子どもを「学歴」で追い込む親にならないで! 日本で学歴が重視されてきた「時代遅れの理由」

学校の「当たり前」を考える 能力主義と子ども #3学歴社会のゆくえ (3/3) 1ページ目に戻る

学歴社会の行く末は、「苦しすぎる」社会!?

──「学歴」が実際の職場や仕事の場面であまり意味をなさない、ということはよくわかりました。ただ、現実はまだまだ「学歴社会」です。そういう中で子どもに「学歴は重要じゃない」というのは難しいのでは、とも思います。

勅使川原:その気持ちはよくわかります。私も子どもが二人いますし、現実問題として「(現在の選択が)子どもの今後の人生で不利に働いたら……」と、頭をよぎることはあります。

いわゆる「勉強」が得意で強みになるタイプの子が、受験して学歴社会を泳いでいくなら問題ないと思います。だけど、そうじゃない子もたくさんいるのに、「勉強」「受験」という一元的な価値観で競争させ、その結果、子どもが傷つき疲れてしまう……という現状は疑問です。

学歴のために子どもが人生に疲れてしまっては、元も子もありません。  写真:アフロ
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勅使川原:現在の社会の息苦しさは相当なものだと感じています。私はこれまで、いくつかの書籍で仕事をする上でのつらさや傷つきの原因などを分析してきましたが、それらを読んだ方々から反響をたくさんいただきました。大人は、学生時代は学歴、社会人になってからは優秀さを手に入れるために走り続け、限界の一歩手前なんだと痛感しました。

自分の子どもをそんな社会に送り込みたいでしょうか。頑張りすぎて疲弊し、希望が持てないような未来を生きてほしいでしょうか。そう考えてみてほしいです。

学歴社会は、「誰かが降りてから……」と考えている限り、永遠に続いてしまいます。だから私自身も、他人と競い合う「競争」ではなく、共に創る「共創」へと、行動を続けていきます。

学歴を重視しない大企業も登場

──『学歴社会は誰のため』では、学歴が重視される要因になった「メンバーシップ型雇用」を改める企業の事例も紹介されています。

勅使川原:影響力の大きい企業から、少しずつですが広がり始めています。ユニクロでおなじみのファーストリテイリング星野リゾートでは、新卒一括採用を止め、企業と個人の相性を見ていく採用方法にシフトしています。

富士通は、仕事の内容を示して採用する、いわゆる「ジョブ型」に舵を切りました。2026年度から部門と職種を決めた上で採用活動を行います。また、新卒者は長期の有償インターンシップを行い、希望職種を決めることができるそうです。

最近対談した大手通信事業会社もジョブ型で採用し、入社後のマネジメントも同様に、仕事の内容を定義した上で行っていると話していました。

これらは、ある意味で「当たり前」だと思います。仕事内容があいまいなまま採用してきたこれまでのほうがおかしかったのです。やっと……ではありますが、大手企業でこうした動きができたのはよい兆しといえるでしょう。

中小企業は大手のやり方を見て踏襲していきますから、今後広がっていく可能性があると思います。ジョブ型の採用が広がっていけば、どんな特性が必要なのか、ある程度は明確になりますから、少なくとも就職での学歴の位置づけは変化していくのではないでしょうか。

それに、高校進学でも「高専」に注目が集まったり、「N高」のような通信制の選択肢が登場したり、これまでの偏差値一辺倒から変化が見られるようになりました。今後も多様化していくことが期待されます。

─・─・─・─・

次回は、過度な能力主義や学歴社会に縛られず、親子で心身健康に過ごすヒント、考え方などを教えていただきます。

取材・文 川崎ちづる

【学校の「当たり前」を考える 能力主義】の連載は、全4回。
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※公開日までリンク無効

©稲垣純也

【勅使川原 真衣 プロフィール】
1982年、横浜市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て組織開発コンサルタントとして独立。2児の母。2020年から進行乳がん闘病中。著書『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社、2022年)は紀伊國屋じんぶん大賞2024で第8位入賞。続く『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社、2024年)は新書大賞2025にて第5位入賞。その他著書多数。最新刊は『学歴社会は誰のため』(PHP、2025年)。日経ビジネス電子版と論壇誌Voice、読売新聞「本よみうり堂」にて連載中。

【関連書籍】

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かわさき ちづる

川崎 ちづる

Chizuru Kawasaki
ライター

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。