あのときめきをもう一度! “絵本のプロ”が選ぶ「恋する気持ちを思い出す」3冊

大人に効く絵本〔05〕『ぼくのキュートナ』『しげちゃんのはつこい』『としおくんむし』がおすすめ

東條 知美

リアルな恋やときめきから遠ざかっていても、絵本で思い出すことができる。
写真:アフロ
すべての画像を見る(全5枚)
絵本は、子どものためのもの。そんなイメージがありますが、美しい絵に癒やされたり想像力が鍛えられたり、ハッと気付かされたりと、実は大人にとっても感動がいっぱい。子育て中なら、子どもの頃とはまた違った向き合い方をすることで、わが子に、より絵本のよさを伝えられるかもしれません。

この連載では、絵本のプロがパパママにこそ読んでほしい絵本を、毎回テーマに合わせてピックアップ。第5回は、絵本コーディネーター・東條知美さんが、「恋する気持ちを思い出したいとき」をテーマに厳選した3冊をご紹介します。

恋人への“かわいいラブレター”にきゅん♡

大人になって寂しいなぁと感じることのひとつに、<恋をする機会がなくなる>というのもあると思います。「ん? 既婚者が何を!?」とツッコまれてしまいそうですが(笑)、恋をしていると毎日がキラキラ輝いて、明日が来るのが待ち遠しかった――。きっと多くの人が、そんな経験を持っているのではないでしょうか。

今は「お母さん」「妻」「お父さん」「夫」といった役割が、全身にピタッと張り付いている私たち。でもときどき、かつての自分をどこかへ置き去りにしてしまったような、寂しい気持ちになることはありませんか? そんなときは、恋をしていたころのことを、ちょっとだけ思い出してみてください。不器用で、最強で、最弱でもある……私たちの中に眠る男の子・女の子に出会える<恋>の絵本をご紹介します。

1冊目は、『ぼくのキュートナ』(作:荒井良二)です。主人公の<ぼく>が、大好きな恋人・キュートナに宛てた15通の手紙が綴られています。荒井良二さんの、けれん味のない、すてきな絵と手書き文字。手紙の内容からふたりのかわいらしい関係性が垣間見えて、きゅんきゅんしてしまいます。いばりんぼでわがままなキュートナ。なんだか昔の自分みたいです。

2001年に刊行された絵本ですが、最近特に響いたのがこのフレーズ。
<きょうはおやすみのひだね。うれしいね。コテン としてますか?(略)きょうはおやすみおやすみなので もうおやすみにしてください。コテン。じゃ また。>
こんなふうに、恋人にうんと甘やかされて、自分だけを甘やかすことができたあの日々……懐かしいですよね。

恋心がきゅんきゅんするような体験は、もはやなかなか望めるものではありませんので、ぜひ絵本での補充を試みてください! 恋を知ったすべての人のための絵本。かわいらしい手のひらサイズで、ママ友やお友達へのプレゼントにもおすすめですよ。
国内外で高く評価されている絵本作家・荒井良二の『ぼくのキュートナ』(作:荒井良二/講談社)。<はいけい ぼくのキュートナ>ではじまる、大好きな恋人へ宛てた15通の手紙

“淡い初恋の記憶”がよみがえってくる

続いてご紹介するのは、『しげちゃんのはつこい』(作:室井滋、絵:長谷川義史)です。なぜか気になるアイツ。ちょっぴりムカつくけれど、つい目で追ってしまう。ほかの女の子と楽しそうに話していると、何だかイヤな気持ちになる。自分でも気づいていなかったけれど、あれは初恋だった――。子どものころに、こんな経験をされた方は多いのではないでしょうか。

主人公は、小学校3年生の女の子・しげちゃん。ある日、クラスに転校生の男の子・サエちゃんがやってきます。しげちゃんは、なぜかサエちゃんのことが気になってたまりません。

私自身の初恋もしげちゃんと同じ、小学校3年生のころだったなぁと、この絵本を読んで思い出しました。跳び箱の8段を軽々跳べるスポーツマンで、いつも静かにニコニコ笑っている男の子。彼と目が合った瞬間、魔法にかけられたみたいに全身が固まった。そんな鮮烈な記憶がよみがえってきました。

特に好きなのは、しげちゃんとサエちゃんがお祭りへ行くシーン。サエちゃんと仲よくできて、体中がフワフワあたたかくなったしげちゃん。幼いふたりの淡い初恋、きっと忘れられない記憶として、いつまでも胸に残りことでしょう。最後のページは、涙でにじんで読めませんでした。

木造の校舎、ゆでたまご、お祭りの「カラーひよこ」……。長谷川義史さんの描く大らかな“あのころ”を味わいながら、ご自身の初恋の思い出をたどってはいかがでしょうか。
女優・室井滋×絵本作家・長谷川義史による『しげちゃん』シリーズ第3弾。幼いふたりの友情と淡い恋心を描いた『しげちゃんのはつこい』(作:室井滋、絵:長谷川義史/金の星社)

恋は全力で! 少年の“ほろ苦い片思い”

最後は、お子さんと読んでほしい1冊として『としおくんむし』(文:ねじめ正一、絵:高畠那生)をご紹介します。学校からの帰り道、ゆきちゃんに振り向いてもらいたくて、羽のはえた<としおくんむし>に変身したとしおくん。としおくんむしとゆきちゃんのやりとりを、縦横無尽、映画のカメラワークのような視点で描いています。

ただただ、大好きなゆきちゃんを笑わせたい、喜ばせたい。そんな全力少年・としおくんの、とっても健気でちょっぴり切ない片思いのお話。親子で「好きな子いるの?」なんて話をしながら読むのも、おもしろいかもしれませんね。

としおくんの恋は、ままならないものでした。そこで、私は思うわけです。「恋と子育て、どちらがままならないものだろうか?」と。子どもがぎゅーっと抱きついてくれる、その瞬間の幸せを思えば、ままならないこともすべて幸せで、何もかも許せてしまう。この感覚、どこか恋と似ているような、いないような……。

なーんて、冗談はさておき(笑)。
たまには、子どもでもなく夫でもなく妻でもなく、自分が世界の中心で、悩んだりはしゃいだり、愛を叫んだりしていた当時を思い出すのも悪くないと思うのです。パパママにこそ読んでいただきたい恋の絵本、ぜひご覧ください。
大好きなゆきちゃんに振り向いてもらおうと、としおくんはある日、<としおくんむし>に変身! ナンセンスユーモア絵本『としおくんむし』(文:ねじめ正一、絵:高畠那生/光村教育図書)
構成:星野早百合
この記事の画像をもっと見る(5枚)
とうじょう ともみ

東條 知美

絵本コーディネーター

絵本コーディネーター、講師、コラムニスト。1973年新潟県上越市生まれ。白百合女子大学児童文化学科卒業。在学中は桑原三郎氏(児童文学研究者)、角野栄子氏(児童文学作家)らに師事。卒業後、メディアファクトリー(現KADOKAWA)、国立国会図書館、幼児教育専門学校などの勤務を経て、絵本コーディネーターに。 絵本を題材に各地で講演、イベントを行うほか、執筆活動、保育士や図書館司書を対象とした研修などを手掛ける。コンセプトは「子どもに絵本を。大人にこそ絵本を。」 公式サイト  https://www.tojotomomi.com/ ブログ「僕らの絵本」 https://ameblo.jp/bokurano-ehon Instagram @tomomitojo Twitter @TOMOMIT

絵本コーディネーター、講師、コラムニスト。1973年新潟県上越市生まれ。白百合女子大学児童文化学科卒業。在学中は桑原三郎氏(児童文学研究者)、角野栄子氏(児童文学作家)らに師事。卒業後、メディアファクトリー(現KADOKAWA)、国立国会図書館、幼児教育専門学校などの勤務を経て、絵本コーディネーターに。 絵本を題材に各地で講演、イベントを行うほか、執筆活動、保育士や図書館司書を対象とした研修などを手掛ける。コンセプトは「子どもに絵本を。大人にこそ絵本を。」 公式サイト  https://www.tojotomomi.com/ ブログ「僕らの絵本」 https://ameblo.jp/bokurano-ehon Instagram @tomomitojo Twitter @TOMOMIT