「中高年」ばかりが決める国・日本 若者・女性が「決める人」になれない「偏った社会」

「決める立場」の多様性を考える 前編

髙崎 順子

政治や経済の上層部、つまり「決める立場」にいる人が、中高年男性に偏っている日本。若者や女性など、多様な属性が「決める立場」に立てないと何が問題なのか。(写真:アフロ)

日本では、「決める立場」にいる人の大半が、中高年の男性──その様子は主に政治・経済の場で見られます。

日本全体の人口の男女比はほぼ半々。そして、人口の約半分は50歳未満です。ですが、社会的な重要事項を決定する人々の顔ぶれは、その割合と異なっています。

たとえば、現在の衆議院議員は、全体の6割以上を50代~70代男性が占め、40代男性も含めると全議席の86%を「中高年の男性」が得ています。一方、女性議員は全年齢を合わせても、全議員の10%にも及びません。

経済界では、日本全国の社長は80%が50歳以上、かつ70代以上が25%と、高齢者への偏りが強く見られます。女性社長は日本全体で8.2%。こちらも高齢化が特徴で、現在の女性社長の約6割が60歳以上です。(※全国「社長年齢」分析調査(2022年)全国「女性社長」分析調査(2022年)、帝国データバンク)

先日発表された、第二次岸田内閣の新人事では、閣僚19人のうち女性は5名。同じく国会議員の中から選ばれる54人の副大臣・政務官には、女性は一人もいませんでした。

▲治部れんげ氏(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)

「決める立場」にある人々の性別や年齢の偏りは、社会制度や生活をめぐる仕組みを作る際に、強い影響を及ぼします。この偏りは世界で問題視され、改善が進められていますが、日本はアジアの中でも、偏りの強い国の一つであり続けています。

なぜ、このような状況になっているのでしょう。代表者の偏りの問題について、著作や講演会で多く発信し、東京工業大学で教鞭をとる治部れんげ准教授に伺います。

「男女平等」ではなく「男女共同参画」

「決める立場」にある人々の年齢・性別が大きく偏っている日本社会。その現状は内閣府が毎年発表している「男女共同参画白書」の第1分野として、冒頭にまとめられています。

治部准教授はまず、この白書の名前について注意を促します。

「『男女共同参画』という言葉は、日常では使わないものですよね」

この言葉が公的な場で使われるようになったのは、1990年代半ばから。1999年、性別によって差別的な扱いを受けない、男女平等な社会を推進するための「男女共同参画社会基本法」が制定されました。

翌2000年には5年ごとの見直しで対策を定める「男女共同参画基本計画」が始まり、続く2001年、政府内の担当機関が内閣府に「男女共同参画局」として設置されています。

「この法律ができた二十数年前の日本では、『男女平等』という言葉は政治・経済の場でとても嫌われていました。政府機関や法律に用いることに、強く抵抗する人々がいた。そこで『男女共同参画』という、分かりにくい言葉が選ばれた経緯があります」

「決める立場」が偏っている現状

「男女平等」の言葉が嫌われてきた政治の場、その実態を象徴する指標が、議員の男女比です。戦前の日本では女性に参政権がなく、長らく男性専用の場所として、仕組みや働き方が整備されてきました。

戦後の日本国憲法で女性にも男性と同じ参政権が認められましたが、それから70年以上経っても、地方議会・国会とも、女性の割合は低い状態が続いています。

地方議会や参議院では、90年代から女性の割合が増加していて、今は3割を超えています。しかし、立法府として強い力を持つ衆議院ではいまだに、女性議員は全体の1割弱しかいません。日本の人口は、ほぼ男女半々であるにもかかわらず。

出典:令和5年版 男女共同参画白書・第1分野・第1節より
上場企業の役員に占める女性の人数

「この男女の偏りのおかしさは、地理の偏りに置き換えてもらえると理解しやすいと思います」

「日本を南北に分けた場合、北半分に住んでいる議員が大多数を占めて、南半分をも含めた日本全体のことを決めているとしたらどうでしょう? おかしいと思いませんか。それが男女の性別での、日本での現状です」
(治部准教授)

偏りのおかしさを地理に置き換えてみると、「選挙権は両方にあるのに、片方の属性ばかりが選ばれて、全体のことを決めている状態」は不平等であることが、理解しやすい。

そしてこの偏りは性別に加え、年齢でも見られます。

現在の衆議院では、議席全体の6割以上を50代~70代男性が占め、40代男性も含めると全議席の86%に「中高年の男性」が座っています。日本の政界は女性だけではなく、30代以下の若い世代の代表者も少ない一方で、中高年の男性が圧倒的に多い場所です。

またこの偏りは、経済の分野にも共通しています。

日本全国の社長は80%が50歳以上、かつ70代以上が25%と、高齢者への偏りが強く見られます。女性社長は日本全体で8.2%。こちらも高齢化が特徴で、現在の女性社長の6割以上が60歳以上です。

出典:令和5年版 男女共同参画白書・第1分野・第1節より
衆議院議員総選挙における候補者、当選者に占める女性の割合の推移
出典:令和5年版 男女共同参画白書・第1分野・第1節より
参議院議員通常選挙における候補者、当選者に占める女性の割合の推移
出典:令和5年版 男女共同参画白書・第1分野・第1節より
統一地方選挙における候補者、当選者に占める女性の割合の推移

政治分野では選挙や議員職のあり方に問題

一体なぜ、このような偏りが出てしまうのでしょう。

政治分野では選挙や議員職のあり方に問題があると、治部准教授は指摘します。

「ある男性議員が『24時間、常に選挙を考えて政治活動をしている』といった発言を、したことがありました。これは日本の選挙を象徴する発言で、1日中それだけを考えていないとできないやり方が過去に作られたまま、温存されているのです」

「それは家事や育児など、24時間のうちに他にやることのある人には、参加が難しいものです」


選挙に出られるのは、食事や衣類の支度、自宅の管理など生活の維持を任せられる家族を持つ人や、外注する経済力のある人々に限られます。日本では長年、そのようなことができるのは、一部の中高年男性だけでした。

「そしてそのハードルを超えて選挙に挑戦しようと女性が立候補すると、男性候補が受けることのない悪意が大量に寄せられます。街頭演説に立っているだけで『子どもがかわいそうだ』『家はどうしてるんだ』と、否定的な言葉が投げられる。特に国政選挙では、女性候補者への悪意はかなり強いと、多くの選挙関係者が語っています」

独身だったら「結婚は?」、結婚したら「子どもはいつ?」と急かされ、子どもができると「家にいろ」と退場させられる──ある現役議員が実体験として、治部准教授に伝えたそうです。

その厳しい環境で当選しても、国会議員の職務はやはり、「24時間それだけを考えられる」人向けに作られたまま。地元と東京間の移動が多く、重要な会合は夜遅くに及ぶことも。女性で議員職を高齢まで全うできる人は、希少です。

「管理職になる世代」女性を採用しなかった

経済やビジネスの分野も、「決める立場」には女性と若者が少ない問題がありますが、その背景は少し異なります。

「経済分野で指標になるのは取締役や管理職の女性比率で、こちらもやはり、中高年男性に偏りが顕著です」

「『令和5年版男女共同参画白書』に掲載されている民間企業の統計を見ると、上場企業の役員の女性比率は全体の9.1%。2010年代から明らかに上昇していますが、その背景には、諸外国の資本家からの『女性取締役を採用しないと投資をやめる』といった、男女差別是正の要請があります」

「日本は経済面での男女平等において、東南アジアのいくつかの国より改善が遅いことからも、投資家からアクションが求められています」

出典:令和5年版 男女共同参画白書・第1分野・第4節より
民間企業の雇用者

管理職の女性比率は年々増えてはいるものの、役職が上がるにつれて女性の割合が下がる様子が見られます。その理由を治部准教授は、就職氷河期世代である自身の経験から実感しています。

「今、日本の会社でリーダーをつとめている人は、40代、50代が大半です。この世代が学生の頃は、就職氷河期で希望の職に就けなかったり、「女性を総合職では採用しない」と大っぴらに話す大企業もありました」

また同じ大学の学生でも、説明会や先輩訪問の対象になるのは男子学生のみという、今では信じられないような差別も多かったとのこと。

「この世代の女性社員が採用されなかったため、社歴が上がって管理職になる女性の割合も、当然、低くなっています」

女性を管理職に登用したくても、採用すらしてこなかったため、育成の対象になる社歴の女性社員がそもそも社内にいない──30年前の就職差別が、令和の管理職登用の男女格差に直結しています。

幸い、そのような採用時の女性差別は年々減ってきているので、今の20代がキャリアを積んで女性管理職が増えていくだろうと、治部准教授は見ています。

「決める立場」の偏りがもたらす困りごと

このような「決める立場」の偏りは、社会や私たちの生活に、大小さまざまな影響を及ぼしています。その一つが、同じ仕事をしても同じ賃金が払われない「同一労働・同一賃金」が守られていないという問題です。

「役員や管理職が男性ばかりの場合、後進の役職者にも男性を選びがちです。女性は同じ仕事をしていても昇進しにくく、結果として給与にも差が出るので、育児・介護や夫の転勤を機にキャリアを中断することも」

「また日本は、女性の非正規雇用の割合が高いですが、こちらも正社員と同じ労働をしながら、待遇に差をつけられている人々です」


仕事の場ではもう一つ、女性社員が妊娠すると不当な扱いや嫌がらせを受ける、マタニティ・ハラスメントも挙げられます。妊娠出産とキャリアの両立を経験することのない中高年男性が上層部に多いと、部下の妊娠を「仕事には邪魔なもの」と扱ったり、その扱いのおかしさが問題にならず、放置されるケースが目立ちます。

職場でのセクハラを含む、性加害の認識と処罰の甘さも、「決める立場」の偏りに発しています。性犯罪は被害者の人生へのダメージが大きく、「魂の殺人」とも言われるもの。ですが日本の刑法では性加害の認定ハードルが高く、処罰もゆるい。たとえば、児童への性加害が有罪と裁かれても、刑期は数年で済んでしまうケースもあります。

「それはこの刑法のおおもとが明治時代に作られた、古いものだからです。近年、大幅な改定はあったものの、もとの明治時代の法律は『お金持ちの中高年男性』が決めていたため、被害者の多くが子どもや女性である性犯罪は他人事でしかなく、厳しく設定してきませんでした」

「若い世代への性教育が軽視されるのも根っこは同じで、私が教える大学の男子学生たちからも、学校で適切な性教育を受けたかった、知識が不足している、との声が聞かれます」


地震や大雨など自然災害の多い日本では、「決める立場」の偏りが、避難所での暮らしにも困難を引き起こしています。

備品購入を決める責任者に中高年以上の男性が多く、女性の生理用品や、赤ちゃん用の液体ミルクの重要さが理解されず、「余分なもの」としてカットされる。そんな信じがたい決定が、全国で実際に行われてきました。

偏った状態は改善するべきもの

「このようにさまざまな問題があっても、偏りがなかなか改善されないのは、その偏りをよしとする既得権益が守り続けられる構造だからです。たとえば日本には議員定年制がなく、他の職業であれば定年退職をしている80代の高齢者でも、政府の要職に就き続けることができます」

「偏っている状態」を変える第一歩として、治部准教授は「現状認識のあり方」を、あらためて考えてみることをうながします。

「日本では、長く続いてきた状況を『正しい状態』と認識し、偏りがあっても変える必要はないと捉えがちです」

「ですが実際には、偏りによって問題がいくつもあるわけで、『正しい状態』とは言いがたい。まず、『決める立場』の人々に偏りのある状態を、『問題である』と認めることから始めなければなりません」


他の国々、そして日本国内の自治体や企業でも、「決める立場」の偏りを問題視して改善に努めるところが増えています。そこで共有されているのが、『偏りのないのが、あるべき状態』との認識です。男女の人口が半々であれば、代表者も半々でなければならない。それを目指して対策を練り、動き続けています。

「決める立場」の偏りを是正すると、社会でどのような改善が見られるのでしょうか。そのために今、一人一人ができることは何でしょう。後編では引き続き、治部准教授に伺います。

【「『決める立場』の多様性を考える」連載は前後編。前編では政治・経済の意思決定層が高齢男性に偏っている日本の現状と、「決める立場の人」が特定の属性に偏っていることの問題点を解説しました。後編では、豊島区など自治体が取り組んだ改善例をピックアップ。「決める立場」の不平等をどうすれば改善できるか、また現状「決める立場」にいる人たちはどうすべきかなど、今からできる課題解決の方法を探ります】

●プロフィール
治部 れんげ(じぶ・れんげ)
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社にて経済記者を16年間務める。ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、東京都男女平等参画審議会委員、豊島区男女共同参画推進協議会会長、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、日本テレビ放送網株式会社 放送番組審議会委員など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫:夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信:ジェンダーはビジネスの新教養である』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」:みんなを自由にするジェンダー平等』1~3巻(汐文社)等。

髙崎 順子(たかさき・じゅんこ)
1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文化・社会を題材に寄稿している。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)、『パリのごちそう』(主婦と生活社)、『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)などがある。得意分野は子育て環境。

じぶ れんげ

治部 れんげ

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。日経BP社にて経済記者を16年間務める。ミシガ...

たかさき じゅんこ

髙崎 順子

Junko Takasaki
ライター

1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文...