
子どもも大人も「ぴたっ」が気持ちいい! 『ぴたっとどうぶつ』高橋祐次さんインタビュー
とにかく図工の成績がよかったという絵本作家の高橋祐次さん、どんなふうに絵本を作っているのですか?
2025.06.17
絵本作家:高橋 祐次




絵を描くのが好きでした。小学生の頃は、マンガを模写したり自分でも描いたり。
小学校の図工の授業で、屋根瓦に特殊な絵の具を使って顔の絵を描くことになったのですが、先生が説明しているのをきかないで、おしゃべりしていたんですね。「もう説明しないからね」と怒られ、やり方がわからないにもかかわらず、なんとなく手順がわかって、すらすら上手にできたのを覚えています。とにかく図工の成績はよかったです。
高校時代は、漫画誌「ジャンプ」の新人賞に応募したりしていました。漫画家になりたかったので、絵を描く勉強がしたくて、高校3年のときに急に美大に行きたいと思ったんです。浪人するつもりで受けてみたら、横浜美術大学に合格。
――絵本作家になったきっかけは?
大学は、めちゃくちゃ楽しかったです。大学3年のときに、課題で絵本をつくることになりました。その頃は、「ジャンプ」の担当者編集者がついていて、ネームを見せたりもしていたのですが、マンガ作りの難しさも感じていました。
そこにあらわれたのが、絵本。マンガを描いていたので、ストーリーを作るのも楽しく、作り始めたらおもしろくて。大学の課題でつくった絵本を、ピンポイントギャラリーのコンペに出したら賞をいただき、さらに絵本が作りたくなりました。
大学の卒業制作は、絵本を作りました。4冊のうちの1冊『やまびこくん』を文芸社の賞に応募したところ、大賞を受賞し、出版に至りました。

個展とグループ展あわせて、年に20回くらい、展覧会を催していますが、作品は、半立体の絵画作品です。一方で、絵本は平面のイラストで作ることが多く、絵画作品と絵本とでは、作風が乖離していました。なので、いつか「高橋祐次」として一致するものを作りたいと思っていたんです。
そんな時、編集の人が展覧会を観にきて、半立体の動物作品を見て、「これを絵本にしては」と言われました。確かに、この方向性で自分の絵画作品の絵柄のまま、絵本ができるかもしれないと思いました。
――「しゅうごーう」というかけ声でどんな動物になるのか、予想するのが楽しいです
講談社の「全国訪問おはなし隊」の読み聞かせに参加したとき、クイズのような呼びかけのある絵本に、子どもたちがうれしそうに反応する様子を間近で見ました。その時、文字がわからなくても、子どもたちが楽しんでくれるような絵本を作りたいと思ったんです。
打ち合わせに入ってからは、よねづゆうすけさんの『のりものつみき』(講談社)を読み聞かせてもらいました。その時に、あ、こういう絵本なら自分の絵柄でできるかもと思ったんです。

ラフができあがるまでたいてい1年くらいかかるんですが、『ぴたっとどうぶつ』は、思いついてからすいすい進み、すぐにラフを描きあげることができました。
――絵画作品でも絵本でも、砂を使うのは、高橋さんの特徴ですね?
アクリル絵の具に、モデリングペースト(大理石の粉末が入った盛り上げ剤)や、砂、細かく砕いた貝殻を混ぜたりして、マチエールを出しています。砂は、画材屋で買ったりすることもあれば、砂浜でひろったりもします。



大学生までは、砂などは使わず、画用紙にアクリル絵の具を使って絵を描いていました。大学院生になってから絵画作品の発表を始めたのですが、その頃はすでにSNSがあり、ウェブ上でも作品を見てもらえるようになっていました。
ただ、展示会場にいらしてくださった方に、スマホの画面で見るのとはちがう体験をしてほしかったんです。ウェブでも見られるのに、わざわざ展示会場に来ていただけるってすごいことですよね。
――1体の動物が、たくさんのパズルのピースによってできあがっていますが、どんなふうに作っているのですか?
パズルの材料は、ホームセンターなどで売っているMDF(Medium Density Fiberboard)という、約40㎝四方の木質ボードです。厚さは2.5㎜、4㎜、5.5㎜の3種類。
このボードに、絵の具に砂をまぜたものをぬります。ざらついている表面をやすってなめらかにすると、砂が削れて断面があらわれ、ぷつぷつとした表情が出ます。
パソコン上で、まず輪郭線を書き、どんなふうにパーツに分けるか、決めていきます。パーツそれぞれの厚み(2.5㎜、4㎜、5.5㎜)を決め、厚みがそろっているパーツを集約させて、レーザーカッターで切り分けます。今回はパズルなので、台紙に貼りつけたりはしていませんが、絵画作品の場合は、切り抜いたパーツを木工用ボンドで貼りつけています。

――たくさん動物が出てきますが、どの動物にするかはどうやって選んだのでしょう?
まずは、色味が単調にならないようにと考えました。それから、サイズ的に、急に小さいねずみがいたらおもしろいかなとか。色味は、自分の好きなトーンになっています。
――今回、最終的な絵の完成は、撮影された写真ですね
講談社の大きなスタジオに、小さな台を置いて撮影しました。厚さ2.5~5.5㎜のパズルは、どう光を当てるかによって、影の表情が変わります。影がないと立体感が出ないし、かといって影が濃くなりすぎると絵としてうるさくなるので、何度も試しながら撮影していきました。



清水さんのSNSをフォローしていて、かわいさとかっこよさが同居している、素敵なデザインだと思っていました。パッケージとかポスターとかロゴとか、それぞれちがうのですが、デザインする対象に寄り添うデザインで、どれもとてもよいんです。
清水さんなら、絵本に力をくれるのではと思ってお願いしました。タイトルや本文の書体は、ぜんぶ作字してくださっているんですよ!
――どんなふうに読んでほしいですか?
1回目は、ぜひ、なんの動物か、予想しながら読んでみてください。
2回目は、なんの動物ができあがるかわかっている状態だと思うので、このパーツはどのあたりなのかなどを想像するのも楽しいと思います。
それから、テキストのリズムにこだわったので、声に出して読んでほしいです。
そうそう、後見返しや表4に載っている動物のパーツが、その動物のどこの部分なのかも見つけてほしいです。


大学時代から絵本を作ってきましたが、絵本の絵となると、平面の絵を描き、それをスキャンして絵本にしあげてきました。そのうち、絵画作品を発表するようになり、半立体の作風が生まれました。今、『ぴたっとどうぶつ』で、このふたつの方向が合致したことが、うれしいです。
我ながら、かっこよくできたと満足しています。大人が見ても楽しんでもらえるかなと思っています。「どうぶつ」に続いて、続編が出せたらと思っています。
絵本『ぴたっとどうぶつ』の原画に会える 高橋祐次さんの展覧会
2025年
6月18日(水)~24日(火)
丸善・丸の内本店4Fギャラリー
7月2日(水)~8日(火)
福岡ジュンク堂書店
7月11日(金)~17日(木)
丸善京都本店
7月23日(水)~8月4日(月)
丸善岡山シンフォニービル店![]()
高橋 祐次
1993年、愛知県生まれ。東京藝術大学デザイン専攻修了。絵本作家、画家、イラストレーターとして活躍している。 2015年、第16回ピンポイント絵本コンペ優秀賞を受賞。2016年、『山びこくん』(文芸社)で第10回えほん大賞絵本部門大賞を受賞。2022年、ボローニャ国際絵本原画展入選。ほかの絵本に『ぼくはくるま、みんなもくるま』(あかね書房)、『ずぼっじー』(講談社)などがある。
1993年、愛知県生まれ。東京藝術大学デザイン専攻修了。絵本作家、画家、イラストレーターとして活躍している。 2015年、第16回ピンポイント絵本コンペ優秀賞を受賞。2016年、『山びこくん』(文芸社)で第10回えほん大賞絵本部門大賞を受賞。2022年、ボローニャ国際絵本原画展入選。ほかの絵本に『ぼくはくるま、みんなもくるま』(あかね書房)、『ずぼっじー』(講談社)などがある。