【子どもの不登校】フリースクールの見極め方を教育ジャーナリストが伝授 子と親をラクにするのはインチキおじさん!?

シリーズ「不登校のキミとその親へ」#6‐3 教育ジャーナリスト・おおたとしまささん~フリースクールの選び方、親の力の入れ方と抜き方~

教育ジャーナリスト:おおたとしまさ

『ルポ名門校』(ちくま新書)など中学受験に関する著書も多数。数々の学校・先生を取材していながらも「必ずしも学校に通わなくてもいいじゃんと思っている」。  写真:日下部真紀

不登校特例校、教育支援センター、フリースクール、通信制高校、不登校専門塾、ホームスクール、平日昼間の居場所……等々、不登校の子どもの学びの場を徹底的に取材・紹介した新書『不登校でも学べる 学校に行きたくないと言えたとき』(集英社新書)。

著者である教育ジャーナリスト・おおたとしまささんに、信頼できるフリースクールの選び方、親のサポートのさじ加減、価値観の向き合い方などを聞きました。

※3回目/全4回(#1#2#4を読む)公開日までリンク無効

おおたとしまさPROFILE
教育ジャーナリスト。1973年、東京都出身。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社後、雑誌編集に携わり2005年に独立。教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続け、著書は80冊以上。

フリースクール選び 「いっしょに悩む」相手が良い理由

学校に行かなくなった子どもが、次の一歩を踏み出そうと思ったときに、大きな受け皿になっているのがフリースクールです。

急いで探す必要はぜんぜんないけど、休み始めたころに比べて、子どもが少し元気になってきたなと感じたら、「こういうフリースクールがあるみたいだけど、行ってみない?」と提案してみるのは、悪いことじゃないと思います。

親としては「学校(スクール)」という名前のところに通うことで、勉強の遅れが少しでもカバーできると考えるかもしれない。でも、フリースクールに通ういちばん大きな意味は、子どもに「学校だけが世界じゃないんだよ」と感じさせることです。

週に何日かでも、昼間に通うところができることで、自分の「居場所」ができる。そうすると、気持ちに余裕が出てくるんです。勉強のことは、いったん忘れましょう。

不登校の子どもが増えて、フリースクールに限らず、さまざまな“受け皿”が生まれました。もちろん、ほとんどのフリースクールや塾や支援団体は、子どものことを真剣に考えています。しかし、親の不安に付け込んで、お金儲けのために不登校の子どもを利用しているところも、残念ながらなくはありません。

「信頼できそうなところ」と「そうじゃないところ」は、どう見分ければいいのか。大まかな傾向として、説明を受けたときに「ウチに来れば大丈夫!」「私にまかせてください!」と自信満々で断言してくるところは、気を付けたほうがいいでしょうね。

それよりも、何か聞いてもビシッとした答えが返ってこなくて、いっしょに悩み込んじゃうような人がやっているところのほうが信用できます。不登校になった原因にせよ、子どもの苦しみを軽くする方法にせよ、簡単にわかるわけがありません。絶対的な正解もありません。

立て板に水ですぐに「正解」を示してくれるところより、わかったフリをしないで「いっしょに考えていきましょう」と言ってくれるところのほうが、はるかに誠実です。

「信奉できるカリスマ」が見つかったら、追い詰められている親にとってこんな嬉しいことはありません。劇的な変化を夢見て、子どもをゆだねたくなるでしょう。でも、強制的に子どもをコントロールして変わったとしても、何の意味もありません。

自分の力で変わったわけではないので、やがてより深刻な形での揺り戻しが来るでしょう。そして親は、また次のカリスマを探したくなる。親も子も救われない悲惨な悪循環です。

子どもの興味をいっしょにおもしろがる効能

子どもがフリースクールに通い始めたら、そこでどんなことをしているのか、楽しく過ごせているのか、親としてはとても気になります。

子どもに「どうだった?」と聞きたくなるでしょう。それは仕方ないとしても、帰ってくるたびに「今日はどんな勉強をしたの?」「友達はできた?」なんて次々と聞いてこられたら、子どもはたまったもんじゃありません。

こっちが質問攻めにするんじゃなくて、雑談の中で子どもが自分から話してくれるのが理想的ですね。それも些細な話を始めたときほど、しっかり耳を傾けてあげてほしい。

こんなバカなヤツがいてこんな失敗をしたとか、先生がヘンなアクセサリーを付けてたとか。子どもがどこに心を動かされたのかをそのまま受け止めて、いっしょにおもしろがりましょう。

親はつい「アクセサリーの話はいいから、今日はどんなことを勉強したの?」なんて言ってしまいます。せっかく子どもが「心を動かされたこと」を親と共有しようとしているのに、それを拒絶されたらもう話す気がなくなってしまう。不登校とは関係なく、そういう「他愛のない雑談」が足りていない親子って、けっこう多いんじゃないでしょうか。

不登校を選んだ子どもは、けっして「弱い子」ではありません。学校をつらいと感じて、「行かない」という道を選んだ。選べなかったら、さらにつらくなるかもしれない。違和感をそのままにしないで、自分の人生に必要なことを自分で選び取れる子なんです。

そのエネルギーは半端ではありません。親としては、学校に行かないことでマイナスのレッテルを貼るのではなく、強さと勇気を持った子なんだと思ってあげてください。

おおたさんは、メディアや講演等で親からの子育ての相談にもよく答えている。  写真:日下部真紀

解決法は押し・引きの「温度調節」かも

そうは言っても、子どもが「学校に行きたくない」と言い出したら、すんなり「じゃあ行かなくていいよ」と認めればいいという話でもありません。

「がんばれ」と背中を押してほしい場面もあるかもしれない。「がんばれ」と言ってはいけない場面もあるでしょう。どういうときにどんな反応をするのがベストなのかは、スパッとは言えません。

結局は、トライ・アンド・エラーなんですよね。海外のホテルのシャワーって、温度が安定しないことがあるじゃないですか。お湯と水の出る量を調整しながら、ちょうどいい温度を探っていかなきゃいけない。

子育てって、あらゆる場面でその連続みたいなところがあります。不登校というナイーブな状況にある子どもに対しては、ひときわ慎重に根気よく“温度調節”をしなければなりません。失敗してはまた調節して、やり直しての繰り返しです。

1段上の立場から「自分がこの子のことを理解してやる」と思っているうちは、ちょうどいい“温度”は見つかりません。試行錯誤する中で「自分は何もわかっていない」と気づけたとしたら、まずはそこからです。

謙虚な気持ちで子どもと対峙できれば、次の段階に進めるでしょう。言ってみれば、試行錯誤の過程自体が解決法なのかもしれない。

子どもの気持ちをラクにしてあげるという意味では、世の中には学校の常識や親の価値観とは別の何かがあると実感させてあげるのも、ひとつの方法です。

昔は親戚の中に、何の仕事をしているのかわからないおじさんがいて、ふらっと現れてはごはんを食べていったりしていました。どこまで本当なのか、よくわからないインチキな話で笑わせながらね。

だけど今は、親戚付き合いが昔ほど密じゃないから、そういうインチキおじさんを見る機会はまずありません。たとえばお父さんが、自分の友だちの中から、いちばんインチキそうな……と言うと語弊があるけど、いちばん自由に生きていそうな人を家に招いてみるといいかもしれない。

おでんとかつつきながら、子どももまじえていろんな話をする。子どもが「世の中って、けっこう何とかなるもんなんだな」と思ってくれたら大成功です。

でもまあ、そんなに都合よく「適任」の友だちはいませんよね。既存の「枠」に縛られているのは、親も同じです。

「何をやっているかよくわからないおじさん」や「自由に生きている友だち」を想像してみることで、脳内に現れたその人たちが「まあまあ、もっと肩の力を抜いて」「そのうちどうにかなるよ」と言ってくれるんじゃないでしょうか。


取材・文/石原壮一郎

学校だけに頼らない多様な学びの形を取材した、おおたとしまささんの著書『不登校でも学べる 学校に行きたくないと言えたとき』(集英社新書)。不登校に迷う子どもや親の指針になる一冊だ。

※おおたとしまささんの不登校インタビューは全4回(公開日までリンク無効)
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おおたとしまさ

教育ジャーナリスト

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など80冊以上。

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など80冊以上。

いしはら そういちろう

石原 壮一郎

コラムニスト

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか