ブルーベリーの卵を抱えた『青い鳥』の鳥かごパイを作ろう

読んで楽しい、作っておいしいエッセー&レシピ 児童文学キッチン#08

ぜんぶ食べることができちゃう幸福の青い鳥です。(撮影/青砥茂樹)
児童文学作家の小林深雪さんと、お菓子研究家の福田里香さんのかわいい本『児童文学キッチン お菓子と味わう、おいしいブックガイド』から、読んで楽しい、作っておいしい、エッセー&レシピを厳選してお届けします。

第8回目は、永遠の名作『青い鳥』。福田里香さんが“幸福のblue bird(青い鳥)”をお菓子にしたら、こんなにかわいいお菓子になりました。食べてしまうのがもったいないですね。


(「児童文学キッチン」のほかの記事を読む)

ブルーベリーの卵を抱えた、 ブルーバードの鳥かごパイ(福田里香)

<チルチルとミチルは、いつまでも、ここにいたくてなりませんでした。でも、出発しなければなりません。

 やっぱり、この『幸福の花園』にも、青い鳥はいませんでした。どこまでいけば、青い鳥は見つかるのでしょう……。> 
『青い鳥』より
『青い鳥』は読んだことがなくても、みんななんとなく知ってる気になるほど、世界的に有名な寓話です。わたしがはじめて読んだのは、幼児用の十ページほどの短縮版の絵本でした。

あらためて読み直してみると、かなりの長編で、「幸福の青い鳥は、やっぱり家にいた。めでたし、めでたし。」という単純な話ではなく、じつはもっと複雑な話なのでした。

それにしても、幸福をblue bird(青い鳥)にたとえるとは本当に美しい印象で、作者のメーテルリンクは慧眼
けいがん)
です。

「永遠の幸福」は、幻かもしれませんが、「幸福の青い卵を抱えた青い鳥のお菓子」は現実です。さあ、ひとときの幸福をおいしく食べてしまいましょう。(福田里香)

だれもが持っているのに気がつかない幸福の「青い鳥」(小林深雪)

<夕がたになれば、〈夕日の幸福〉がいます。これは、この世界のどの王さまよりりっぱで、大むかしの神さまのような
金色をした〈星の光りだす幸福〉を、おともにつれています。
 それから、お天気のわるい日には、しんじゅをいっぱいつけた〈雨の日の幸福〉がいます。〈冬の火の幸福〉は、こごえた手に、美しいむらさき色のマントをかけて、あたためてくれます。>
『青い鳥』より
チルチルとミチルの兄妹は、貧しいきこりの子どもです。クリスマスイブだというのに、うちには、ツリーもなければ、ケーキもありません。そこへ、魔法使いのおばあさんがあらわれ、「青い鳥」をさがしてほしいと頼みます。

ふたりは、幸福のしるしの「青い鳥」をさがしにでかけます。魔法使いのくれた帽子をかぶって、ついているダイヤモンドを回すと、「ほんとうのもの」が見えるのです。

ふたりは、思い出の国、夜の御殿、森、幸福の花園、未来の国を訪ね歩きます。

「世の中には、みんなが考えているより、ずっとたくさんの〈幸福〉があるのに、たいていの人は、それを見つけられないんですよ。」
 
光はふたりにそう言います。    

「子どもである幸福は、お金持ちの子にも貧しい子にも平等にあるんですよ。」と、じつは、ふたりの家にも、たくさんの幸福があることを教えてくれるのです。

健康である幸福、きよらかな空気の幸福、青空の幸福、昼間の幸福、春の幸福。
 
わたしたちは、毎日、いろんなものを見て感じて暮らしています。
 
でも、「昨日の昼間の雲はどんな形でしたか? 夕方の空は、どんな色でしたか?」とだれかに聞かれたら、意外と答えられないものです。じつは、そのひとつひとつに、幸福が宿っているのに。

雲の動き。風の音。日の光。息をしていること。目が見えること。歩けること。家族がいること。だれかと話せること。この本を読むと、ごくあたりまえのことの大切さに、気づかされます。

あんなにさがしてもどこにもいなかった、幸福の「青い鳥」は、家の鳥かごの中に、じつはすぐそばにいたのです。
 
子どものころ、持っていた本は、成長するにつれて手放してしまうもの。

でも、こうやって、なつかしい本を読みかえすと、いつか見た夢を、もう一度見ているような、しあわせな気持ちになれます。

まさに、子ども時代に読んだ本こそ、わたしたちの「青い鳥」なのかもしれません。(小林深雪)

”幸せの青い鳥”を作りましょう(福田里香)

材料(直径8㎝、高さ8㎝の鳥かご1個分)

市販の冷凍パイシート 1枚
ブルーベリー 8粒
生クリーム 80 ml
砂糖 小さじ1
直径8㎝、高さ8㎝の耐熱容器 1個
リボン 20㎝

<アイシング>
 粉糖 大さじ4
 青色のフードカラー 耳かき1/6
 牛乳 少々

アラザン 1粒
作り方

下準備:天板にクッキングシートを敷き、その上に耐熱容器を伏せて置く。

   解凍したパイシートを打ち粉(分量外)をした台に置き、めん棒で長さ25㎝になるまでのばす。

  鳥かごの金網部分を作る。1のパイ生地から、幅1㎝のひも状に4本切り出す。これを用意した耐熱容器に放射状にのせて、中心の重なりを指でぎゅっと押さえて留める(写真参照)。
写真は耐熱性のココット容器を2つ重ねて使用しています。ラベルをはがして、きれいに洗った耐熱性のジャムびんなどを伏せて使ってもいいですね。(撮影/青砥茂樹)
  2で残ったパイ生地で、鳥かごの底部分と青い鳥を作る。ナイフで、パイ生地を直径10㎝の円形に切り、一面にフォークで穴をあける。ナイフで、体長4㎝の鳥形に切り取る。鳥は、焼いたときにふっくら膨らませたいので、穴はあけないこと。
平らにしあげたい台はフォークでさして穴をあけてから、ふくらませたい鳥はそのままで焼いて。(撮影/青砥茂樹)
   2の天板に3をのせ(取り出しやすいように鳥を手前にする)、200℃に温めたオーブンに入れる。途中で、鳥が膨れて焼き色がついたら、菜箸などで先に取り出し、冷ましておく(熱いので火傷をしないように、ミトンをして取り扱ってください)。

   鳥かごの網と底に焼き色がつくまで、15~20分焼く。取り出して冷ます。完全に冷めたら、鳥かごの網にリボンを結ぶ。

   鳥に塗る青いアイシングを作る。器に粉糖を茶こしでふるい入れ、フードカラーも加える。1滴ずつ牛乳を加え、とろりとするまでティスプーンで練り混ぜる。ティスプーンですくって、4の鳥に塗り、目の部分にアラザンをうめこみ、乾かす。

7   底に氷水をあてたボウルに、生クリームと砂糖を入れ、泡立て器で8分立てにする。これを星形の口金をつけた絞り出し袋に詰める。

 鳥かごの底の中心に丸く生クリームを絞り出す。その上にブルーベリーを丸く並べる。ブルーベリーの上にさらに生クリームを小さく絞り出し、青い鳥をのせる。

  鳥かごの底の周囲にぐるりと生クリームを絞り出す。5をそっとのせる。

『青い鳥』についてあれこれ(小林深雪)

モーリス・メーテルリンク(1862~1949)は、ベルギーの作家。弁護士をしながら詩を作り、詩集『温室』を出版。「ルパン」シリーズで有名なフランスの作家ルブランの妹と結婚。パリに移住し、戯曲を発表。1911年、ノーベル文学賞を受賞しました。
『青い鳥』は、もとは童話劇で、日本では大正時代にはじめて上演され、子どもたちに人気に。高野文子さんの漫画に、『青い鳥』を演じる大正時代の少女たちのお話があり、当時の雰囲気が味わえるので、ぜひこちらも探してみて。
『青い鳥』
作:メーテルリンク 訳:江國香織 絵:高野文子 講談社青い鳥文庫

むずかしい漢字にふりがなつきで、小さいお子さんでも読みやすい児童文庫版。

お話から生まれた23のかわいいお菓子がレシピ付きで作れる!

『児童文学キッチン  お菓子と味わう、おいしいブックガイド』
文:小林深雪  料理:福田里香  講談社

読んで楽しい、作っておいしい!小林深雪先生の大好きな児童文学作品にインスパイアされたかわいいお菓子を福田里香さんのレシピつきで紹介!
*現在入手困難です。図書館などで探してみてくださいね。
(編集協力/俵ゆり)
こばやし みゆき

小林 深雪

Miyuki Kobayashi
作家

埼玉県生まれ。東京在住。武蔵野美術大学卒。ライター、編集者を経て、1990年作家デビュー。 「泣いちゃいそうだよ」「これが恋かな?」「作家になりたい!」シリーズ(すべて講談社青い鳥文庫)や、 エッセイ集『児童文学キッチン』、『おはなしSDGs /つくる責任つかう責任 未来を変えるレストラン』『スポーツのおはなし/体操 わたしの魔法の羽』、『どうぶつのかぞく/ホッキョクグマ ちびしろくまのねがいごと』『おしごとのおはなし/まんが家 ゆめはまんが家』(以上、すべて講談社)など著書は200冊を超える。 『デリシャス!』『恋人をつくる100の方法』など、漫画原作も多数手がけ、『キッチンのお姫さま』で講談社漫画賞受賞。

埼玉県生まれ。東京在住。武蔵野美術大学卒。ライター、編集者を経て、1990年作家デビュー。 「泣いちゃいそうだよ」「これが恋かな?」「作家になりたい!」シリーズ(すべて講談社青い鳥文庫)や、 エッセイ集『児童文学キッチン』、『おはなしSDGs /つくる責任つかう責任 未来を変えるレストラン』『スポーツのおはなし/体操 わたしの魔法の羽』、『どうぶつのかぞく/ホッキョクグマ ちびしろくまのねがいごと』『おしごとのおはなし/まんが家 ゆめはまんが家』(以上、すべて講談社)など著書は200冊を超える。 『デリシャス!』『恋人をつくる100の方法』など、漫画原作も多数手がけ、『キッチンのお姫さま』で講談社漫画賞受賞。

ふくだ りか

福田 里香

Rika Fukuda
菓子研究家

福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒。大学の同級生だった小林深雪さんの書籍に携わったことから、この道に入る。これまでに小林深雪さんの4冊のレシピブック『キッチンへおいでよ』『ランチはいかが?(編集)』、『デリシャス! スイート・クッキング(スタイリング)』、『児童文学キッチン(共著)』(以上、講談社)に携わる。 単著に『民芸お菓子』(Discover Japan)『いちじく好きのためのレシピ』(文化出版局)、『新しいサラダ』(KADOKAWA)、『フードを包む』(柴田書店)、『まんがキッチン』(文春文庫)、『まんがキッチン おかわり』(太田出版)、共著に『R先生のおやつ』(文藝春秋)がある。

福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒。大学の同級生だった小林深雪さんの書籍に携わったことから、この道に入る。これまでに小林深雪さんの4冊のレシピブック『キッチンへおいでよ』『ランチはいかが?(編集)』、『デリシャス! スイート・クッキング(スタイリング)』、『児童文学キッチン(共著)』(以上、講談社)に携わる。 単著に『民芸お菓子』(Discover Japan)『いちじく好きのためのレシピ』(文化出版局)、『新しいサラダ』(KADOKAWA)、『フードを包む』(柴田書店)、『まんがキッチン』(文春文庫)、『まんがキッチン おかわり』(太田出版)、共著に『R先生のおやつ』(文藝春秋)がある。