちゃんこと遠見先生。親しみやすい雰囲気が印象的でした。
写真提供:遠見才希子
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モデルの益若つばささんが、自身のYouTubeチャンネルで装着したことを公表し、話題となった子宮内避妊具「ミレーナ」。子宮内に装着した器具から黄体ホルモンが出て、子宮内膜を育たせなくなる効果があります。

また、最近は、子どもを対象に正しい性教育の普及が急速に進みつつあります。性教育の絵本など、性をテーマにした子ども向けの書籍が数多く出版されるようになりました。

どんどん新しくなっている性の情報を、私たち親はどうアップデートすればいいのか、悩ましいもの。
そこで、正しい性知識の普及に向けて、幅広く活動する産婦人科医のえんみちゃんこと、遠見才希子先生に、最新の性の知識を教わりました。

第1回は、避妊を学ぶ必要性やパートナーとの関わりについて。

予期せぬ妊娠を防いで安全で満足できる性生活を

「真面目に楽しく性を考える機会を作りたい」との思いから、“えんみちゃん”のニックネームで、中高生に向けた性教育の講演活動を続けてきた産婦人科医の遠見才希子先生。これまでの講演数は900以上にも及びます。

現在は、大学院に在籍しながら非常勤で産婦人科に勤務。さらには、緊急避妊薬のスイッチOTC化に向けた「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」の政策提言や、安全な中絶・流産の情報を発信する「Safe Abortion(セーフアボーション)Japan Project」の代表など、妊娠・出産にまつわる活動を幅広く行っています。

性教育の講演を続けている遠見先生は、産婦人科医として働くうちに、教え方に変化が生じたと言います。

「大学生の頃は、“性に関する知識を教えてあげる”のではなく、同じ目線で一緒に考えるスタンスで講演していました。

今もその姿勢は変わっていませんが、講師として多くの人に伝える立場としては、生と性に関する健康と権利を意味する『セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR)』の視点が非常に大事だと気付かされました」

1994年の「カイロ国際人口開発会議」で提唱された概念である「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ」は、相手の権利を尊重しつつ、安全で満足できるセックスをすることや、子どもを産むか産まないかを含め、自分の体のことを自分で決められる権利です。

「日本の性教育には、『セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ』の視点が欠けていると感じます。正しい知識を伝えることは大切ですが、『中絶は命をつむ行為だから、確実に避妊しましょう』と教えられても、それは脅しでしかありません。

このような性教育を受けていると、予期せぬ妊娠が起きた時に自分が悪いと罪悪感を抱いてしまい、誰にも相談できなくなってしまうことも。女性が一人で抱え込んでしまうなどの問題にもつながります」

大学時代に講演活動をしているときの様子。スライドを使いながら、生徒と近い距離で話しています。
写真提供:遠見才希子

幸せな夫婦生活を長く続けるためにも権利尊重が重要

子どもの頃にしっかり性教育を受けていないため、避妊についてきちんと学ぶ機会がないままパパママになってしまった方もいることでしょう。夫婦間の避妊について、遠見先生は次のように述べます。

「『セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ』の中でキーになる要素に『安全で満足できるセックスをする権利がある』があります。

性には、
①妊娠・出産するための生殖の性
②相手とのつながりで安心感を得る連帯の性
③気持ちよさを追求する快楽の性
の3つの要素があると言われています。

パートナーとの親密度を高めたり、心地よさを感じたりできるのは、安心できる状況があってこそだと思います。たとえば、生殖の性のフェーズを終えた夫婦の場合、妊娠の不安を抱えたままセックスをしていたら、連帯や快楽にはつながりにくくなってしまいます。夫婦生活において、安心できるセックスをするために、避妊について正しく知り、選択できることはとても重要です」

遠見先生は「夫婦間のセックスで避妊に失敗し、緊急避妊薬を必要とされる人もいます」と言います。これまでやってきた方法で“なんとなく避妊する”のではなく、夫婦生活をよりよくするためにも、改めて避妊について見直してみることが大切のようです。

「性は、年齢や性別に関わらず誰もが当事者になりうる問題ですが、妊娠に関しては基本的には男女のセックスで成立します。妊娠は2人の問題であるものの、実際に影響があるのは女性の体です。そのため、『産むか、産まないか』を決める最終的な体の自己決定の権利は女性にあります。男性側も女性の権利や決定を尊重すべきです」

とはいえ、男性にできることもたくさんあると遠見先生は言います。

「男性は、パートナーと同じ目線で考え、パートナーの選択を尊重することが大切です。たとえば、女性から「低用量ピルの飲み忘れがないように声掛けをしてほしい」という希望があれば、そのサポートができます。

また、飲み始めは吐き気や頭痛、不正性器出血などのマイナートラブルが起こるケースもあります。セックスをする気分になれない時には、その気持ちを理解しましょう。

コンドームよりも高い避妊効果がある低用量ピルやミレーナなどの子宮内避妊具は、産婦人科などの受診が必要で避妊目的の場合は保険適用がありません。時間的、金銭的、身体的な負担があることも知っておきましょう。

また、これらは性感染症の予防はできないため、コンドームを併用する、お互い性感染症の検査を受けるなど、どうするのが二人にとっていい方法なのかを話し合えるといいですね」

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