進学の選択肢「通信制高校」 生徒数は史上最多29万人超! リアルな実態と問題点を専門家が解説

認定NPO法人カタリバ代表理事・今村久美さんに聞く「通信制高校」 #1 ~通信制高校はどんなところ?~ 

認定NPO法人カタリバ代表理事:今村 久美

学校とコミュニケーションが取りづらいデメリットも

一見、矛盾するような状況について、今村さんは通信制高校特有の問題が関係している可能性があると指摘します。

「通信制高校には、履修登録をして、実際に学習を進めている『活動生(実活生)』と、受講登録をしない『不活動生(非活生)』という枠組みがあります。学校に在籍しながら『今年は学校にいかない』という選択肢があるため、そうした生徒が『不活動生』となり、不登校としてカウントされていません。

そして一度『不活動生』になってしまうと履修の再開が難しくなり、担任やスクールカウンセラーの関与も減少してしまうのです。

特に広域通信制の場合は、全国から生徒を受け入れているため、生徒は学校から離れた場所に住んでいるケースが多く、日常的な対面でのコミュニケーションが取りにくい状況にあります。

その結果、生徒の不登校や引きこもりが見過ごされてしまい、問題が深刻化してしまうリスクが高まるのです」
(今村さん)

「自立して学ぶ力」が必要 自己管理の難しさ

では、通信制高校に進学する際には、どんな点に注意が必要なのでしょうか。

「まずは、どんな高校生活を送りたいか、何がしたくて何が嫌か。せっかくの機会なのでじっくり考えてみてほしい。特に小・中学校で不登校を経験した生徒から、新しい環境で通学を目指したい、友達を作りたい、と話す子もいます。とても素敵な目標ですよね」と今村さん。

そのうえで、通信制の高校に進学する場合は、自己管理が求められる環境であることを理解しておかなければなりません。通信制への進学で「後悔の声」として最も多く挙げられるのが自己管理の難しさだからです。

「通信制では自立して学ぶ力が必要です。ネットで授業動画を視聴して授業を理解する、スケジュール管理をする、レポートなど宿題を期限内に提出するなど、通信制の学習スタイルに自分が適応できるかどうか、慎重に判断してほしいと思います」(今村さん)

各学校のサポート体制の確認は必須

また、サポート体制の充実度もチェックすべきだといいます。

「通信制高校にはスクーリングがありますが、そのスタイルは学校によってさまざまです。例えば、定期的に登校して先生から直接指導を受けるか、それとも年に数日間合宿などで集中してスクーリングを受けるのか、など。

先生と定期的に会える環境では、対面でのコミュニケーションを通じてモチベーションが維持しやすくなります。一方で、先生と会える機会が限られている環境では、学習意欲が低下するリスクがあります。

学習をするうえで、つまずいてしまった場合に、どのようなサポートを受けられるかは、事前に確認しておいたほうがいいですね」
(今村さん)

横(仲間)のつながりも大事

学校生活においては「横(仲間)のつながりをつくることができるか」も確認してほしいと今村さんは語ります。

「高校に通うことの価値としては、『自立する』ことだと私は思っています。そして、自立心を培うためには、人との関わりを通じて自分の考えを主張したり、相手の意見を尊重したりすることです。そのためには同級生との『横のつながり』が大事になってきます。

例えば、スクーリングの日以外でも通信制の生徒が常に出入りできる居場所があるか、部活動に参加できるか、通信制課程から別の課程(定時制など)に移行できるかなども、学校選びの判断材料にしてみてください」
(今村さん)

───◆─────◆───

「自分のペースで学校生活を送れる」という良い面ばかりではなく、自分が自立して学べるかどうかを考えることが何よりも大事です。

しかし、今村さんによると、通信制高校を選ぶうえでの注意点はそれだけではないようです。次回2回目では通信制高校の「サポート校」についての実態や費用について、引き続き今村さんに教えていただきます。

取材・文/山田優子

通信制高校連載は全4回。
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「NPOカタリバがみんなと作った 不登校─親子のための教科書」著:今村久美(ダイヤモンド社)
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いまむら くみ

今村 久美

Kumi Imamura
認定NPO法人カタリバ 代表理事

慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラムの提供を開始。 2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供、コロナ禍以降は、経済的事情を抱える家庭に対するオンライン学習支援やメタバースを活用した不登校支援を開始するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。 ハタチ基金代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。文部科学省中央教育審議会委員。 こども家庭庁こどもの居場所部会委員。東京都学校外での子どもの多様な学びに関する有識者会議委員。 東京大学経営協議会学外委員。朝日新聞パブリックエディター。 主な著書:「不登校親子のための教科書」(ダイヤモンド社)

慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラムの提供を開始。 2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供、コロナ禍以降は、経済的事情を抱える家庭に対するオンライン学習支援やメタバースを活用した不登校支援を開始するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。 ハタチ基金代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。文部科学省中央教育審議会委員。 こども家庭庁こどもの居場所部会委員。東京都学校外での子どもの多様な学びに関する有識者会議委員。 東京大学経営協議会学外委員。朝日新聞パブリックエディター。 主な著書:「不登校親子のための教科書」(ダイヤモンド社)

やまだ ゆうこ

山田 優子

Yamada Yuko
ライター

フリーライター。神奈川出身。1980年生まれ。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、拠点を大阪に移し、さまざまな業界を経て、2018年にフリーランスへ転向。 現在は、ビジネス系の取材記事制作を中心に活動中。1児の母。

フリーライター。神奈川出身。1980年生まれ。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、拠点を大阪に移し、さまざまな業界を経て、2018年にフリーランスへ転向。 現在は、ビジネス系の取材記事制作を中心に活動中。1児の母。