不安症、発達障害の子どもが「うつ病」に? 遺伝・環境・疾患…「うつ病になりやすい子ども」の特徴と治療 専門医が解説
子どものうつ病#2 ~うつ病の診断・治療~
2024.12.03
北海道大学病院子どものこころと発達センター特任教授、児童思春期精神医学専門医:齊藤 卓弥
齊藤卓弥先生(以下、齊藤先生) 一般的にうつ病は、①遺伝的要因と②環境的要因、その両方が影響しあって発症すると考えられています。
①遺伝的要因とは、ひとつは両親や祖父母など身近な家族にうつ病の人がいること。遺伝の影響だけでうつ病になることはありませんが、罹患の確率が上がることがわかっています。
また、子どもに限らず、まじめ、がんばり屋、内向的、緊張しやすい、対人関係がうまく作れない性格の人は、うつ病になりやすい傾向にあります。
②環境的要因は、より影響が強いです。うつ病になるきっかけはさまざまで、例えばお子さんの場合、家庭不和や学校でのいじめ、転校・転居による生活環境の変化などが心身にストレスを与え、うつ病を招くケースがあります。
ただ、遺伝的要因と違って環境的要因は、問題を解決すれば罹患や悪化を防ぐことも。子どもの心の負担にならない環境を整えることは非常に大事だと思います。
発達障害からの“二次障害”でうつ病に
──「遺伝的要因」のほかに、うつ病になりやすい子どもの特徴はあるでしょうか?
齊藤先生 子どもの場合、大人以上にうつ病と別の精神疾患を同時に抱える併存症が多く見られます。うつ病のお子さんのうち、40~90%はほかの精神疾患を伴うといわれるほどです。
中でも多いのは、不安症。理由もなく突然激しい不安に襲われるパニック症、人前に立つと激しい不安や緊張、恐怖を感じる社交不安症(対人恐怖症)など、これらをまとめて不安症といいます。
うつ病と不安症、どちらが先になるかは人によりますが、不安症からだんだんとうつに高じていく“二次障害”としてうつ病を発症するお子さんが多いです。
また、発達障害、特にADHD(注意欠陥・多動症)のお子さんも“二次障害”としてうつ病になりやすい傾向にあります。ADHDとは、注意力が足りない、落ち着きがない、衝動的な行動をするのが特徴で、日常生活に困難が生じる場合に診断されます。学童期の子どもの3~7%はADHDであるという調査結果もあり、子どもに多い脳の疾患です。
ADHDのお子さんは必要なケアがなされていないと、学校でも家庭でも𠮟責されたり理解されなかったり、ストレスをためながら生活することになります。そうした日々が続くと、だんだんと自己肯定感が下がってしまい、うつにつながりやすいわけです。
私が診察した小学校低学年のADHDのお子さんの話ですが、親御さんは「うちの子は忘れ物をしてもまったく気にしないので、つい怒ってしまう」と悩んでおられました。ところが、お子さんにうつ病のテストを受けてもらうと、「生きていてもしょうがないと思う」にチェックが付いている。ニコニコしているように見えても、本人は忘れ物をしたこと、親から怒られたことに傷ついているんですね。
発達障害の中ではADHDのほか、人とのコミュニケーションが苦手なASD(自閉スペクトラム症)も、うつ病を発症しやすいと言われています。読み書きや計算など、ある特定の学習が苦手なLD(学習障害)の子どもは、大人になってからうつ病になりやすいとの報告があります。
こうした発達障害からうつ病になる“二次障害”は、必要なケアがなされれば防げる病気です。子どものときだけではなく、うつ病は一生に関わることです。親御さんがお子さんの特性を理解し、医療機関やスクールカウンセラーからサポートを受けるなどして柔軟に対応していくことが重要ではないでしょうか。
うつ病の起因となる問題を取り除いていく
──うつ病は、どのように診断・治療をするのでしょうか?