きょうだい児や子どもを亡くした遺族にもケア 「こどもホスピス」の家族への寄り添い方とは

「こどもホスピス」#4 ~グリーフケアときょうだい児ケア~

フリーライター:浜田 奈美

誰にも遠慮せず同じ境遇の子と自分らしく過ごす時間

昨年(2024)7月、北海道の支笏(しこつ)湖に、大阪府や愛知県、神奈川県からやってきた子どもたち13人が集まり、3泊4日のキャンプ生活を楽しみました。支笏湖でカヌーに挑戦したり、思いきり水遊びをしたり、森を探検したり、夜には焚き火を囲んでおしゃべりしたり……。

子どもたちには共通点がありました。厳しい病と闘っているきょうだいがいることです。闘病する子どもたちの総称「病児」に対し、こうした子どもたちは「きょうだい児」と呼ばれます。

そしてこのキャンプは、「うみとそらのおうち」(略称うみそら)を中心に、大阪や愛知、北海道の各地のこどもホスピスプロジェクトが共同で、各団体がサポートを続けるきょうだい児たちのために開いたものです。

この「きょうだい児キャンプ」を中心となって進めたのは、うみそらスタッフの本多貴子さんです。本多さんは、うみそらの利用者を支える中で、「きょうだい児ケア」の必要性を感じてきたといいます。

「重い病気のきょうだいがいるとか、亡くなったきょうだいがいるといったきょうだい児さんの経験は、学校とかで話せないものです。同じ境遇の子どもたちと出会うことで、『自分だけじゃない』と思える機会があるといいなと思いました」

重い病の子どもがいる家庭では、必然的に親が病児の看病にかかりきりになり、結果的にきょうだい児が親と過ごす時間は割愛されがちです。

きょうだい児自身、闘病中のきょうだいを「大変なのだから」と気遣い、親に甘えたい気持ちを押し殺したり、家族で過ごしていても、何かと遠慮しがちな傾向があります。

本多さんや各地のプロジェクトのスタッフは、各自で「きょうだい児ケア」に取り組みつつ、当事者同士でつながれる場を提供しようと、支笏湖でのキャンプを企画しました。

初日には、スタッフから子どもたちに、こんな説明をしました。

「ここにいるのは、同じようにきょうだいが重い病気と闘っている友達です。仲間を大切にしながら、いろんなことに挑戦して楽しい時間を一緒に作りましょう」

子どもたちはほぼ全員、一緒に過ごすのが初めてのため、最初は少しぎこちないけれど、例えば森を散策中、こんな会話が交わされました。

「どこの病院?」
「◯◯病院」
「うちと同じだ。すれ違ってたかもしれないね」
「マジで?」

さりげない会話から、同じ境遇にある子どもの間で心の対話が始まりました。こんなとき、大人が子ども同士の会話に介入することはありません。本多さんはこう話します。

「大人たちも活動を共に楽しみながら、子どもの心が自然にほぐれるのを待ち、寄り添いました。きょうだい児たちがとにかく自由に、安心して、自分の思いを共有できる仲間と過ごしてもらうことを最優先に考えました」

日ごろ家族を気遣い、とかく自分の「行きたい」「やってみたい」を我慢して生きるきょうだい児が、その境遇にいるのは「自分だけじゃない」と実感し、誰にも遠慮せずに自分らしく過ごしてもらおう──。それがキャンプの目的でした。

「きょうだい児キャンプ」で、きょうだい児たちは北海道の森の中を歩き、湖で思いきり水遊びを楽しんだ。  写真提供:うみとそらのおうち
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きょうだい児は優しい

本多さんは、4日間で「改めて気づいたことがある」といいます。

それはきょうだい児たちの「優しさ」です。一人でいる子どもがいると、必ず誰かが声をかけたり、そっと隣に座ったりするので、誰も独りぼっちの状態ではなくなるのです。

「大人が『あの子、独りぼっちだな』と気づいて声をかける前に、きょうだい児の誰かが気づいて、独りでいる子に寄り添っているのです。その寂しさを誰よりも知っているから、優しくできる。きっと無意識なんだと思います」

本多さんは、うみそらの開設当初から、利用家族を対象に「きょうだい児イベント」を続けてきました。うみそらを利用する病児のきょうだいみんなで最寄りの動物園に行ったり、海水浴を楽しんだり。そしてやはりここでも、子どもの力を信じて、大人はコミュニケーションに介入せず、その場に寄り添い続けます。

本多さんは、看護師として修練を積みながらアウトドアガイドの資格を取り、実地経験を重ねて「キャンプナース」のノウハウを学んできました。経験上、子どもたちは自然の中で自由な時間を共に過ごすことで、感覚的に十分、分かりあえることを、実感してきたといいます。

「あなたはあなたのままでいいというメッセージを、大人が行動で伝えられたら、きょうだい児たちも、ここでは自分らしくいていいんだとリラックスできる。そういう場所を、一つでも多く提供したいと思います」

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