第45回講談社絵本新人賞受賞作『どんぐりず』ができるまで⑤

【制作日記⑤】打ち合わせ、挫折、そして急展開!

が、その2日後、私は、リスがいないラフを描き始めました。

じつはなんとなくそうなる気もしていました。応募作は、リスとどんぐりの大喜利のアイデアをたくさん見せたいと意気込み、それを詰めこんだ形になっていました。

でもそれでは幼児絵本としては情報が多すぎて伝わりません。

改稿を繰り返すなかでリスの出番は減り、どんぐりたちを待ちかまえ、「ぱくっ」とくわえ、はきだす役目だけになっていたのです。

これでは必然性に欠ける怖いだけの異物です……。

初回の打ち合わせで、「アイデアは秦さんのなかにあります。だめかなと思ったときには立ち止まり戻りましょう」と言ったNさんの言葉を思い出しました(その後も何度かこのシーンを思い出すことになりました)。

年が明けて2025年1月9日。「小さな子たちが『どんぐりず』と友達になれるような絵本」を目指して再始動。

思いきって、どんぐりたちがリスの口から飛び出すところを、崖からジャンプするように変更しました。

リスに翻弄されるシーンを割愛すると、どんぐりたちの意思が生まれ感情移入しやすくなった気がします。
どんぐりたちが、リスの口からはきだされるシーンを
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走るどんぐりたちがとまれず、崖からジャンプするシーンに!
地面を走り、水の中を泳ぎ、空を飛ぶ、どんぐりず!

2025年1月中旬、7回目の打ち合わせ。

ジャンプの着地シーンのわかりにくさを解消するなど、整合性をとるために行ったり来たり。

打ち合わせ後、修正ラフを送ると、2時間後、Nさんから電話がかかってきました。

着地シーン(ほかすべて)が見事につながったとのこと。やったー!

「作家のことなんて知らないあなたにまで届く絵本を目指したい」と、この日のメモに書いてあります。

Nさんと、もっともっとおもしろい絵本になるようにがんばりましょう! と共鳴。
何度も修正や読み聞かせを繰り返しながら作り直したダミー本4冊とプルーフ。
2025年1月下旬、8回目の打ち合わせ。

ゴール前にもう少しタメがほしい、扉ページをどう使うかなどについて話し合い、その後、崖からの着地シーンやゴール前の見開きについて、何度もアイデア出しと意見交換。

小さなどんぐりの生態ならではの動きを考えて、赤どんぐりに目がいくようにするにはどうすればよいのかについても考えます。

そして2025年2月頭に、9回目の打ち合わせ。

修正したゴール前のシーンを読みきかせし合いながら確認。ラフが完成!

またもや、実寸のダミー絵本を作り、読み心地を確かめてから、本描きへ。

応募作のテキストは、幼児絵本を意識していましたが、この賞の傾向として落選するかなと思っていたのです。

まさか受賞し、ここまで来られるなんて。44歳になった日でした。

ところが、編集部や社外で『どんぐりず』を読みきかせしていたNさんから、相談の連絡が。

読み聞かせしていると、赤どんぐりが出遅れていることに気づかなかったり、着地するシーンの状況がつかみにくそうだったりする人が多いというのです。

これはいけません。赤どんぐりにさらに目をとめてもらえるよう、デザインやレイアウトを変えるなどの工夫が必要です。

また、かけっこの順位を決めたり、1位を喜んだりするのはどうなのかということについても話し合いました。

木から落ちてころがりはじめたどんぐりたちにとって、本当の「ゴール」はなんなのかと。
このころのラフでは、赤どんぐりが1位となってゴールする結末となっていました。
ああ、またもや難問が。ラフ完成の喜びはどこかへ飛んでいきました! 

応募作でも順位を決めようとは思っていなくて、5個のどんぐりたちを眺める感じの場面づくりのはずでした。

リスが現れて競争どころではなくなり、いつの間にか土の中にたどりつき……というお話のはずでした。

ただそのままでは、情報量が多すぎて伝わりません。

そこで赤どんぐりに注目させ、自然の力による棚ぼたゴール(逆転)であれば、おもしろく読んでもらえるのではないかと考えて、ここまできました。

赤に注目させる(主役にする)のは必要だと思うが、赤だけちがうという構成はすべてを失いそうな感じでやりたくありません。困りました。

本描きへ進むはずが……、文字どおりゴールを失いました。
『どんぐりず』どうなるのか…!?
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