発達脳科学者が断言 「子どもが不登校」の保護者が変えるべき「生活リズム」と「親の姿勢」

シリーズ「不登校のキミとその親へ」#3‐2 小児科医・発達脳科学者・成田奈緒子先生~親が変わるべき基本のこと~

小児科医・医学博士・発達脳科学者:成田 奈緒子

子どもが不登校になったとき、親がめざすべきは再登校ではない、無理やり学校へ行かせることは大間違いと成田先生は語ります。  イメージ写真:アフロ
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今や社会現象と言われるほど増加している不登校。わが子が不登校になったら、親はどう受けとめて、子どもにどのように接するべきなのか。

小児科医かつ発達脳科学者として35年以上のキャリアを持ち、多数の著書で独自の子育て理論を世に送る成田奈緒子先生に伺いました。

※2回目/全4回(#1を読む

成田奈緒子PROFILE
小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。文教大学教育学部教授。臨床医、研究者の活動を続けながら新しい子育て理論を展開。『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)などがベストセラーに。

成田奈緒子先生が代表を務める「子育て科学アクシス」(千葉県流山市)にて。  写真:日下部真紀

家庭のゆがみのしわ寄せは子どもに行く

不登校の原因は、子どもによってさまざまです。必ずしも「ふたたび学校に通うこと」がゴールではありません。

ただ、学校に行けない本人は、とても苦しんでいます。ずっと苦しんでいて、それが不登校という形で目に見えるようになったと言ってもいい。

親としては、苦しんでいる子どもに何がしてあげられるのか。「このままじゃいけない」とあせって、どうにか学校に行かせようとしてなだめたりすかしたり脅したりする親もいますが、それは間違いなく逆効果です。子どもをますます苦しめることにしかなりません。

子どもを何とかしてあげられるのは親だけです。「不登校は親のせいだ」と言いたいわけではありません。でも、不登校の原因がどうあれ、親が、つまりは家庭が変わらないと、子どもの苦しい状態は変わらないのです。

親がよかれと思ってやってきたことが、子どもを苦しめているケースも山ほどあります。だからといって親が悪いわけではありません。親は親で、自分の親や社会から刷り込みを受けて、一生懸命に無理をしてがんばってきたのですから。

ただ、がんばり方を間違えると、やがて家庭にゆがみが生じて、弱い立場である子どもにしわ寄せがいってしまうんです。

私が仲間といっしょに2014年に立ち上げた「子育て科学アクシス」(以下アクシス)では、子育てに悩みや不安を抱える親御さんたちに、独自に確立した理論に基づいた「ペアレンティング・トレーニング」のワークショップを展開しています。カウンセリングではありません。

子どもの脳を健やかに育てるために、親御さんに正しい知識を身につけてほしい。そう願って活動しています。

変われる親 変われない親

アクシスに初めて来たときに、「反省してます」と言う親御さんがけっこういます。最近は私の本を事前に読んでいて、睡眠の重要性や過干渉の危険性をよくわかってくださっている方が多いんです。

素直に「反省してます」という言葉が出てくる親御さんは、ペアレンティング・トレーニングを受けて変われるし、もちろん子どももどんどん変わっていきます。

でも、そもそも人間は反省が得意な生き物ではありません。「私はこんなにがんばっているのに、どうして苦労させられなきゃいけないんだ」と被害者意識をふくらませて、「学校が悪い」「担任が悪い」「社会が悪い」と、何かに責任をなすりつけてばかりいる人もいます。そういうところが子どもを追いつめてきたとしか思えないのに。

「とにかく睡眠が大事」というアクシスのポリシーに賛同はしていても、まあ賛同しているからアクシスに来るわけですけど、お兄ちゃんが受験生で遅くまで起きていてとか、いつも夫の帰りが遅くてとか、あれやこれや早く寝かせられない理由を探してくる。根性が入ってないってことでしょうね。「誰かが何とかしてくれる」と思っているのかもしれない。

多くの家庭では、お父さんの存在感が薄いのも問題です。すべてを自分の思いどおりにしたがる存在感が濃すぎるお父さんもたまにいて、それはそれで問題なんですけど。往々にしてお父さんの存在感が薄いのは、お母さんががんばりすぎているからです。

最近は、ほとんどのお母さんが仕事を持っていますよね。それに加えて、家事も子育ても完璧にこなさないと気がすまない。これでは心の余裕も時間の余裕も持ちようがありません。

子どもには「早くしなさい」「ちゃんとやりなさい」と言い続けて、夫が「そこまでしなくても」なんて言おうものなら、「この子のためにやっているのに!」と激しく反発されてしまう。

そういうお母さんは、結局はお父さんもなんですけど、子どもに高い学歴をつけさせることが自分への至上命題になっています。テストの結果は見ていても、表情にせよ顔色にせよその日の機嫌にせよ、子どものことを実は見ていない。

とにかく勉強勉強で、家の手伝いなんてもってのほか。業務連絡みたいなこと以外に、親子の会話もありません。子どもの心が悲鳴を上げるのは当然ですよね。

生活リズムを整えて失敗だった例はない

アクシスでは日ごろから「ちゃんと睡眠をとらせれば、子どもはよくなる」と言い続けています。早寝早起きの生活リズムを整えて、朝ご飯をちゃんと食べる。まずはそこを変えないと始まりません。

これは親も同じです。十分に寝て脳を休ませないと、悲観的なことしか考えられなくなる。親子でしっかり睡眠を取れば、笑って話せるようになります。

実際、すっかり無気力になっていたり、親に反抗的な態度しかとらなかった子どもが、生活リズムを整えれば見違えるように変わっていく姿をたくさん目の当たりにしてきました。生活のリズムが整ったのに、子どもの状態がよくならないというケースはひとつもありません。

アクシスでは学校に行くことに基準を置いていないので、また学校に行き始めたかどうかはどうでもいい。でも、何を言ってもケンカ腰だった子どもが、お母さんと笑顔でパズルを解いたりしている。ご飯の用意をするときには、横で玉子焼きを作ったりしている。

お母さんが外から帰ってきたら、「雨降ってきたから洗濯物を取り込んどいたよ」なんて言って、しかもしっかり畳んである。そう言うケースは枚挙にいとまがありません。

だけどね、せっかく元気を取り戻して、その子の選択として学校にまた行き始めたのに、お母さんが「勉強の遅れを取り戻さないと」と言って、たくさんの宿題で締めあげてしまうケースもある。「勉強させなければ」という呪縛はかなり手ごわいですね。

勉強というのは、強制されてやるものではありません。言ってしまえば「趣味」の一種です。本人が「やりたい」と思って、自発的に取り組まなければ身につきません。

長い間、不登校だったある中学生は、生活リズムが整うにつれて気力を取り戻して、建築士になりたいという目標を見つけました。そしたら自ら学校に通い始めて、家でも猛勉強をして、あっという間に後れを取り戻すことができたんです。

子どもが生きる力を身につけるうえで、学校に行くか行かないかはどっちでもいいし、成績がいいかどうかなんて関係ない。

ちゃんと「ありがとう」と「ごめんなさい」が言えるか。親が忙しそうなら、自分ができる手伝いをしようと思えるか。

そのほうがずっと大事です。そのためには、規則正しい生活も必要ですけど、親がきちんと見本を示して、楽しそうに生きている背中を見せられるかどうかが大きいですね。

宿題に最後までつきそう、スマホやゲームを親が管理するなど、よくある親の行動が子どもの脳には逆効果だと成田先生が指摘。子育てが劇的にうまくいく45の方法を解説する『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)。

取材・文/石原壮一郎

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なりた なおこ

成田 奈緒子

Naoko Narita
小児科医・医学博士・発達脳科学者

小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究をする。2009年より文教大学教育学部教授。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。 『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)、『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)、『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)など著書多数。 ●子育て科学アクシス

小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究をする。2009年より文教大学教育学部教授。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。 『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)、『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)、『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)など著書多数。 ●子育て科学アクシス

いしはら そういちろう

石原 壮一郎

コラムニスト

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか