「勉強したくない」子どもに親ができること 発達心理学者が徹底解説!

【今こそ学力観のアップデートをするとき】本当の学びとは何か#6「小学生が学ぶ楽しさを取り戻すには?」

小学校になっても「読み聞かせ」を

小学校の学習では「言葉の力」が必要になるため、読書が重要になることを#4で紹介しました。しかし、小学生の子どもが、すでにあまり本好きではなくなってしまっている場合は、どうしたらよいでしょうか。

「ご両親が一緒に本を読んであげてはいかがでしょうか。本の読み聞かせは、子どもが字を読めるようになったら終わり、と考えている方が多いかもしれませんが、小学校入学以降もぜひ続けてほしいと思います。

幼児期にあまり本に触れてこなかった子どもは、やはり語彙が少ないので、自分一人ではスムーズに本を読めないことが多いです。読書というのは、文字が読めるだけでは不十分なんです。使われている言葉の大半を知っていないと、内容をよく理解することはできません。

そういう子は、自分で読むのが面倒になってしまうので、本があまり好きになれないんですね。ですが、その子の興味分野の本をご両親が読んであげれば、面白いと感じるはずです。そのうちに、自分の知りたいことが本に書いてあるとわかれば、少しずつ読書に関心を持つようになるでしょう。

ただ『本を読みなさい』というだけでは、子どもが本の楽しさを実感することはできません。特に今の小学生は、たくさん習い事をしている子も多く、とても忙しいですよね。そうした中で読書習慣をつけるためには、まずは大人が読み聞かせて、本の楽しさを味わえる環境を作ることがポイントです」(今井先生)

「数の感覚」が身につかない理由

今井先生は、これまでのたくさんの研究や「たつじんテスト」の結果から、語彙力はもちろん、子どもたちの「数の概念」について、大きな危機感を抱いています。

「算数の意味をきちんと理解するためには、幼児期に『数の感覚』が身についていることが大切になります。しかし、こうした感覚がないまま小学生になり、学習をスタートしている子どもが多いと感じます。

その原因ははっきりとはわかりませんが、生活の中で『数』や『量』に触れる機会が減っているからではないか、と感じます。

いろいろなもののデジタル化が進む中で、目に見えるもの、触れるものが極端に少なくなっていますよね。例えば、スマホやクレジットカード決済が増えたことで、お金を目にする回数が減少しています。

小銭で培われる感覚は、すごく大切です。子どものころに、小銭で買い物をしたことが、『概算する力』に影響していると思います。今、持っているお金で自分の欲しいものは買えるのか、電卓ではなく自分の頭で計算し、持っているお金と照らし合わせる。こうしたことの繰り返しで、『概算力』が鍛えられていきます」(今井先生)

小銭で買い物することも、「概算力」につながります。  写真:アフロ

これまで、生活の中で自然と養われてきた「数の感覚」や「概算力」が、時代の変化によって身につきにくくなっている現実があるようです。

「『概算力』は、小学校もちろん、中学校の学習でもとても重要となります。『算数文章題が解けない子どもたち─ことば・思考の力と学力不振』(岩波書店)を出版してから、いろいろな学校や自治体から連絡をいただき、中学校の教育現場からも『たつじんテスト』を実施したいという要望をたくさんいただきました。

それで現在、『たつじんテスト』の中学校版を開発するための準備として、中学生の学力データのサンプルを集めているのですが、『概算する力』があるかどうかで、数学の理解度がはっきりと分かれます。

小学生と同様に、分数や小数がどういう意味をもった数なのか、理解できていない中学生はたくさんいます。生活体験の中で『数の感覚』を育むことは、小学生だけでなく、中学生の学習にも非常に重要になるのです」(今井先生)

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