
猫ひっかき病「感染者の6割が子ども」夏から増える原因と症状[研究の第一人者が解説]
「猫ひっかき病」前編 〜原因と症状〜
2025.08.04
ネコノミを介して感染、「重症化」する場合も
――猫ひっかき病とは、どのような病気でしょうか。
常岡英弘先生(以下、常岡先生): 猫ひっかき病は、「バルトネラ・ヘンセレ」という細菌に感染した猫に、引っかかれたり咬まれたりすることで引き起こされる感染症です。
猫じたいは感染しても無症状ですが、人の場合、リンパ節の腫れや発熱が数週間続くなど、さまざまな症状があらわれ、免疫力が下がっていると「重症化」するケースもあります。

常岡先生:感染した猫から人へ、細菌を媒介する“運び屋”の役割をしているのが、ネコノミです。
この菌に感染した猫は、血液中の赤血球の中に菌がいる状態です。
感染した猫にネコノミが寄生して血を吸うと、ノミの体内で菌が増殖し、菌を含んだフンが猫の体の上に排出されます。
そのため、猫が体を掻いたり舐めたりしてグルーミング(毛づくろい)をしたとき、菌を含んだフンが、猫の爪や口の中に付着します。
このようにフンが付いた状態の爪や口で、人を引っかいたり咬んだりすると、傷口から菌が侵入し、猫ひっかき病に感染してしまうのです。
【注:バルトネラ・ヘンセレに感染した猫は、血液、口腔内・唾液、目ヤニなどからも菌が検出されており、これらはすべて人への感染源となります。家庭内で飼っている猫の場合は、屋外へ出さないようにするのが、感染防止に重要です】

(提供:山口大学 大学院医学系研究科 大津山 賢一郎講師)
常岡先生:また、引っかかれたり咬まれたりしなくても、感染した猫と接触すれば、小さな傷口や目の粘膜(※)から菌が侵入して感染することもあります。
(※:バルトネラ・ヘンセレに汚染した手で目をこすると目の粘膜から菌が侵入する可能性がある)
「飼い猫なら大丈夫」と思われるかもしれませんが、日本で、飼い猫がバルトネラ・ヘンセレを保菌している割合は、10%前後だと見込まれています。野良猫なら、さらに保菌率は上がるでしょう。
猫ひっかき病は、ほとんどの場合が猫からの感染で全体の約9割。
ネコノミは犬にも寄生するため、残りの約1割は犬からの感染です。また、わずかですが、猫や犬を介さず、ネコノミに刺されて直接感染したケースも数例あります。
そういう意味で、「猫ひっかき病」と呼ばれてはいますが、「バルトネラ・ヘンセレ感染症」というべきだと私は考えています。
感染者は夏以降に増え、6割以上が子ども
――猫ひっかき病は、季節性のある感染症なのでしょうか。
常岡先生:一年中ある病気ですが、夏から増え始め、9月から2月にかけて感染者が増えます。理由はやはりネコノミが深く関わっていて、夏はノミの繁殖期なのです。ノミが増える夏に猫が感染し、感染した猫との接触などで人にも広がります。
また、猫の出産シーズンとも重なり、子猫が増えるのも理由のひとつでしょう。感染した猫からノミを直接うつされるほか、毛づくろいをし合ったり、引っかかれたり咬まれたりすれば、猫の間でも感染が広がります。特に子猫は免疫力が低いため、感染しやすいのです。
――どのような人が感染しやすいのでしょうか。
常岡先生:感染者は子どもが圧倒的に多く、私たちが行った調査では、0〜14歳が全体の66%を占めています。

常岡先生:中でも多いのが、5〜14歳。理由としては、猫、特に野良猫と接触する機会が多いこと、無防備な状態で接触していることが考えられます。
子どもは猫への好奇心も強いですから、過剰な接触をして猫を興奮させてしまい、引っかかれたり咬まれたりするケースが多いのではないでしょうか。
猫ひっかき病は感染しても保健所に届け出る義務がなく、正確な数字は把握できませんが、全国の感染者数は年間で1万人程度と推測されます。
猫を飼っている家庭はもちろん、猫、特に野良猫と触れ合う機会がある人、外を散歩させる犬を飼っている家庭など、誰でも感染する可能性のある病気です。