「前向き意識」が最下位! 日本の子どもに「エージェンシー」が必要なワケ
教育学者・末冨芳教授「こども基本法」と「子どもの権利」#3〜小学生の意見表明権とエージェンシー〜
2022.06.24
教育学者・日本大学文理学部教育学科教授:末冨 芳
日本財団の2022年調査で日本の若者の国・社会への前向きな意識が6ヵ国中(インド、韓国、中国、イギリス、アメリカ、日本)最下位であることが明らかになりました。
「子どもたちがそうなったのは大人に責任がある」と、鋭い指摘をするのは教育学者で日本大学教授の末冨芳(すえとみかおり)先生。
子どもたちが国や社会のことを自分ごととして前向きに考えるように育てるには、小学生くらいから「意見表明権」を尊重し、「エージェンシー」をはぐくむことが大切と語ります。
※#1、#2を読む
社会のイノベーション(進歩)には子どもの“意見表明権”が重要
こども基本法には、子どもの意見表明権が位置づけられています。
子どもの意見の表明権、そしてそれを大人たちが尊重することは、私がこの国の“あたりまえ”にしたいことです。
第3条第3項
「全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会及び多様な社会的活動に参画する機会が確保されること」
第3条第4項
「全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること」
小学生の時期からは、家庭でも学校でも子どもの意見表明権を大切にすることが、大人になってからも子どもたちが活躍するためにとても大切になると私は考えています。
子どもの意見や声を聴き、大人たちが大切にすること、それが日本で進めば、この国と社会はもっと前向きに良いイノベーション(進歩)が増えていくとも考えています。
子ども・若者の声が封じられ「エージェンシー」が奪われている国・日本
子どもの意見表明権が重要なのは、日本の子どもと若者から「エージェンシー」が奪われているからです。
「エージェンシー」とはOECD(経済協力開発機構)が、2030年に向けての教育ビジョン“ラーニング・コンパス”(学びの羅針盤)で示している考え方です。
OECD教育スキル局でアナリストとして活躍された実績のある白井俊さん(文部科学省)は、その考え方を次のように説明しています。
「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任を持って行動する能力」
「自分たちが実現したい未来を、そもそも自分で考えて、目標を設定し、そのために必要な変化を実現するために行動にうつしていく」スキル
(引用:白井俊著『OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来:エージェンシー、資質・能力とカリキュラム』2020年、ミネルヴァ書房_ P.79〜80より)
環境問題、人口減少、ロシアのウクライナ侵攻など国際紛争の深刻化、決して明るくない時代だからこそ、これからの子どもたちには、家族・地域・国や時には国境を越えて、協力しあい問題解決をしていくスキルが求められます。
そのためのスキルとして重視されているのが「エージェンシー」です。
この力を発揮するためには、子どもたちが、自分たちで判断したり、行動したり、何より社会をより良くしていこうという気持ちが必要です。
それを支えるのは自分を大切に思う気持ち「自己肯定感」です。
しかし、日本の子ども・若者たちは、国際的にみて自己肯定感も高くなく、社会への参画意識を持つ子ども若者も少ないという多くのデータが示されてきました。