魔法のテクニックを持つ先生に師事し 熊本から埼玉へ

音楽幼稚園を卒園した茂森さんですが、小中は地元の公立学校へ進みます。彼女がオペラ歌手を目指すきっかけは、小学5年生の時に観たレナータ・スコット(世界的な人気を誇るイタリアのソプラノ歌手)のリサイタル。その歌声に衝撃を受け、武蔵野音楽大学附属高校の声楽科に行きたいと考えるようになりました。

オペラ歌手になる夢を叶えるために歌の訓練を続けた結果、埼玉の武蔵野音楽大学附属高校に入学。寮生活を送りました。声楽を学ぶにあたって、地元の熊本から遠いにも関わらずこの高校を選んだのは、お姉さんが通っていたため自然な選択肢だったのが理由のひとつ。もうひとつが、同校が付属する大学にどうしても師事したい声楽の先生がいたからです。

「菊池初美先生というテノール(高い声域の男声歌手)の指導で有名な先生が、武蔵野音楽大学で教鞭を執っておられて、その方に師事するには附属の高校に行くのがベストだと考えました。菊池先生に初めてお会いしたのは小学5年生のとき。姉が菊池先生に声楽を習っていたので、姉のレッスンを見学に行ったり、先生が演奏会で熊本にいらしているときに、うちの実家にレッスンに来てくださったり。幼いながらも『この先生に教わりたいな』と思いました。

歌の先生っていろんなタイプがいらっしゃいますが、菊池先生は本当におおらかで、絶対に叱らないんです。悲しい気分だったり萎縮していたりすると、声というのは出なくなってしまいます。菊池先生は、私が何を歌っても『いいぞ〜!』って盛り上げてくれる魔法のテクニックを持っていて、『世界一歌が上手いのでは?』と思えるぐらいレッスンが気持ちいいので帰り道はウキウキです(笑)。真剣に学ぶにはポジティブでいることや好きでい続けることがすごく大切だと思うのですが、その意味で今の私があるのは、菊池先生のおかげです」

「何かを学ぶ際にポジティブに向き合うことは、私が子育てでも大切にしている部分です」(茂森さん)
写真:内田龍

オペラ歌手から急転換でうたのおねえさんに

武蔵野音楽大学で声楽を学ぶ茂森さんは、オペラ歌手を目指すにあたって、中学時代に思い描いた通りのキャリアを歩んでいきます。ところが、大学3年生のときに大きな転機が。『おかあさんといっしょ』(NHK Eテレ)で、17代目うたのおねえさんに抜擢されたのです。

「大学3年生のとき、就職課の掲示板にうたのおねえさんのオーディションの案内が貼り出されたんです。第1次オーディションは、NHKのディレクターやプロデューサーが大学に来ておこなわれました。番組では楽譜を読んだり歌ったりすることが求められるので、音大生から選出されることが多く、私の前まではほとんどの人が音大で声楽を学んだ方でした。私の後任で18代目のつのだりょうこさんは器楽科(ピアノ)で、19代目のはいだしょうこさんは宝塚出身と、声楽科や現役の音大生以外からも選ばれることもあります」

オーディションには武蔵野音楽大学だけでも50人ほどもの応募があったそうですが、オペラ歌手になるため大学院への進学を目指していた茂森さんは、積極的に応募したわけではなかったと言います。

「菊池先生に勧められて、よく分からないまま友だちとオーディション会場の教室に行きました。そうしたらまず『この中で番組を見たことない人、“にこにこぷん”のキャラクター(当時はじゃじゃまる、ぴっころ、ぽろり)が分からない人は退出してください』と言われたんです。私は知らなかったのですが、マズイと思いながらもしれっと残って(笑)。それから歌唱や質問があり5〜6人を選抜。その後は各地から集められた候補者と第2次・第3次と選考が続くのですが、その間に番組を見て勉強して、結果、うたのおねえさんに選んでいただきました」

「先生に勧められたオーディションでまさか残るとは思わなくて(笑)」(茂森さん)
写真:内田龍

多忙を極めた「うたのおねえさん」 子どもとの収録が至福の時間に

オーディションに合格したものの、長年追いかけたオペラ歌手になる夢をあきらめる気にはなれなかったそうです。自身のキャリアに悩む中で茂森さんの背中を押したのは、恩師である菊池先生でした。

「菊池先生から『うたのおねえさんは数年しかできない仕事で、そこでしか得られないことがある。オペラ歌手は40代でも50代でも現役で、うたのおねえさんを経験したあとでもなれるから』と言っていただき、頑張る決意ができました。先生が背中を押してくださったから今の自分があるし、NHKでの活動や、その後に参加した舞台などを通して、クラシックでは学べない歌の奥深さを知りました。たくさんの子どもとふれあった経験も糧になったと思います。

でも活動を始めたばかりの頃は、スタッフの方々は大変だったと思います。うたのおねえさんという仕事がよく分かってなかったし、熊本出身の私のなまりを矯正するところからスタートですから。私の場合、どんな歌でもクラシック調で歌ってしまうクセがあり『歌い方が怖いからかわいく!』ってよく注意されたし、『ラップ調の歌やボサノヴァっぽいものなど、初めてのジャンルでどう歌うの?』みたいな(笑)」

うたのおねえさんの仕事は、オペラ歌手になるために学んできたことだけでは務まらず、収録だけでなく練習や打ち合わせなどで多忙を極める日々だったと言います。それでも、子どもたちとの収録はとても楽しいものだったそうです。

「収録に参加してくれる子どもたちは、毎日のように『おかあさんといっしょ』を見ているので、彼らからすると私たちは<はじめまして>の存在ではないんです。だからすぐに打ち解けられるし、すごくかわいかったですね。最初は恥ずかしそうにする子もかわいいし、泣いちゃっている子もかわいい。

収録に参加してくれるのは3歳児なんですが、想像以上にしっかりしていてびっくりしました。子育て経験のない当時の私にとっては、1歳も2歳も3歳も一緒。でも下手に赤ちゃん語で話すと、3歳の子に訂正されますから。『おててを……』と言ったら『手ね!』、『おくちゅを……』と言ったら『靴ね!』みたいな。最初の1年は大学生だったこともあり、収録以外にリハーサルやレコーディングがあって休みはほとんどなし。私のときは地方収録もあったのですごく忙しかったけど、子どもたちとのふれあいは至福の時間でしたね」

衣装/セレクトショップ アプト
ヘア/モリオカ マリン
メイク/モリモト マイ

取材・文/井上良太(シーアール)


※茂森あゆみさんインタビューは全3回。次は21年6月26日8:00~公開です(公開日時までリンク無効)。
【第3回】茂森あゆみさん「毎日泣いた産後うつ。だけど仕事に救われた」
【第1回】茂森あゆみさん「うたのおねえさん」を育てた“音楽一家”と“本物のステージ” 

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しげもり あゆみ

茂森 あゆみ

しげもりあゆみ 1971年12月15日生まれ。熊本県出身。歌手、女優、タレント。1993年から6年間、『おかあさんといっしょ』(NHK...

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