2021.06.09

ひとり奮闘するママへ。“絵本のプロ”が選ぶ「子育てで孤独を感じたとき」の3冊

大人に効く絵本〔07〕『おかあさんがおかあさんになった日』『かしの木の子もりうた Love you forever』『トコトコバス』がおすすめ

寄稿家:東條知美

子どもといると幸せなかたわら、多くの親が味わうのが「孤独感」。そんな気持ちをやわらげてくれる絵本3冊をご紹介します
写真:アフロ

絵本は、子どものためのもの。そんなイメージがありますが、美しい絵に癒やされたり想像力が鍛えられたり、ハッと気付かされたりと、実は大人にとっても感動がいっぱい。子育て中なら、子どもの頃とはまた違った向き合い方をすることで、わが子に、より絵本のよさを伝えられるかもしれません。

この連載では、絵本のプロがパパママにこそ読んでほしい絵本を、毎回テーマに合わせてピックアップ。第7回は、絵本コーディネーター・東條知美さんが、「子育てで孤独を感じたとき」をテーマに厳選した3冊をご紹介します。

“お母さん”もあなたと一緒に生まれました

子育てって、本当にままならないものですよね。特に子どもが小さいうちは、いつ何時具合が悪くなるかわからないし、機嫌だって悪くなるし、親の思うようにはいきません。男性の育児休暇取得率も、かつてに比べれば上がったとはいえ、まだまだなのが実際のところ。核家族世帯でワンオペ育児に励むお母さんが、孤独や不安を抱えるのは当然のことです。

今回は、そんな子育て中の孤独をそっと癒やしてくれる、おすすめの絵本をご紹介したいと思います。

1冊目は、『おかあさんがおかあさんになった日』(作:長野ヒデ子)。1993年に出版された絵本ですが、今でも多くの方に愛されています。以前、作者の長野ヒデ子さんに、この絵本についてお話を伺ったとき、「不安や戸惑いがいっぱいの中で、お母さんもまた、子どもと一緒に生まれたのだということを描きたかった」とおっしゃっていました。

予定日を過ぎても、なかなか生まれてこない赤ちゃん。病院の中をひとりで散歩しながら、お母さんは思うのです。「早く会いたいなあ、私の赤ちゃんに」。きっとご自身のときのことを懐かしく思い出すでしょう。
そして、いよいよ陣痛が始まって分娩室に入り、お父さんや先生、看護師さんに励まされながら、無事、赤ちゃんが産まれます。
「よろしくね。あなたのおかげで私はお母さんになれたのよ。私の赤ちゃん、ありがとう」
この瞬間、多くのお母さんが同じことを思いましたよね。

この絵本は、小さいお子さんからも、とても人気があります。まだ何もわからない、文字も読めない子どもが、何度も読んでもらいたがるのはなぜだろう。不思議に思った長野さんは、いろいろな方に理由をたずねたのだとか。すると、産婦人科や発達心理学の先生いわく、<子どもはみな、どこかで自分がいかに望まれて産まれてきたのか、確認したいのだ>とおっしゃっていたそうです。

お母さんになることの幸せ、生まれた子への祝福が、あふれんばかりに詰まった1冊です。孤独を感じているお母さんも、初心にかえって、深い愛情や幸福感を思い出せるのではないでしょうか。

初めての赤ちゃんを出産する病院での一日を描いた『おかあさんがおかあさんになった日』(作:長野ヒデ子/童心社)

子どもはいくつになっても宝物

続いてご紹介するのは、『かしの木の子もりうた Love you forever』(原作:ロバート・マンチ、文:細谷亮太、絵:いせひでこ)です。私の子育て期を助けてくれたベストセラー絵本『ラヴ・ユー・フォーエバー』の新訳版で、タイトルも絵も新たに生まれ変わりました。

<子どもはずーっと、いくつになっても宝物>。そんな母親の思いが詰まった優しい絵本です。子どもが生まれて初めて知った、幸せな気持ち。でも、そのうちだんだんと「子育てって、こんなに大変だったの?」「私、いつ眠れるんだろう」「もう限界!」とイヤになってしまう人、きっと多いはずです。私がそうでしたから。

子どもはままならないし、パパは帰りが遅くて、子どもと向き合っているのは自分ばかり。一方で、情報は昔に比べてあり過ぎなほどあって、何が正しいのか、子どもにとって最善なのかもわからない。不安でたまらないのに、周りのママは、みんなキラキラ輝いて見える……。そんな毎日に疲れたときこそ、開きたい絵本です。

「だいじなだいじな わたしのあかちゃん
あなたのことが だいすきよ
ずーっと わたしのたからもの
すてきなすてきな わたしのあかちゃん」

疲れて不安なお母さんの心をなぐさめてくれる、呪文のようなフレーズがとてもすてき。親から子へ、子から親へ……世代を超えて手渡される愛が描かれています。ぜひ、声に出して読んでみてください。大切なものはただひとつ。そのことを思い出せるはずです。

全米で1500万部を突破したベストセラー絵本『ラヴ・ユー・フォーエバー』が、絵と訳を新たにリニューアル。『かしの木の子もりうた Love you forever』(原作:ロバート・マンチ、文:細谷亮太、絵:いせひでこ/岩崎書店)

子どもと過ごす“ワンダー”な時間

最後は、お子さんと一緒に読んでほしい『トコトコバス』(作:高橋和枝)をご紹介します。

男の子とお母さんを乗せたバスが、夕暮れどきの街をゆっくり走り抜けていきます。<トッコントロトロ トッコントロトロ。>このゆったりとしたスピードこそが、子育てのスピードです。
バスが停まる度、お客さんが乗り込んできます。それぞれの停留所で「いったい誰が乗り込んでくるのかな?」と想像してみたり、「こんな名前のバス停なら、どんな動物が乗り込んでくるかな?」と考えてみたり。親子の会話が広がる絵本です。

この絵本を何度目かに読んだときに気付いたのですが、バスの中のお母さん、最初のころにあくびをしていたかと思ったら、そのうちに眠ってしまったようなのです。虫が乗り込んできたことにも、うさぎが乗り込んできたことにも、気付かずに眠っています。そうして、ひと通り不思議な出来事が終わった後で、ようやく目を覚ますのです。

そう、疲れているとついつい見逃してしまいますが、子どもと一緒にいるとき、実は私たちも“ワンダーな出来事”にたくさん遭遇しているんですね。
子育て期の孤独には、私も身に覚えがあります。つらい気持ちになったときこそ、肩の力をふっと抜いて、ゆっくり、のんびり、子どものペースで……見上げた空、足元の小さな花の中に、不思議でおもしろい“ワンダー”を探してみてくださいね。

切り絵で描かれた美しい世界と言葉のリズムが心地よい、読み聞かせにもぴったりの『トコトコバス』(作:高橋和枝/講談社)

構成:星野早百合

寄稿家紹介

東條知美 とうじょうともみ

とうじょうともみ 絵本コーディネーター、講師、コラムニスト。1973年新潟県上越市生まれ。白百合女子大学児童文化学科卒業。在学中は桑原三郎氏(児童文学研究者)、角野栄子氏(児童文学作家)らに師事。卒業後、メディアファクトリー(現KADOKAWA)、国立国会図書館、幼児教育専門学校などの勤務を経て、絵本コーディネーターに。絵本を題材に各地で講演、イベントを行うほか、執筆活動、保育士や図書館司書を対象とした研修などを手掛ける。コンセプトは「子どもに絵本を。大人にこそ絵本を。」
公式サイト https://www.tojotomomi.com/
ブログ「僕らの絵本」https://ameblo.jp/bokurano-ehon
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