不登校は学校制度の崩壊が原因 「夏休み明けの悲劇」を防ぐため不調な子どもは休ませて

シリーズ「不登校のキミとその親へ」#1‐3 不登校新聞代表理事・石井しこう氏~不登校最前線2023~

不登校新聞代表理事:石井 しこう

不登校について、笑顔を交えつつ、ときに語気を強めて語る石井しこう氏。堂々と明るいその様子からは不登校で苦しんだ過去が想像しがたいほどだ。  写真:日下部真紀
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年々、増加している不登校。増えているとはいえ、わが子が不登校になったら、多くの親は大きく戸惑います。

そして「原因は?」「育て方が悪かったのか?」「怠けなの?」等々、必死で答えを探ります。

令和の不登校は、親の時代と何が変わっていて、親はどう受けとめるべきなのでしょうか?

約20年不登校と向き合い続けている『不登校新聞』代表理事・石井しこうさんに、現代の不登校における傾向と増加の原因などを聞きました。

※3回目/全4回(#1#2を読む)

石井しこうプロフィール
『不登校新聞』代表理事。1982年東京都生まれ。中学2年生から不登校になりフリースクールへ。19歳から日本で唯一の不登校の専門紙『不登校新聞』のスタッフとなり、2006~2022年に編集長を務める。これまで不登校当事者、親、有識者など400人以上を取材。不登校にまつわる著作やメディア出演も多数。

あらゆるタイプの子が不登校になる

不登校生徒数は、年々増え続けています。文部科学省の調査で、2021年度は全国で約30万人でした。内訳は、小学校約8万人(1.3%)、中学校約16万人(5.0%)、高校約5万人(1.7%)です(カッコ内は全生徒数に対する割合)。

コロナの影響で学校に行きづらい子が増えたのか、前年に比べて2割以上増加しました。2022年度の調査結果はまだ出ていませんが、間違いなくさらに増えているでしょう。

これは、あくまで「年間30日以上学校を休む」など文科省が定めた不登校の定義に当てはまる生徒の数です。保健室登校をしている生徒や、いわゆる「登校しぶり」の生徒はカウントされていません。

実際は30万人どころではなく、その何倍もの子どもたちが「学校に行きたくない」と悲鳴を上げていると考えられます。

「こういう子が不登校になりやすい」という決まったタイプはありません。クラスの人気者も、勉強ができる子も、運動ができる子も、いろんな子どもがいます。

いくつもの理由が重なり合って、耐えられる限界を超えると、心がオーバーヒートを起こしてしまう。

けっして「怠け」ではありません。不登校は極めて切実な、いわば命がけのSOSなんです。

文科省は「学校復帰を目的としない」と明言

なぜこんなにも不登校が増えているのか。いちばん大きな理由は、学校という仕組みが制度疲労を起こしているからです。

全員が同じ場所に通わなければいけない、同じ場所で同じことをして、特例は認めない。その仕組みに限界がきているんです。

とはいえ、調べてみると7割の子どもたちは学校に満足している。レストランだったら、お客さんの7割が満足してくれたら上出来ですが、学校は全員が満足しないと気が済まない。合わないならしょうがない、別の道もあるよとはならないんです。

文科省は2016年、全国の小中高校すべてに「不登校は問題行動ではない」「学校復帰を目的としてはいけない」といった内容を含む通知を出しました。

それまでの「不登校はきちんと“治し”て、一日も早く学校に戻すことが大切だ」という方針からの大きな転換です。だけど、その姿勢が学校現場に浸透しているとは言えない。親の意識も変わっていません。

先生や親の多くが「学校を休みたいなんてわがままだ」という認識を変えられないのは、ずっと我慢して生きてきたからなんでしょうね。我慢はいいことなんだと肯定したい。

我慢なんて意味がない、害悪だということになったら、我慢してきた自分が否定されてしまう。

体罰や部活のしごきと同じ構図ですね。我慢を押し付ける連鎖が続いているだけです。

学校は命を削ってまで行くところではない

不登校が増えていることと深く関係する話として、悲しいことですが子どもの自殺も大きく増加しています。そして、自殺する子どもがもっとも多いのは、夏休み明けです。

2019年は9月が突出して多く、コロナで夏休みが短縮された2020年は8月が最多でした。「また学校に行かなければ」というプレッシャーが引き金になっていると考えていいでしょう。

最近では「9月1日問題」という言葉があるほど、夏休み明けは注意が必要だということが広く知られるようになりました。

私たち『不登校新聞』がこの問題に気づいたのは、内閣府が自殺対策白書で日別の自殺者数を発表した2015年です。これはもっと広く知られたほうがいいと考えて、文科省で記者会見を開きました。そこに専門家や当事者が集まって、一般紙もたくさん取材に来てくれました。

この問題がある程度知られるようになったころ、樹木希林さん(女優)が休み明けに自殺が多いことについてコメントをくださった。何とか命をつないでほしいという内容でしたが、樹木さんが発言してくれたことによって、芸能人の方も不登校や自殺の問題について語りやすくなったという影響はあったと思います。

その後、夏休みの終わり頃になると、NHKでも一般紙でもWebメディアでも「命を大切に」という呼びかけが行われるようになりました。でも、命を絶ってしまう子どもは減ってはいません。

親御さんに強く言いたいんですけど、元気がないとか食欲がないなど、お子さんの様子がおかしいと感じたら、あるいは学校に行きたくなさそうなら、迷わずに休ませてあげてください。学校は命を削ってまで行くところではありません。

『不登校新聞』は紙版は月2回発行。そのほかWeb版、note(Web)、Amazonで購入もできる。  写真:日下部真紀
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