「勉強したくない」子どもに親ができること 発達心理学者が徹底解説!

【今こそ学力観のアップデートをするとき】本当の学びとは何か#6「小学生が学ぶ楽しさを取り戻すには?」

好きなことから始めれば、子どもは難しいことにも挑戦します。  写真:アフロ
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子どもが小学校以降の学習でつまずくには、理由があります(#5を読む)。その根本原因を放置したまま、「もっと勉強しなさい」などと無理やり学習に向かわせることが、子どもを「勉強嫌い」にし、本来誰もが持っている「学ぶ楽しさ」や「問題が解けるよろこび」を奪っています。

では、実際に「勉強が楽しくない」状態になってしまった子どもが、学ぶ楽しみや意欲を取り戻すためには、どうしたらよいのでしょうか。

世界的な発達心理学者・今井むつみ先生に、幼児期から学童期の「学び」についてお話をお聞きしている本連載。連載第6回は、小学生になってからでも遅くない、学ぶ楽しみを実感するために親子でできることをうかがいます。

※全6回の第6回

今井むつみ
慶應義塾大学環境情報学部教授。認知科学、特に認知心理学、発達心理学、言語心理学などを専門に研究。言語に関する研究から教育や学びにも関心を持ち、近年は一般読者向け書籍の執筆、講演活動にも力を入れている。また、国境を越えて学びを考えるコミュニティABLE(Agents for Bridging Learning and Education)をつくり、ワークショップなどを開催している。

大人が「勉強嫌い」の子どもを生み出している!?

#5では、子どもが小学校の学習でつまずく原因や大人が考える学習への誤解などについて解説していただきました。

間違いやつまずきには、読解力(言葉の力)や思い込み(間違ったスキーマ)などの原因がありますが、さらに背後には、子どもたちの学習に対する姿勢があると今井先生は指摘します。

「特に算数の文章問題で顕著だったのが、『文章に出てくる数字を知っている式に入れて、適当に計算して、とにかく答えを出す』という態度です。これは算数の問題が、子どもにとって『解く意義を感じられないし、楽しくもない』ということを物語っていると思います。

学校や家庭でドリルやワークなど『問題を解くお勉強』を繰り返しやらされている子どもたちは、本来学びがもたらす『考える楽しさ』や『できるようになるよろこび』を感じられない、ということです。楽しくないことを強要し続けると、子どもはどんどん学習が嫌いになっていきます。

漢字練習や計算など、反復や手続きばかりを重視し、無理やり机に向かわせる大人の姿勢が、子どもの学ぶ意欲を奪っている、ともいえるのではないでしょうか」(今井先生)

大人が子どもの学習状況を理解しないままに、無理に勉強させようとすることが起こす弊害は、#5の後半で触れた「学習性無力感」にもつながります。

※学習性無力感とは
自分では変えられない状況に長年置かれるうちに、やがて何をしても無意味だと思うようになっていき、(たとえ結果を変えられるような場面でも)自分から行動を起こさない状態。

ここでは、授業などでわからない状態が続き、問題が解けない、テストでも間違うなどの経験が積み重なることで、「自分にはできない」と感じ、学習自体をやめてしまうことを指す。

料理や工作からたくさん学べる

では、実際に子どもが学習に興味が持てない……という状況になった場合、どうしたらいいのでしょうか。

今井先生は、「目の前の勉強」や「解けない問題」ばかりに囚われず、長期的な視野を持って取り組む必要性を訴えます。

「授業や勉強が苦痛になってしまっている子どもに、無理に『やらせよう』『教えよう』としても難しいでしょう。そうした大人の態度が、ますます子どもを学習から遠ざけてしまいます。

でも、こういう子が本当に学ぶことが嫌いかというと、そんなことはないんですよ。算数の授業の中で算数をすることは嫌いでも、遊びの中、もしくは何かを作るというような目的があり、その目的のために楽しく考える機会があったら、喜んでやります。

例えば、料理の手伝いをしてもらう、一緒にお菓子作りをするなどは、自然に数や量に触れることができるのでとてもおすすめです。

レシピを見て、『これは3人分だけど、今日はあなたと私の2人だけだから、どうしたらいいかな?』などと話しながら料理をしてみる。あるいは、1人分のレシピを家族3人分に調整する。こういう計算なら、子どもは進んで挑戦するでしょう。

子どもは実際に手を動かす料理や工作が大好きです。

小学校高学年以上になると、家庭科や図工、技術などは『大切ではない教科』として扱われる傾向にありますが、実はこうした教科の特徴である『手を動かして何かをつくる』ことこそ、自分で考える力を育むことや数字を使う練習になる、とても大切な要素です。

裁縫や編み物もよいですね。編み物は、最初に『ゲージを取る』という作業をします。これは、まず10cm四方で編んでみて、横に何目・縦に何段の編み目があるのかを数えることです。それを元に、実際に編むセーターやマフラーの大きさでは、編み目がどれくらい必要になるかを計算します。

工作も、長さを測ったり大きさを考えるのに割合を使ったりしますよね。大事なのは、子どもがやりたい、作りたいと思ったものに、割合や比率を考える要素を入れ込むことです」(今井先生)

こうした「日常生活の中でのものづくり」は、子どものチャレンジ精神も育ててくれるといいます。

「料理や編み物、工作などは、一度失敗しても何度でもやり直すことができます。失敗の経験をいかすことで、次はもっと上達できますよね。

テストだと、失敗したら『バツをつけられて終わり』です。そこから『楽しんで学び直そう』というのはとてもハードルが高いですから、家庭では無理に学習させるのではなく、実際に数を使ってみること、そしてその先に『数にはこういう意味があるんだ』と気づかせる経験を、親子で一緒に楽しみながら積んでいくことが大切です。

そうした経験から、『もっといいものをつくりたい』という気持ちが生まれ、粘り強く取り組む姿勢にもつながります」(今井先生)

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