パートナー間の性生活を考える上で、避妊について見直すことはとても大切です。
パパママに向けた最新の避妊方法や海外の避妊事情について、産婦人科医の遠見才希子先生に教えてもらいました。(全2回の2回目。#1を読む)
手に入りやすいコンドーム でも避妊効果は高くない
大学時代から“えんみちゃん”のニックネームで中高生に向けた性教育の講演を900回以上も行う産婦人科医の遠見才希子先生。
「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」の政策提言や、安全な中絶・流産の情報を発信する「Safe Abortion(セーフアボーション)Japan Project」の代表、2021年7月には子ども向けの絵本『だいじ だいじ どーこだ?』を上梓するなど幅広く活動しています。
第1回目(#1)では、体の自己決定の権利を表す「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ」の視点から、性生活の権利や、避妊の大切さ、夫婦のコミュニケーションについてお話してもらいました。
今回は、パパママが押さえておきたい具体的な避妊方法やその選び方、日本の避妊事情について伺います。
「現在、日本で選択できるおもな避妊法は、コンドームと低用量ピル、子宮内避妊具の3つです。そのなかで一番手に入りやすいのは、ドラッグストアやコンビニでも購入できるコンドームです。ただし、コンドームは必ずしも避妊効果の高い方法とは言えません。
避妊の効果を表す『パール指数』と呼ばれるものがあります。これは、“100人の女性がある避妊法を実践した場合、1年後に妊娠する人数”を表したもので、数字が低いほど避妊効果が高いと言われています。
コンドームを一般的に使用したときのパール指数は13%。コンドームの場合、破れたり、外れたり、腟内に残ってしまったりするなどの失敗が起きることがあるからです」
コンドームと比べると高い避妊効果があるとされる低用量ピルのパール指数は7%。さまざまなメリットがありますが、注意点もあると遠見先生は言います。
「低用量ピルの場合は、飲み忘れの問題があります。低用量ピルは、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)という2種類のホルモン剤を合わせた飲み薬で、排卵を抑える効果があり、毎日だいたい同じ時間に服用する必要があります。
WHOが出版した『避妊・家族計画 提供者のためのグローバルハンドブック』では、低用量ピルもコンドームと同様に“使用する人に依存する避妊法”と明記されています。これは、避妊効果が使う人に委ねられていることを意味します」
低用量ピルの場合、婦人科系の治療目的など避妊以外の目的で使用する人もいます。
「低用量ピルの主作用は避妊ですが、月経困難症や過多月経、PMS(月経前症候群)、ニキビの改善に加え、卵巣がんや子宮内膜症を防ぐ効果もあると言われています。
日本の場合、避妊目的のピルはOCと呼ばれ、保険適用されません。自費で1ヵ月分が2500円から3000円くらいかかります。一方、月経困難症などの治療目的のピルはLEPと呼ばれ、保険適用されて1ヵ月分が700円から2500円くらいになります」
メリットもある反面、低用量ピルに含まれるエストロゲンには、少なからず血栓症のリスクが生じる可能性があります。
「低用量ピルによる血栓症は、妊娠中や産後に起こる頻度よりは少ないものの年間1万人あたり3〜9人起こると言われています。加齢や喫煙などによってリスクが高まるので、基本的に40歳以上などは慎重投与です。症状に注意しながら40歳以降も続けることも、別の方法に切り替えることもあります」
最近は子宮内避妊具のミレーナが増加
一方、近頃増えているのが、子宮の中に装着すると長期間高い避妊効果を保てる「ミレーナ」という子宮内避妊具(LNG-IUD)です。
「ミレーナは、T字型をした3cmくらいの柔らかいプラスチック製の器具から黄体ホルモンが放出され、子宮内膜を育たせなくさせる効果があります。避妊効果と同時に月経の痛みや経血量を減らす効果もあります。
避妊目的の場合は、自費で7万円くらいですが、月経困難症などの症状がある方の場合は保険適用されて、1万円くらいで挿入できます。低用量ピルのように血栓症のリスクがないため、40代以上の方にも適しています。
また、「ノバT」という子宮内避妊具(銅付加IUD)は、器具に付加された銅に受精を妨げる効果があります。避妊が不十分だったセックスのあと、120時間以内に子宮の中に装着すると、緊急避妊として使用できます。費用は自費で3万円くらいです。
これらの子宮内避妊具は、低用量ピルのように毎日服用する必要がなく、1回挿入すれば5年間使用できるメリットがあります。卵管をしばったり、切ったりする不妊手術と異なるのは、可逆的な避妊法だということ。妊娠を望むなど気が変わった場合は、器具を抜けば元の状態に戻ります」
子宮内避妊具を入れた後は、1年以内に2〜3回、それ以降は1年おきに定期的にエコーで位置を確認します。LNG-IUD(ミレーナ)のパール指数は0.1〜0.4%、銅付加IUD(ノバT)は0.8%と、避妊効果が高いことがわかります。
一方、気になるのが子宮内避妊具を挿入する際の痛みです。
「経腟分娩の経験のある方は比較的挿入しやすく、痛みを感じない人もいます。ただ、分娩経験によらず痛みを感じる人もいるので、かなり個人差があるといえます。処置の前に痛み止めを飲んでもらうほか、医療機関によっては局所麻酔を行うなどして対応します。
処置は、内診台で5分くらいです。挿入管のなかにミレーナをまっすぐにセットし、子宮の中でT字に開きます。糸は子宮口から2〜3cmくらいに切るため、性交渉をしても違和感ある人はほとんどいません。5年経ったら、この糸を引っ張って器具を取り出します」
夫婦間でも起こる避妊の失敗と海外の避妊事情
欧米では、「避妊インプラント」や「避妊注射」、「避妊パッチ」など、子宮内に器具を入れることに抵抗がある人でも可能な避妊方法があるそうです。
「避妊インプラントは、局所麻酔をしてマッチ棒くらいの長さのスティックを上腕に埋め込む方法です。婦人科の内診台に上がらなくていいメリットもありますよね。
避妊注射は、3ヵ月に1度、自分でお腹に注射をします。避妊パッチは、お腹にパッチを1枚貼るだけ。1週間おきに貼り替えれば、効果が持続します。
中には、ユースクリニック(※1)などで、多様な避妊法を若者に無償で提供している国もあります。他国の選択肢の多さやアクセスのしやすさを見ていると、日本の状況には疑問を感じてしまいます」
※1=10代〜20代が、性や避妊、妊娠などの悩みを無料で相談できる機関
もう一つ、避妊に失敗した時などに服用する緊急避妊薬があります。
「日本で緊急避妊薬が必要になる理由としてもっとも多いのが、コンドームの破損や脱落です。緊急避妊薬は排卵を遅らせる効果があるため、セックスの後72時間以内に服用すると高い確率で妊娠を防ぐことができます。できるだけ早く服用すると、より効果的です」
緊急避妊薬は、日本では医師の診療と処方箋が必要なことに加え、費用負担も大きい(6000円から2万円程度)など、アクセスのしにくさも特徴のひとつ。
この現状を変えようと署名や政策提言などの活動をしているのが遠見先生も携わる「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」です。
「緊急避妊薬へのアクセスは、女性の権利です。にもかかわらず、受診や金銭的なハードルの高さから入手を断念せざるをえない人がいる状況です。お金や知識に関係なく、すべての女性がアクセスできるものではなくてはいけません」