絵本作家マーカス・フィスターさんに聞いた!「分かち合うこと」や「自分を変える勇気」の大切さ

世界でいちばん有名な魚が教えてくれること

高木 香織

フランクフルト・ブックフェアで取材を受けるマーカス・フィスター氏(写真提供:ノルドズッド社)
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絵本を開くと、キラキラ光る銀色のうろこの魚がいっぱい! しかも見る角度によってうろこの光り方が違って見える。思わず子どもたちはうろこに触ってみたくなる──。いつまでも眺めていたい、美しい絵本『にじいろのさかな』

そんな魅力的な絵本が多数展示されたフェアがありました。ドイツで2022年10月19日から23日までの5日間、フランクフルト国際ブックフェアが開催。フェアには世界中から出版社が集まってブースが立ち並び、さまざまなイベントが行われたのです。
多くの人が「にじいろのさかな」のコーナーに集まる(フランクフルト・ブックフェアにて/写真提供・ノルドズッド社)
特に人気だったのは、絵本「にじいろのさかな」(マーカス・フィスター/作、谷川俊太郎/訳)シリーズの原本を刊行しているスイス・ノルドズッド社のブース。2022年に刊行30年を迎えた「にじいろのさかな」シリーズは、世界中でますます人気が高まっています。そこで、シリーズ9作目の『にじいろのさかなとおはなしさん』を刊行した作者のマーカス・フィスターさんに、子どもたちに伝えたい想いをうかがいました。

30年間にわたって、世界中で3000万人以上に愛され続ける絵本

『にじいろの さかな』
作:マーカス・フィスター/訳:谷川俊太郎
『にじいろのさかな』は、わかち合うことや、勇気をもって行動すること、ほんとうに大切なものを見つけるまでを描く絵本です。「にじいろのさかな」シリーズは、1992年に第1作がスイスで刊行されてから、多くの子どもたちに読み継がれ、2022年に30周年を迎えました。世界中で3000万人以上に愛されるロングセラー作品です。
30周年を迎えた「にじいろのさかな」シリーズ
──『にじいろのさかな』の生誕30周年おめでとうございます! 30年描き続けてきて、あらためて、変わったなと思うこと、変わらないなと思うことはありますか?

フィスターさん:世の中は、ほんとうに大きく変わりましたね。私が初めて絵本を描いた1984年には、コンピュータも携帯電話もありませんでした。今では想像もつきません。でも、『にじいろのさかな』で描いている価値観や考え方は、今も昔も変わらないし、これからも変わらないだろうと思うと、なんだかほっとしますね。
「にじいろのさかな」のイベントでは大勢の親子連れやファンの前で、読み聞かせや楽しい歌が披露された(舞台上、左手に立つのがフィスター氏 フランクフルト・ブックフェアにて/写真提供:ノルドズッド社)

物語を家族で話し合うための材料に

『にじいろの さかなと おはなしさん』
作:マーカス・フィスター/訳:谷川俊太郎
──5年ぶりの新作『にじいろのさかなとおはなしさん』を楽しみにしていた読者も多いと思います。どんなところが新しくなっていますか。

フィスターさん:いつも新作には、少なくとも1つは新しいキャラクターを登場させようと思っています。でも、イラストのスタイルや海の中でのお話といった『にじいろのさかな』の持つ世界は変えないようにしているんですよ。
『にじいろのさかなとおはなしさん』には、ちょっと個性的な新しい仲間、ウンベルトが登場します。ウンベルトは、みんなにたいへんな知らせを伝えにきます。だれかが海の底の栓を抜こうとしているというのです。海の水がなくなったら、みんな干物になっちゃいます! さあ、たいへん! ……でも、ほんとうかなぁ? みんなを驚かせることと楽しませること。にじうおが教えてくれる、大切なこととは?
──このお話で、子どもたちにいちばん伝えたいことは何ですか。

フィスターさん:今の子どもたちは、SNSに触れる年齢がどんどん低くなっているので、何がほんとうなのか、何が噓なのかを話すことがとても大切になっていると思います。何を信用して、どこに気をつければいいのか。この膨大な情報量や押し寄せるニュースなどをどのように扱えばいいのか。このお話が、家族で話し合うための材料になればいいな、と願っています。

自分を変える勇気を持つことの大切さ

第1作の『にじいろのさかな』で、にじうおは海でいちばん美しい魚として登場します。にじうおのうろこは、キラキラと銀色に輝いて友だちを魅了します。でも、美しいうろこを自慢するにじいろは、やがてひとりぼっちに。淋しくなったにじうおは考えを変え、銀色のうろこを友だちに分け与えて、心から幸せになるのです。
──ウンベルトは、どのようなキャラクターですか。

フィスターさん:1作目でにじうおが学び、自分を変えなければならなかったように、ウンベルトも自分の行動を変えなければなりませんでした。お話の中でいちばんおもしろいのは、自分を変えることができるキャラクターたちです。にじうおやウンベルトは、そんなキャラクターです。

──キラキラ光るうろこは、何を表しているのですか。

フィスターさん:お金や豊かさを象徴しています。私たちは、それを分かち合わなければなりません。でも、キラキラ光るうろこは、にじうおにとって大事なものでしたから、友だちに分けてあげるには、自分を変える勇気が必要だったと思いますよ。

──最後に、日本の読者にメッセージをお願いします。

フィスターさん:こんなに長い年月、「にじいろのさかな」シリーズが愛されていることが信じられない思いです。日本の読者の方々の応援と信頼がうれしく、誇りに思います。これからも「にじいろのさかな」シリーズを読み続けてくださいね!
作者/マーカス・フィスター
1960年、スイスのベルンに生まれる。高校卒業後、ベルンの美術工芸学校の基礎科に入学。その後、グラフィック・デザイナーとして、1981年から1983年までチューリッヒで働く。カナダ、アメリカ、メキシコを旅行ののち、帰国後はフリーランスのグラフィック・デザイナー、イラストレーターとして活躍している。主な作品に「ペンギンピート」シリーズ、「うさぎのホッパー」シリーズ、「にじいろのさかな」シリーズなどがある。1993年、『にじいろのさかな』はボローニャ国際児童図書展エルバ賞を受賞。「にじいろのさかな」シリーズは、世界で3000万人以上に読まれる大ベストセラーとなっている。
翻訳者/谷川俊太郎(たにかわ・しゅんたろう)
1931年、東京に生まれる。高校卒業後、詩人としてデビュー。1952年に第一詩集『二十億光年の孤独』(創元社)を刊行。以後、『定義』(思潮社)、『女に』(マガジンハウス)、『ことばあそびうた』(福音館書店)、『はだか』(筑摩書房)、『世間知ラズ』(思潮社)など多くの詩作がある。ほかに、レコード大賞作詞賞受賞の「月火水木金土日の歌」、テレビアニメ「鉄腕アトム」の主題歌などの作詞、『スイミー』(好学社)などのレオニの絵本や『マザー・グースのうた』(草思社)、「スヌーピー」シリーズ(角川書店)、「にじいろのさかな」シリーズ(講談社)の翻訳など、幅広く活躍。1975年に『マザー・グースのうた』で日本翻訳文化賞、1988年に『はだか』で野間児童文芸賞、1993年に『世間知ラズ』で萩原朔太郎賞などを受賞。

世界でいちばん有名な魚「にじいろの さかな」30 周年記念PV

世界的ベストセラー絵本「にじいろの さかな」シリーズ30 周年! 記念動画ではヒストリーを振り返るとともに、著者マーカス・フィスターさんから届いた最新メッセージも収録。子どもだけでなく大人をも魅了してやまない「にじいろのさかな」の世界をぜひお楽しみください。
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たかぎ かおり

高木 香織

Kaori Takagi
編集者・文筆業

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。