
「算数」「国語」がない時間割! 教科横断型の「プロジェクト」で小学生が学ぶ意味を実感する理由
学校の「当たり前」を考える 山田剛輔先生の実践#1 教科名がない時間割り
2025.03.13
リアルな生活にひもづく「プロジェクト」
時間割りには登場しなかった国語や算数ですが、当然これらの内容を学習しないわけではありません。
山田先生の授業は、「プロジェクト」と呼ばれる活動に教科を組み込み、その中で学びが展開されていくのが大きな特徴です。
時間割りに書かれていた「先生紹介」も、春に行ったプロジェクトの一つ。4年生の国語の単元、「聞き取りメモのくふう」がベースになっています。プロジェクトは、こんなやりとりからスタートしました。
山田先生:今日は、みんなに話したいことがある人がいるんだ、教室に呼ぶね。
(ここで校長先生が教室に入る。子どもたちからは驚きの声)
校長先生:今年度も香川小学校には、たくさん新しい先生たちが来たよね。でも、まだどんな先生か知らない子が多いから、4年3組のみんなが学校のみんなに紹介してくれないかな?
校長先生から直々に依頼された子どもたち。山田先生が「どうする? やってみる?」と尋ねると、子どもたちは「やる~!」と興奮気味に答えました。異動してきた先生は何人いるのか、どんな名前だったのかなど、すでに知っている情報を言い合い、早速、準備に取りかかりました。
その後、子どもたちはグループに分かれて紹介する先生を決め、質問項目を考えることに。ここで初めて、国語の教科書が登場します。山田先生が声をかけ、話を聞き取る際に気をつけること、メモのポイントなどをみんなで学びます。そして、新任の先生にアポイントを取り、休み時間などに話を聞きに行きました。

山田先生は、「プロジェクト」を行う理由を次のように話します。
「授業を『勉強のための勉強』にしたくないんです。
『1時間目は国語です。今日はメモの取り方を学習します。教科書を開いて』という進め方では、子どもたちが真剣になるのは難しいと思います。学ぶ理由や必然性がありませんし、学んだことが何かに影響した、誰かの役に立ったと感じられる機会もありません。
でも、『先生紹介』のように具体的な状況の中であれば、何のために学ぶかが明確です。子どもたちは自然と主体的になり、自分たちでどんどん学習を進めていきます。実際にインタビューしているときは、すごく楽しそうでした」(山田先生)
プロジェクトはその後も続きます。子どもたちのアイデアでインタビューした内容をポスターにまとめ、さらには校内放送を使って紹介することに。

実施したあとは取り上げた先生からお礼を言われたり、ポスター見たよ、放送聞いたよと声をかけてもらったりしました。こうした周囲の反応も、子どもにとってプラスになると山田先生は語ります。
「リアルな生活と結びついているからこそ、自分たちが取り組んだ活動で喜んでくれた人がいる、と実感できます。活動を終えた子どもたちは、とても充実した表情を浮かべていました。
こうした経験が『学んでよかった』という気持ちを生み、子どもたちの学習意欲につながっていきます」(山田先生)

学習内容を網羅できる?
山田先生のクラスは、常に複数のプロジェクトが動いています。「地球温暖化」「ルワンダ」「香川商店街」など学校外で活動するものも多く、それぞれに国語や算数、総合的な学習の時間(以下、総合学習)、道徳といった教科学習が含まれています。
具体的なテーマを設定し、子どもたちが自ら考え行動する「プロジェクト」。まるで、体験学習を重視するオルタナティブスクールや私立小学校のようです。

しかし、プロジェクトは通常の教科学習よりも時間がかかるように見えます。各学年の学習指導要領の教科内容を、子どもたちはすべて学べるのでしょうか。
「『先生紹介』では、国語に加えて総合学習も組み込んで、ポスターづくりや校内放送の準備の時間を確保しました。また、質問項目に先生の出身地を入れ、社会の都道府県の学習の導入にもあてています。一つのプロジェクトにさまざまな教科の要素が含まれるよう、工夫していますね。
もちろん、学習指導要領上で扱うべき内容は、すべて扱っています。
あとは、僕が説明する部分は要点を絞ることで、子どもたちが自ら活動する時間を多くしています。意外かもしれませんが、教科独立型の授業よりもスリムになることで、効率化することができます」(山田先生)
プロジェクトとそれ以外の授業を効果的に実施するため、山田先生は時間割りを毎週子どもたちと一緒につくっています。プロジェクトの進み具合、必要な時間などを月曜日の朝に話し合い、その週の時間割りを決めています。