あのときめきをもう一度! “絵本のプロ”が選ぶ「恋する気持ちを思い出す」3冊
大人に効く絵本〔05〕『ぼくのキュートナ』『しげちゃんのはつこい』『としおくんむし』がおすすめ
2021.05.12
この連載では、絵本のプロがパパママにこそ読んでほしい絵本を、毎回テーマに合わせてピックアップ。第5回は、絵本コーディネーター・東條知美さんが、「恋する気持ちを思い出したいとき」をテーマに厳選した3冊をご紹介します。
恋人への“かわいいラブレター”にきゅん♡
今は「お母さん」「妻」「お父さん」「夫」といった役割が、全身にピタッと張り付いている私たち。でもときどき、かつての自分をどこかへ置き去りにしてしまったような、寂しい気持ちになることはありませんか? そんなときは、恋をしていたころのことを、ちょっとだけ思い出してみてください。不器用で、最強で、最弱でもある……私たちの中に眠る男の子・女の子に出会える<恋>の絵本をご紹介します。
1冊目は、『ぼくのキュートナ』(作:荒井良二)です。主人公の<ぼく>が、大好きな恋人・キュートナに宛てた15通の手紙が綴られています。荒井良二さんの、けれん味のない、すてきな絵と手書き文字。手紙の内容からふたりのかわいらしい関係性が垣間見えて、きゅんきゅんしてしまいます。いばりんぼでわがままなキュートナ。なんだか昔の自分みたいです。
2001年に刊行された絵本ですが、最近特に響いたのがこのフレーズ。
<きょうはおやすみのひだね。うれしいね。コテン としてますか?(略)きょうはおやすみおやすみなので もうおやすみにしてください。コテン。じゃ また。>
こんなふうに、恋人にうんと甘やかされて、自分だけを甘やかすことができたあの日々……懐かしいですよね。
恋心がきゅんきゅんするような体験は、もはやなかなか望めるものではありませんので、ぜひ絵本での補充を試みてください! 恋を知ったすべての人のための絵本。かわいらしい手のひらサイズで、ママ友やお友達へのプレゼントにもおすすめですよ。
“淡い初恋の記憶”がよみがえってくる
主人公は、小学校3年生の女の子・しげちゃん。ある日、クラスに転校生の男の子・サエちゃんがやってきます。しげちゃんは、なぜかサエちゃんのことが気になってたまりません。
私自身の初恋もしげちゃんと同じ、小学校3年生のころだったなぁと、この絵本を読んで思い出しました。跳び箱の8段を軽々跳べるスポーツマンで、いつも静かにニコニコ笑っている男の子。彼と目が合った瞬間、魔法にかけられたみたいに全身が固まった。そんな鮮烈な記憶がよみがえってきました。
特に好きなのは、しげちゃんとサエちゃんがお祭りへ行くシーン。サエちゃんと仲よくできて、体中がフワフワあたたかくなったしげちゃん。幼いふたりの淡い初恋、きっと忘れられない記憶として、いつまでも胸に残りことでしょう。最後のページは、涙でにじんで読めませんでした。
木造の校舎、ゆでたまご、お祭りの「カラーひよこ」……。長谷川義史さんの描く大らかな“あのころ”を味わいながら、ご自身の初恋の思い出をたどってはいかがでしょうか。
恋は全力で! 少年の“ほろ苦い片思い”
ただただ、大好きなゆきちゃんを笑わせたい、喜ばせたい。そんな全力少年・としおくんの、とっても健気でちょっぴり切ない片思いのお話。親子で「好きな子いるの?」なんて話をしながら読むのも、おもしろいかもしれませんね。
としおくんの恋は、ままならないものでした。そこで、私は思うわけです。「恋と子育て、どちらがままならないものだろうか?」と。子どもがぎゅーっと抱きついてくれる、その瞬間の幸せを思えば、ままならないこともすべて幸せで、何もかも許せてしまう。この感覚、どこか恋と似ているような、いないような……。
なーんて、冗談はさておき(笑)。
たまには、子どもでもなく夫でもなく妻でもなく、自分が世界の中心で、悩んだりはしゃいだり、愛を叫んだりしていた当時を思い出すのも悪くないと思うのです。パパママにこそ読んでいただきたい恋の絵本、ぜひご覧ください。
東條 知美
絵本コーディネーター、講師、コラムニスト。1973年新潟県上越市生まれ。白百合女子大学児童文化学科卒業。在学中は桑原三郎氏(児童文学研究者)、角野栄子氏(児童文学作家)らに師事。卒業後、メディアファクトリー(現KADOKAWA)、国立国会図書館、幼児教育専門学校などの勤務を経て、絵本コーディネーターに。 絵本を題材に各地で講演、イベントを行うほか、執筆活動、保育士や図書館司書を対象とした研修などを手掛ける。コンセプトは「子どもに絵本を。大人にこそ絵本を。」 公式サイト https://www.tojotomomi.com/ ブログ「僕らの絵本」 https://ameblo.jp/bokurano-ehon Instagram @tomomitojo Twitter @TOMOMIT
絵本コーディネーター、講師、コラムニスト。1973年新潟県上越市生まれ。白百合女子大学児童文化学科卒業。在学中は桑原三郎氏(児童文学研究者)、角野栄子氏(児童文学作家)らに師事。卒業後、メディアファクトリー(現KADOKAWA)、国立国会図書館、幼児教育専門学校などの勤務を経て、絵本コーディネーターに。 絵本を題材に各地で講演、イベントを行うほか、執筆活動、保育士や図書館司書を対象とした研修などを手掛ける。コンセプトは「子どもに絵本を。大人にこそ絵本を。」 公式サイト https://www.tojotomomi.com/ ブログ「僕らの絵本」 https://ameblo.jp/bokurano-ehon Instagram @tomomitojo Twitter @TOMOMIT