第45回講談社絵本新人賞受賞作『どんぐりず』ができるまで⑤

【制作日記⑤】打ち合わせ、挫折、そして急展開!

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どんぐり ころころ どんぐり ほっ! どんぐり5人組が、木から落ちて着地するまで、まるで運動会のように走ってころんで泳いで飛びはねて……。

第45回講談社絵本新人賞を受賞したのは、この賞の歴史でもまれな「幼児絵本」。

絵本づくりってこんなに大変な道のりなのか……! えんえんと続く打ち合わせについて綴る(なのでこの回は長いです!)、受賞作家・秦直也(はた なおや)さんの制作日記6回連載のうちの第5回です!
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2024年11月中旬、3回目の打ち合わせでは、ラフを読みきかせし合いました。

前半が「絵本」になっていることに少し感動。読みきかせする側は初めてなので、少し緊張します。

どんぐりがリスに出会うシーンと、出遅れた赤どんぐりが逆転して1位になるシーンに、課題がありそうです。

また、リスの出現が、どんぐりたちにとって良いことなのかピンチなのかがわかりにくく、読み手がどう受け取ってよいか迷うようです。

これ以降、打ち合わせでは必ず、アイデア出しと読みきかせを交互にくりかえしていくことになりました。

翌日、打ち合わせの感覚を忘れないうちに、さっそくラフに着手。

リスにくわえられたどんぐりたちが画面からいなくなるシーンがあればおもしろいかもと思い、頰袋のふくらんだリスだけのシーンを入れてみたり。

11月末、4回目の打ち合わせ。絵コンテから、そろそろ実寸サイズ(200mm×200mm)に移行。

絵本になってきているものの、リスの登場のしかたやテキストにまだまだ課題が残ります。考えて、考えて、考えていくしかありません。

打ち合わせ後、「ちょっと絵の配置やテキストを(それもほんの数文字を)変えるだけでも読み心地がまるで変わるので、幼児絵本って、本当に難しくて、でもおもしろいです!」とNさんからのメール。本当にそう思います。
絵本づくりが始まったころの『どんぐりず』の絵コンテ。
12月から、ダミー絵本を制作。

実寸でテキストやレイアウトに取り組むと「この絵本はおもしろいのか?」と強く問われる気がしてきます。

2歳の読者(40歳下)になったつもりで、試してみるしかありません……。

5回目の打ち合わせ。どんぐりたちがリスと出会う前後の読みごたえを高めたい!

Nさんと、一日に何通もメールのやりとりを重ね、推敲していきます。

テキストの定型「どんぐり ○○○○ どんぐり ○○」を最後まで崩さない感じなど、いろいろとくりかえして試しますが、なかなか打開策が見つからず、停滞。

どのアイデアにも迷いがあり、同じような繰り返しの修正で正解を見失い、なんだか行ったり来たりで難しくなってきました。

そして12月末、6回目の打ち合わせ。

その日も読みきかせから。応募作に一度立ち戻り、前半からリスを登場させてみてはどうかと相談。

さっそくラフを描いてみると、リスとどんぐりが仲良く戯れているという感じになりました。

これならばリアルに描いたリスでも怖くは感じないかもと思ったのですが、やっぱりちがう気も。

そもそも応募作では、どんぐりたちがリスと友達になるとは思い描いていなかったのです。

リスが嵐のように現れて、どんぐりたちが転がされ、くわえられ、飛ばされ、埋められる。

どんぐりたちが巻きこまれて慌てながらも運動会が成立してしまうという、少しブラックユーモアなものを思い描いていました。
このころのラフには、こんなふうに、大迫力のリスが登場していました!
正直なところ、「ちいさいひとたちがどう読むか」という視点はほぼなくて、「リスとどんぐりを使ったアイデアをたくさん見せたい!」という感覚でした。

ここに大きな壁がありました。だいじなことは、「読者がどう読むか」です。

「どう読まれるかも含めて、その本の歴史ができていくように思うのです」とNさん。

Nさんが編集部で読みきかせをしてみたところ、前半はどんぐりたちと一緒に併走するようなつもりになってすごく楽しかったものの、リスが登場したとたん、瞬間的に「こわい」と感じるという感想が出たらしい。

大人でも「こわい」と感じるとは……。「えー! リスから始まった絵本ですよ!」 (心の中で)

挫折感。

正直、絵本に向いていないと思いました。小さい子たちの反応が想像できないからです。自信が持てません。

こうするときっと喜ぶぞ! と思える気持ちが圧倒的に足りないのです。
この先どうすれば…!?

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