
1980年代半ばは、卒業シーズンに卒業ソングがリリース
「1980年代になると卒業式の主役は『子どもたち』『生徒たち』という意識が高まり、対面式の演出も出てきます。
歌のほうでは80年代半ばあたりに、『卒業』のタイトルで斉藤由貴さんや菊池桃子さん、尾崎豊さんなどの歌が卒業シーズンを意識してリリースされ、卒業ソングとしてカテゴライズされるようにもなりました」(有本先生)
1990年代に入ると、中学校の先生が卒業する生徒たちのために作詞作曲をした『旅立ちの日に』が登場します。
「『旅立ちの日に』は、ひとつの学校から発信された楽曲です。メディアで紹介されたのを機に、卒業式といえばこの曲! というぐらい歌われた時期がありました。これが私の卒業ソングだ、という方も多いのではないでしょうか」(有本先生)
その一方で、卒業式歌・卒業ソングというと「桜」をイメージした歌だという方もいます。これに対して有本先生は、「卒業式と桜が結びついてきたのは、2000年以降のこと」だと加えます。
温暖化の影響で桜が早く咲くようになった背景もありますが、森山直太朗の『さくら』といった歌が、新しい人生をあと押しするような、ポジティブなイメージを生み出したといえるでしょう。
卒業式、卒業式歌・卒業ソングは現在も進化中!
「卒業式の構成や合唱に感動を覚える方は多いものですが、現在はより感動を目指していると感じています。
小学校では『門出の言葉』などと題し、セリフの掛け合いをするような30分程度のストーリー仕立てのプログラムを披露するところが多いのですが、その合間に6曲ほど歌う学校もあります。曲も先生がサポートしながら児童たちが自ら選んで、自分たちの卒業式への気分を高めています」(有本先生)
一時は歌われなくなった『蛍の光』や『仰げば尊し』も、現在は曲のひとつとして再び取り上げられるようになって、懐かしさから胸がジンとなる親御さんもいます。
「卒業式歌・卒業ソングの歌詞を細かく見ていくと、2010年以降は、背中を押してくれる応援ソングが好まれる傾向があるほか、『私たち』や『僕たち』と歌うよりも、『私の気持ち』や『僕の気持ち』が歌われるトレンドもあります。
今後はさらなる感動を求めて、個人化(personalization)し、私事化(privatization)された自分への応援ソングが流行るかもしれませんね」(有本先生)
卒業式や卒業式歌・卒業ソングは、その時代の文化や社会を反映しています。これから卒業を迎える子どもたちは、どのような式を行い、どのような歌を歌うのでしょうか。
また、あなたの思い出の卒業式歌・卒業ソングはどんな歌ですか?
─◆─◆─◆─◆─◆─◆
◆有本 真紀(ありもと まき)
立教大学名誉教授
東京藝術大学音楽学部卒業、同大学大学院音楽研究科音楽教育専攻修士課程修了。専門は教育の歴史社会学、音楽科教育。近代学校特有の社会化過程や、戦前期の祝日大祭日儀式などを研究する一方で、卒業式・卒業式歌・卒業ソングの変遷なども研究している。日本音楽教育学会副会長、日本教育社会学会編集委員。著書に『卒業式の歴史学』(講談社選書メチエ)、共著に『五線譜の約束』(明星大学出版部)、『新版 教員養成課程 小学校音楽科教育法 2022年改訂版』(教育芸術社)などがある。
取材・文/梶原知恵
【関連図書】

梶原 知恵
大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。
大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。
有本 真紀
立教大学名誉教授 東京藝術大学音楽学部卒業、同大学大学院音楽研究科音楽教育専攻修士課程修了。専門は教育の歴史社会学、音楽科教育。近代学校特有の社会化過程や、戦前期の祝日大祭日儀式などを研究する一方で、卒業式・卒業式歌・卒業ソングの変遷なども研究している。日本音楽教育学会副会長、日本教育社会学会編集委員。 著書に『卒業式の歴史学』(講談社選書メチエ)、共著に『五線譜の約束』(明星大学出版部)、『新版 教員養成課程 小学校音楽科教育法 2022年改訂版』(教育芸術社)などがある。
立教大学名誉教授 東京藝術大学音楽学部卒業、同大学大学院音楽研究科音楽教育専攻修士課程修了。専門は教育の歴史社会学、音楽科教育。近代学校特有の社会化過程や、戦前期の祝日大祭日儀式などを研究する一方で、卒業式・卒業式歌・卒業ソングの変遷なども研究している。日本音楽教育学会副会長、日本教育社会学会編集委員。 著書に『卒業式の歴史学』(講談社選書メチエ)、共著に『五線譜の約束』(明星大学出版部)、『新版 教員養成課程 小学校音楽科教育法 2022年改訂版』(教育芸術社)などがある。