江戸の暮らしは粋でエコ! 生活必需品・手ぬぐいから見えてくる江戸時代のSDGsを専門家が解説

サステイナブルな江戸時代の暮らしを、江戸研究家に聞きました

幼児図書編集部

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大河ドラマでも注目をあびている江戸時代。じつは、優れた循環型社会のしくみができていたといわれています。日本画家でもあり、江戸文化についての書籍を多数上梓されている、江戸の衣装と暮らし研究家・菊地ひと美さんに、江戸の暮らしから見えるSDGsについて、お話をうかがいました。

究極のエコ社会・江戸には「おなおしやさん」がいっぱい!

──物があふれる現代とちがって、昔の人々はさまざまなものを大切に使ってきたのですよね。どんな工夫をしていたのでしょう?

「修理をしたり、新品も一緒にもってきてくれる商売がありました。彼らは修理用品を持って、棒手振りのように長屋までやってきてくれます。『台所のカマド塗り(カマドの塗り直し屋)』『下駄の歯入れ屋(下駄の歯を直して新品も売る)』『焼き継ぎ屋(ご飯のお茶碗の割れやひびを直す。火をおこす炉を持ち歩き、漆で直した)』『鏡とぎ屋』などなど。こういった“リサイクル物売り”は20種類くらいあります」(菊地さん)

江戸のリサイクル代表格は?

──古くなったり壊れたものを、別の形にして再生する、という循環もありますよね。江戸時代のリサイクルにはどんなものがあるのでしょう?

「たとえば、人糞や馬糞は、買い集めて肥料として売る。近郊の農家の人が、直接長屋にきて便所から汲みとることもあり、その場合、多くは大根などと引き換え大家に渡していました。また『鳥の糞買い(ウグイスの糞)』というのもありまして、糞が洗顔料として使われました」

「リサイクルとしては、布が一番使われていたかもしれません。木綿布売りや、端切れ売りの棒手振りが、長屋に売りにきました。布は、すぐ擦り切れるので、表地の裏に端切れなどの当て布をして縫います。浮世絵にはよく、肩や膝に別布で当て布をしている姿が描かれています。ほかに、着物の開いている部分、袖口、すそには別布を付けますので、そういう裾まわしなどに使い回すことも。自分の着物が古くなれば、羽織や子ども着に縫い直します」
「灰買い」が家庭に灰を買い取りにくる様子。  絵本『ねこきちのてぬぐい』(かとうまふみ/作)より。

手ぬぐいから「サステイナブル」な社会が見えてくる

──菊地さんが監修された『ねこきちのてぬぐい』が刊行されました。この絵本は江戸時代を背景に、「手ぬぐい」が主人公になっています。江戸時代の手ぬぐいって、どういうものだったんでしょう。

「まず江戸の手ぬぐいの長さは三尺一寸(93cm)。現代では約二尺五寸(75cm)くらいで、現代のものより長かった。江戸ではさらに長い四尺、五尺(1.2~1.5m)のものもあり、用途によって切って使いました」(菊地さん)
──長さがフレキシブルだったんですね。どんな使われ方をしていたのでしょうか?

「用途はざっと10種類ほどあります。
⚫装いの一部として頭にかぶる。そのかぶり方だけで数十種類もあります。たとえば、男なら、頭の上に乗せる『置き手ぬぐい』『ほほかぶり』『吉原かぶり』『鉄火(やくざ風)』など。女ですと、『姉さんかぶり』。また、浮世絵でよく見られるように、洒落男として粋に見せたいときには、一方の肩にひょいと掛けたりします。
⚫生活の日用品として、汗拭きや、入浴のときの体拭きに。
⚫商店の屋号入り手ぬぐいを配る、これはいまでも宣伝用として使われることがありますね。
⚫芸事の祝儀用に紋入りなどで配る。これも歌舞伎役者さんや落語家さんなどの間でありますね。
⚫祭りなどのときに、町内で揃いの手ぬぐいをあつらえて、連帯感をだす。
⚫落語などで芸人たちが小道具として使う。
⚫船頭や日雇い労働者などが長い手ぬぐいを、ラフに縛って帯として用いる。
⚫下駄の鼻緒が切れたときに、細く切って鼻緒の代わりに使う。
⚫急場に包帯として使う。
これは現代でもおすすめで、防災袋に一つあれば重宝します」(菊地さん)
菊地ひと美 著『江戸おしゃれ図絵』(講談社)より
──かぶり方だけで数十種類とは、もはやおしゃれアイテム!! ただ水分を拭いたりするだけではない、生活のなかで欠かせない、多様な使われ方をしていたんですね。確かに、放送中の大河ドラマでも、さまざまな場面で手ぬぐいが見え隠れしています。日常生活には欠かせないものだったんですね。

絵本から感じとる、江戸のSDGs

手ぬぐいが、おしめになり、ぞうきんになり……。  『ねこきちのてぬぐい』より
──菊地さんが監修として携わった絵本『ねこきちのてぬぐい』を、どうご覧になりましたか?

「単に猫の親子の話ではなく、江戸ではSDGsの社会があり、とことん使い回して暮らしていたことを取り上げてくださった着眼点がすごいと思いました。絵がかわいいので、お子さんたちの心に響くことを願っています」(菊地さん)

江戸研究家おすすめの手ぬぐいは?

──普段から手ぬぐいを使われているようですが、菊地さんの手ぬぐいのお好みは?

「江戸の伝統柄が、粋でカッコよくて、大好きです。柄は蝶文(ちょうもん)、三升(みます)、子持縞(こもちじま)など、色は草木染めの落ち着いたグレイッシュな紺、黄土、茶系、水色、緑系と、いろいろ揃えています。これらは上野の東京国立博物館をはじめ、美術館のミュージアムショップで販売されています」(菊地さん)

──どんな使い方をされていますか?

「汗拭きや洗顔用として、タオルよりもお肌にやわらかです。冬はスカーフがわりに、手軽で暖かく。髪をまとめるターバンにしたり、外科のコルセットベルトの下に巻くことも。夏には来客用お手拭きにします」(菊地さん)

──現代の生活の中にも、いろんな場面で手ぬぐいを取り入れることができるんですね。ぜひ真似してみたいです。
***取材を終えて***
『江戸吉原 解剖図鑑』(エクスナレッジ)を上梓されたばかりの菊地さん。秋には着物雑誌『七緒』秋号の特集記事の取材を受けられたとか。今の私たちにも通じるものがたくさんある江戸のお話を、また聞かせていただきたいです。

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菊地 ひと美

1955年生まれ。江戸の衣装と暮らし研究家。衣装デザイナー、イラストレーター、時代考証などを行う時代風俗研究家として活躍している。2002年から始まった日本橋開発に自身の作品が起用され、その絵は江戸東京博物館正門前の外通路と、日本橋三越新館地下に展示された。2004年にはナショナル雑誌広告『江戸へ帰ろう』が読者が選ぶ講談社広告賞大賞を受賞。2007年秋には、海外2ヵ国の国立美術館(ローマ、ブダペスト)で作品展示を行う。著書に、『江戸おしゃれ図絵 衣装と結髪の三百年』『ひと美の江戸東京名所図絵‐江戸の女・町めぐり』『絵で見るおふろの歴史』(講談社)『江戸にぞっこん‐風流な暮らし案内』(中央公論新社)『花の大江戸風俗案内』(筑摩書房)『江戸の子ども 行事とあそびの12か月』(偕成社)『江戸の衣装と暮らし 解剖図鑑』『江戸吉原 解剖図鑑』(エクスナレッジ)などがある。

てぬぐいが主人公!? 画期的な絵本『ねこきちのてぬぐい』

ねこきちのところにやってきた「まめしぼり」手ぬぐい。いつも、ねこきちと一緒に楽しくすごしていたのですが、ある日、古くなった布たちが、かまどにくべられたのを見て……。
物を大切にする心や、昔は当たり前にしていたことへの気づきが生まれる絵本。

作/かとうまふみ 講談社刊
※読み聞かせは4歳から、ひとり読みは6歳から

かとう まふみ

Mafumi Kato
絵本作家

1971年、福井県生まれ、北海道育ち。北海道教育大学卒業。ディスプレイデザインの仕事を経て、絵本作家に。絵本に『まんまるいけのおつきみ』『おならおばけ』『狂言えほん かずもう』(文・もとしたいづみ)『ねこきちのてぬぐい』(講談社)、『ぎょうざのひ』(偕成社)、『のりののりこさん』『けしゴムの ゴムタとゴムゾー』(BL出版)、『ひょろのっぽくん』(農山漁村文化協会)、『しゃもじいさん』『ぬかどこすけ!』『みそこちゃん』(あかね書房)、「どろろんびょういん」シリーズ(作・苅田澄子 金の星社)、『まあちゃんとりすのふゆじたく』(アリス館)、『かたつむりくん』(風濤社)、『おもちのかみさま』『よつばのおはなし』(佼成出版社)、『おとうさんのこわいはなし』(岩崎書店)、『セイロウさん』(WAVE出版)など、装画・挿絵に『にゃんともクラブ』(作・竹下文子 小峰書店)などがある。

1971年、福井県生まれ、北海道育ち。北海道教育大学卒業。ディスプレイデザインの仕事を経て、絵本作家に。絵本に『まんまるいけのおつきみ』『おならおばけ』『狂言えほん かずもう』(文・もとしたいづみ)『ねこきちのてぬぐい』(講談社)、『ぎょうざのひ』(偕成社)、『のりののりこさん』『けしゴムの ゴムタとゴムゾー』(BL出版)、『ひょろのっぽくん』(農山漁村文化協会)、『しゃもじいさん』『ぬかどこすけ!』『みそこちゃん』(あかね書房)、「どろろんびょういん」シリーズ(作・苅田澄子 金の星社)、『まあちゃんとりすのふゆじたく』(アリス館)、『かたつむりくん』(風濤社)、『おもちのかみさま』『よつばのおはなし』(佼成出版社)、『おとうさんのこわいはなし』(岩崎書店)、『セイロウさん』(WAVE出版)など、装画・挿絵に『にゃんともクラブ』(作・竹下文子 小峰書店)などがある。