「不登校」のキミへ…学校がつらかった小児科医・発達脳科学者が「学校へ行かない自分をホメて」

シリーズ「不登校のキミとその親へ」#3‐1 小児科医・発達脳科学者・成田奈緒子先生~子どもたちへ~

小児科医・医学博士・発達脳科学者:成田 奈緒子

成田先生が代表を務め、独自の子育て支援事業を行っている「子育て科学アクシス」にて話を聞いた。  写真:日下部真紀

10年連続で過去最多を更新し、約30万人(2022年度文科省調べ)といわれている小中学校の不登校。

問題とする報道も多いなか、小児科医で発達脳科学者でもある成田奈緒子先生は「大人たちのその考えが間違っている」とキッパリ断言します。

学校に行けず不安な子どもたちへ。成田先生からのメッセージとは。

※1回目/全4回

成田奈緒子PROFILE
小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。文教大学教育学部教授。臨床医、研究者の活動を続けながら新しい子育て理論を展開。『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)などがベストセラーに。

不登校なんてたいしたことじゃない

世の中では「学校に行かないこと」は、よくないこととされています。子どもが「不登校」になると、親も先生もどうにかして学校に通わせようとする。余計なお世話ですよね。

不登校をネガティブに語ったり特別視したりする風潮を私は忸怩(じくじ)たる思いで見ています。学校に行くか行かないかなんて、あなたの人生にとってたいしたことじゃないのです。

大人たちが「学校に行くこと」を過剰に重視するから、子どもの側も「学校に行けない自分はダメな人間だ」なんて思ってしまう。

理由はさまざまだとしても、今の自分に必要だから「行かない」という選択をしたんです。むしろ、勇気を振り絞って自分を守った自分をホメてあげてもいいと思うのです。

私も中学生のころ、学校に行くのがつらくてしかたなかった。今思えば起立性調節障害だったんだと思います。

駅まで歩いて10分ぐらいのあいだに、5回も6回も道端にしゃがみこんで吐き気と戦っていた。帰りも満員電車がつらくて、ひと駅ごとに降りて深呼吸して、休んでまた乗って、また次の駅で降りてということをやっていました。

だけど、親は学校を休むことを絶対に許してくれない。何度も「休みたい」と訴えたけど、文字どおり蹴とばして送り出されました。体も心も死にそうでした。最悪の決断をしなくて済んだのは、ギリギリの状況にある自分をどこか俯瞰(ふかん)的に見ていたからかもしれない。

子どもとこういう関わり方をしたら、そりゃ子どもはこういう気持ちになるよなとか、自分に子どもができたらこういう育て方はしないぞとか、客観的に自分を観察していました。

そのころの経験は結果として、今やっている「子育て科学アクシス」の仕事に生きているといえば生きてはいます。でも、けっして「いい経験だった」とは思いません。まして、不登校の当事者に「学校には無理してでも行ったほうがいい」なんて口が裂けても言えないです。

よく「不登校の子どもたちに気持ちが少しでも楽になるためのアドバイスを」なんて求められますが、そんな都合のいいものはありません。心の持ちかたで楽になれるぐらいなら苦労はしない。

「こう考えるといいよ」なんて言われても、つまりは大人が押しつけてくる「正論」なので、子どもとしては「うっせぇよ」と思うだけでしょう。

親御さんになら、言えることはあります。まずは、子どもが不登校だからって暗い顔をしないこと。笑顔になってください。親が苦しんでいる子どもをますます追いつめて、どうするんですか。

そして、子どもと共に早寝早起きをしましょう。脳をきちんと休ませれば、気持ちも考え方も前向きになっていきます。朝ご飯を家族で楽しく食べる。すべてはそこからです。

子どもたちへ、もう一度言います。学校なんて行っても行かなくてもどっちでもいい。勉強は、自分が必要だと思えばどんなタイミングでもどんな方法でもやれる。

あなたは今、本当の意味での「生きていく力」を身につけるために、自分にとって大切な日々を過ごしているんです。

宿題に最後までつきそう、スマホやゲームを親が管理するなど、よくある親の行動が子どもの脳には逆効果だと成田先生が指摘。子育てが劇的にうまくいく45の方法を解説する『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)。

取材・文/石原壮一郎

なりた なおこ

成田 奈緒子

Naoko Narita
小児科医・医学博士・発達脳科学者

小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究をする。2009年より文教大学教育学部教授。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。 『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)、『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)、『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)など著書多数。 ●子育て科学アクシス

小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究をする。2009年より文教大学教育学部教授。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。 『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)、『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)、『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)など著書多数。 ●子育て科学アクシス

いしはら そういちろう

石原 壮一郎

コラムニスト

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか