中学受験「中高一貫校は豊かな思春期を送るためのゆとり教育だ」教育ジャーナリストが解説

中学受験をする・しない どちらの場合でも親が心得ておくべきこととは #3 受験のタイミングと学校選び

教育ジャーナリスト:おおた としまさ

親の役割は自信を持って子どもを送り出すこと

───東京は私立、公立ともに選択の幅がある特殊な地域ですが、地方はどうでしょうか。

おおたさん:地方の場合は選択肢が限られますね。私立はあまり発展していません。地域の良い文化や風土、期待や誇りが凝縮しているのは、おおむね旧制一中、旧制二中の流れを汲む公立の名門校です。ただ、公立と私立、それぞれに存在意義があるので、どちらが良いかという比較には意味がありません。

学校選びについてもうひとつ、個人的に付け加えたいことがあるとすれば、最近は「不透明な時代を生き抜ける人材を育てる」というメッセージを強調する学校が多いことが気がかりです。

見据えている先が「グローバルに活躍できるビジネスマンとしてのサバイバルスキルを身に付けさせる」という経済的な“成功”や、“勝ち組”になるための発想だとしたら、あまりに視野の狭い話です。

これは私の個人的な意見ですが、どんな時代であっても、ゆるぎない信念を持った生き方や、人生で何を喜びにし、何を大切にするのかという価値観を考えさせることが中高教育で一番大切なことだと思っています。そういう広い視野の教育観を持っている学校選びが重要ではないでしょうか。

───それは私たち親世代の責任でもあります。グローバル社会の中で生き抜いていけるようにしなければ、という意識にとらわれがちです。

おおたさん:私たちは経済を回すために生まれてきたわけではありません。わが子が一人で勝っても、一緒にがんばっている周りのお友達が生き生きと元気に暮らしていけなかったらどうでしょう。みんなが活力を持って、生きていける社会であれば、その中でわが子の位置が「上の中」だろうが、「下の中」だろうが生きていけるじゃないですか。

みんなが精神的に疲弊し、生きる活力を失ったら社会は沈んでいくばかりです。沈む船のマストの上にわが子を立たせてもしょうがない。親御さんたちには、この点に気づいてもらいたいですね。

親ができることは「この学校に入れなかったら、あなたの人生終わりだ」と脅すことではない。「あなたなら、どんな学校に入っても大丈夫」と自信を持って送り出せるように育てることです。勉強を教えるのは先生や塾の講師。親の役割は人生を教えることです。

───親である私たちは、学校に過剰に期待しすぎていますよね。

おおたさん:そうなんですよ。自分たちのことを考えてみてください。これまで出会った友人、恋人、仕事仲間など、さまざまな人に影響を受けています。学校はとても影響力が大きいように見えますが、人生はそれだけで成り立っているわけじゃありません。その子が人生を終えるときに幸せな人生だったと思えるかどうか、親御さんは広い観点で中学受験を考えてほしいと思います。

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全3回にわたって、おおたとしまささんに中学受験についてお話しいただきました。

親の物差しのなかでの中学受験ではなく、中学受験をしたことによって、自信を持って子どもを送り出せるように、親である私たちも中受の意味をもう一度見つめ直したいと思いました。

取材・文/鈴木美和

おおたとしまささんの中学受験連載は全3回。
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おおたとしまさPROFILE
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験も。

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おおた としまさ

教育ジャーナリスト

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など70冊以上。

1973年、東京都出身。教育ジャーナリスト。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。97年、リクルート入社。雑誌編集に携わり2005年に独立後、教育をテーマにさまざまな取材・執筆を続けている。中高の教員免許、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験もある。 主な著書に『勇者たちの中学受験』、『子育ての「選択」大全』、『不登校でも学べる』、『ルポ名門校―「進学校」との違いは何か?』、『なぜ中学受験するのか?』など70冊以上。