猫ひっかき病「感染者の6割が子ども」夏から増える原因と症状[研究の第一人者が解説]

「猫ひっかき病」前編 〜原因と症状〜

猫ひっかき病の主な症状

▲指先に受けた傷が原因で、脇のリンパが大きく腫れてしまった例 (提供:山口大学 大学院医学系研究科 大津山 賢一郎講師)
▲指先に受けた傷が原因で、脇のリンパが大きく腫れてしまった例
(提供:山口大学 大学院医学系研究科 大津山 賢一郎講師)
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――具体的には、どのような症状があらわれるのでしょうか。

常岡先生:
感染から1週間程度の潜伏期間があり、その後、猫に引っかかれたり咬まれたりしたときは、傷の周辺が虫に刺されたときのように赤紫色に腫れます。

さらに、その1〜2週間後、脇や首や鼠蹊部(そけいぶ)など、傷にもっとも近いリンパ節が腫れ、発熱するのが「定型例」といわれる典型的な症状です。

リンパ節の腫れは痛みを伴うことが多く、6〜12週間続いた症例も。また、全身倦怠感、悪心、嘔吐、頭痛、食欲不振などがあらわれることもあります。

猫ひっかき病の多くのケースがこの「定型例」で、全体の8割程度です。感染した猫による受傷がなくても、小さな傷口や目などの粘膜から菌が侵入すれば、感染し発症します。

猫に引っかかれたり咬まれたりした後、あるいは、猫と接触した後にリンパ節が腫れたのならば、猫ひっかき病だと判断しやすいでしょう。

難しいのが、「非定型例」といわれる残り2割のケースです。

リンパ節が腫れずに重症化することも

▲10歳男児の症例:原因不明の熱が数週間続き、精密検査で肝臓に結節性病変が複数見つかり「猫ひっかき病による肝肉芽腫(かんにくげしゅ)」と診断された
▲10歳男児の症例:原因不明の熱が数週間続き、精密検査で肝臓に結節性病変が複数見つかり「猫ひっかき病による肝肉芽腫(かんにくげしゅ)」と診断された

常岡先生:原因不明の発熱、視力が低下する「視神経網膜炎」、肝臓や脾臓に肉芽(にくげ)組織ができる「肝脾肉芽腫(かんぴ・にくげしゅ)」、心臓の内膜に炎症を起こす「心内膜炎」など、さまざまな全身性の重い症状があらわれます。ひとつだけではなく、複数の症状があらわれることもあります。

例えば、ある10歳男児の症例では、原因不明の熱が3〜4週間続き、病院で精密検査を行ったところ、肝臓に結節性病変が複数見つかり「猫ひっかき病による肝肉芽腫」と診断されました。原因は、野良猫との接触だと考えられます。

このように猫ひっかき病の典型的な症状であるリンパ節の腫れがなく、発熱だけが続くこともあり、腫れがないほど発熱期間は長い傾向にあります。

非定型例ではほかの疾患との判別が難しいため、医療機関を受診する際は、猫との接触があることを伝えることが大切です。

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「猫ひっかき病」記事は前後編。今回の前編では「原因と症状」について詳しく解説しました。

後編では、猫に引っかかれたときの処置や猫ひっかき病の治療、家庭でできる予防方法について、引き続き常岡英弘先生に伺います。

※掲載の図解・イラストは、山口大学大学院医学系研究科・大津山 賢一郎講師よりご提供いただいた資料をもとに作成しました

【プロフィール】
国立大学法人 山口大学大学院医学系研究科保健学専攻(山口大学医学部保健学科)
常岡 英弘 教授(特命)

猫ひっかき病研究の第一人者。臨床微生物学を専門としており、特にバルトネラ・ヘンセレ感染症の診断法の開発とその感染実態を中心に研究を進めている。

国立大学法人 山口大学大学院医学系研究科保健学専攻(山口大学医学部保健学科)
大津山 賢一郎 講師

猫ひっかき病研究の第一人者である常岡教授を師事。ネコに対する猫ひっかき病のワクチン開発を目指し、病原菌であるバルトネラ・ヘンセレの研究を行っている。

取材・文/星野早百合

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ほしの さゆり

星野 早百合

ライター

編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。

編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。