『はたらく細胞LADY』に学ぶ最強の性教育自習本! 知っているようで知らない最新性知識

10代の子と親が知っておきたい「性」の新知識 #1~自分の守り方編~

医療ライター:及川 夕子

漫画『はたらく細胞LADY』に登場する細胞キャラ、マクロファージ。  引用:『はたらく細胞LADY 10代女性が知っておきたい「性」の新知識』『はたらく細胞LADY(モーニング KC) 』(講談社)

思春期に起こる体の変化と性について、子どもにどう伝えたらいいか。今は、親世代が学んだ性教育から変化もあって、ママパパは悩むところです。

2022年11月に発売された『はたらく細胞LADY 10代女性が知っておきたい「性」の新知識』(講談社)は、10代女性の心と体の変化について学べる「性教育の自習対策本」として話題です。

体内の細胞たちを擬人化した漫画『はたらく細胞LADY』のキャラクターたちが、性の知識をわかりやすく解説。全国学校図書館協議会の選定図書にも選ばれました。

著者で医療ライターの及川夕子(おいかわ・ゆうこ)さんに出版の経緯や本書に込められた思いを聞きました。

※1回目(全4回)

及川夕子(おいかわ・ゆうこ)PROFILE
医療ライター。新聞社勤務を経て、記事の企画、編集、執筆を手がけるフリーランスに。近年は、女性の美容&ヘルスケア、医療を中心に活動。

著者で医療ライターの及川夕子さん。記事を通して社会課題と向き合ってきた経験が、本書への切実な思いにつながっていると感じました。  Zoom取材にて

「自分が学びたい」リアルパパの編集者が企画

医療ライターとして、HPVワクチンや性暴力、ジェンダーなどさまざまな社会課題と向き合い続けてきた及川夕子(おいかわ・ゆうこ)さんは、『はたらく細胞LADY 10代女性が知っておきたい「性」の新知識』の出版の経緯を次のように話します。

「本書を作ることになったのは、男性の編集者さんから声をかけてもらったことがきっかけです。私は普段から女性が抱える困難について記事を書いたり、SNSで発信したりしています。

『なんとかしないといけない』と思う反面、女性ばかりが課題感を持っている現状にヤキモキしていたので、男性が女性向けの性教育本を企画したと聞き、とてもうれしかったのです」(及川さん)

本書を企画した編集者は、中学1年生女子の父親。「自分が性教育を学ぶ必要性を感じていた」と当時を振り返ります。

「娘に何か伝えたくても自分が性に関する知識をほとんど持っていなかったので、書籍を作りながら理解を深めようと思いました。

もう一つ、本書を作るうえで、漫画『はたらく細胞LADY』の存在は大きかったです。『白血球(好中球)』や免疫細胞の『マクロファージ』などのキャラクターが働く様子から女性の体を学ぶことができる良書であり、この登場人物たちは性教育にも生かせると確信しました。

思春期には、心や体の変化に戸惑うこともあるでしょう。そういうときに『あのキャラクターたちのように自分の体内でも細胞たちが働いている』と想像するだけで、気持ちがラクになることもあると思います。細胞たちの視点に立つことで、心や体に生じる変化を身近に感じられるようになってくれればと考えました」(担当編集者)

漫画では、細胞たちの体の主である女性本人を「お嬢さま」と呼び、その「お嬢さま」を守るために働き続けるキャラクターたちが、性教育について親しみやすい印象を与えてくれます。漫画がベースになっていることで、子どもにも抵抗なく読んでもらえそうです。

子宮を構成する「平滑筋(へいかつきん)細胞」など、さまざまなキャラクターたちが登場します。  引用:『はたらく細胞LADY 10代女性が知っておきたい「性」の新知識』(講談社)より

ユネスコの「包括的性教育」をより実用的に

本書は、ユネスコが掲げる『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』をベースにしています。ガイダンスにある「包括的(ほうかつてき)性教育」とは、生殖に関する知識だけでなく、人間関係や性的同意、ジェンダー、多様性、体に関する自己決定権などを学ぶもの。人が幸せに生きるために必要な知識が盛り込まれています。

「まずは親御さんに読んでほしい」と及川さんが言うように、大人が読んでも「自分の体は自分だけのもの」と自身を大切に思う気持ちが大前提であることを、改めて教えられます。及川さん自身も包括的性教育を学ぶことで、気づいたことがあったといいます。

「幼稚園に通っていたころ、園長先生が私たち園児を膝に乗せてベタベタ触ってきたり、抱きしめたりすることがよくありました。『なんか変だ』と感じていたけど、大人のすることに対して『イヤだ』と言ってはいけないと思っていました。

自分の体に関する自己決定権や自分のプライバシーを守る『バウンダリー(境界線)』について知るうちに、『自分の体を許可なく勝手に触られたり、境界線を越えられたりしていたことがイヤだったんだ』と子どものころに抱えていたモヤモヤが腑に落ちました。

自分がされてイヤなことはイヤだと言っていいし、言われた相手も『イヤがっている』と相手の意思を受け止めればいい。このことは、年齢や性別を問わず知っていてほしいです」(及川さん)

ここで重要なポイントは、同意した後でも撤回できるということ。たとえば、「手をつないでいい?」と聞かれて「いいよ」と答えたけど、「やっぱりイヤ」と思ったらやめていいのです。

「本を読んでくれた知人から、『性的同意は知っていたけど、途中でやめてもいいことは知らなかった。聞いて安心した』と言われました」(及川さん)

このようなガイダンスの内容に加え、10代の女性が抱える悩みや生理用品の種類や選び方なども紹介するなど、より実用的であることも本書の特徴です。

「細かいケースに対処するには、性教育に関する知識だけでなく、具体的な内容に落とし込む必要がありました。そこで、自分自身の経験やSNSで挙げられた女性たちの声から10代の子が抱えそうなモヤモヤをリストアップし、分類しました」(及川さん)

集めたモヤモヤの中には、モヤモヤでは済ませられないようなケースが多々あり、SNSを通じて受ける性被害も数多くありました。また、中には性暴力とまで呼べるケースもあったといいます。

そこで本書では「自分を守るスキル」として、「NO(イヤなことははっきり拒否する)・GO(人の多いほうへ逃げる、その場から離れる)・TELL(信頼できる人に話す)」(※1)を伝えつつ、「ワンストップ支援センター」や「DV相談ナビ」など困ったときの相談先も掲載されています。

「10代の女の子が読むことを想定しているので、性暴力に触れることで重い印象にならないか心配しましたが、自分自身の経験やSNSで挙げられる声の多さから、取り上げる必要があると感じました。

いざ発売されると『すごくいい本ですね。男の子用も作ってほしい』と親御さんから感想をいただく機会が多いです」(及川さん)

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