2021.04.12

コロナ禍に“孤育てママ”たちを救った「オンライン助産師」の切実なニーズ

じょさんしONLINE代表・杉浦加菜子さんインタビュー【1/2】

萩原 はるな

オンラインで世界のどこからでも気軽に助産師のサポートが受けられる。
写真提供:じょさんしONLINE

「じょさんしONLINE」とは、「世界のどこにいても 安心して妊娠・育児・出産ができる社会」を目指して、2019年1月に誕生したサービスです。「誰ひとり取り残さない」ことをモットーに、助産師たちがオンラインで妊娠や出産、育児のアドバイスをしたり、セミナーを開いたりしてきました。

順調にサービスの知名度が上がり、活動を本格化させた2020年。世界は、新型コロナウイルスに襲われました。出産前の両親学級や出産後の幼児健診などが次々と中止されるなか、孤独を深めていくママが急増。そんな女性たちをオンラインで支え続けてきた代表の杉浦加菜子さんに、コロナ禍における「じょさんしONLINE」の役割やニーズ、ママたちの現状などについて話を伺いました。

海外で経験した「0歳児育児と妊娠・出産」がサービス立ち上げのきっかけに

「日本で助産師をしていた私が、夫の海外赴任に帯同してオランダに引っ越したのは、第一子が0歳9ヵ月のときのことでした。日本の文化を知らない人々と生活していたため、求める子育て情報を得ることができなかったのです。助産師である自分でも苦労したくらいいなので、もっと悩んでいるママたちがたくさんいるはず。そこで、どこに住んでいても妊娠出産、子育てに関する情報を得られるようにしたい、と思ったのが最初のきっかけでした。

助産師はお産に立ち会うだけでなく、妊娠や出産に関するアドバイス、育児の相談、パートナーや家族の支援など、さまざまなサポートができます。そこで世界中のどこにいても必要な情報が得られ、相談に乗ってもらえるようなオンラインサービスを始めようと考えました」(杉浦加菜子代表)

杉浦加菜子さんはオランダで第二子を授かりました。そして、妊娠8ヵ月のときに、夫の会社の都合で急きょ、日本に帰国してほしいと言われたのです。

「日本で出産をする場合、産院が自由に選べるのは妊娠初期のみ。しかも帰国後に住む部屋を探す時間的な余裕がなかったので、実家に身を寄せるしか手段がありませんでした。さらに病院で切迫早産ぎみだと言われていたため、飛行機に乗ることなどとても考えられる状態ではなかったのです。
かつて産婦人科やNICU(新生児治療室)に務めていたので、妊婦さんの胎盤が剥がれて緊急帝王切開になったり、胎児の心拍が止まったりと、妊娠・出産にはさまざまなリスクがあることをよく知っていた私。ですから、絶対にその状態で帰国するのは避けたかったのです」(杉浦代表)

そこで夫の会社と交渉し、そのままオランダで第二子を出産。産後、無事に帰国したものの、「日本の社会は、あまりにも妊娠・出産についての知識が乏しい」ことを実感。「周りから変えていかないと、ママたちをサポートするだけでは難しい」と、強く感じました。

じょさんしONLINE代表・杉浦加菜子さん(ZOOM取材にて)

コロナ禍により「理想の妊娠・出産・子育てライフ」が送れなくなった

2019年1月、杉浦さんは一人でサイトを立ち上げ、1年間で100名の相談に対応。「病院に相談に行くほどではないけれど、悩みを話してアドバイスをもらいたい」というママたちに寄り添いました。

「当初は『実際に会わないで、助産師に何ができるんだ』という批判を受けたこともありました。けれども実際にやってみたところ、助産師がオンラインでできることって、たくさんあるんだな、と実感。何回かアンケートをとってみたところ、妊娠・出産・育児に不安をもっているママが、じつに9割もいたのです。またオンラインだと、直接会うよりも気軽に相談できることがわかりました」(杉浦代表)

こうしてサービスを提供することで『できる!』と自信と確信を得た1年後に、コロナ禍に見舞われました。

「コロナ対応の特別企画として、緊急事態宣言前だった2020年3月に『オンライン両親学級&児童館』を発起。SNSで助産師に参加を呼びかけたところ、『オンラインなら参加できます』という助産師がたくさん手を上げてくれたのです。2時間くらいで50〜60名のコメントがきて、反響の大きさにとても驚きました。そして翌週200名の助産師とともに、2週間で1400組の方々に向けて、コロナ禍に対応したケアを実施。つてをたどって多くのメディアにプレスリリースを送ったこともあって、たくさん取りあげてもらいました」(杉浦代表)

この企画が広く知られることになり、予約がどんどん増えていきました。出産前後は、ただでさえ孤独を感じやすい時期。さらにコロナ禍に襲われ、孤独を感じているママが激増していたのです。

「もちろんそれ以前も孤独に苦しむ方はいましたが、コロナ禍になってより顕著になりました。病院にもよりますが、出産に誰も立ち会えないし、出産後の入院中にお見舞いにきてもらうこともできない。里帰り出産も難しい状況で、悩んでいるママが本当に多いんです。コロナ禍になってから1年、両親学級が中止になったり、子育てセンターが閉鎖になったり、産前産後のママを取り巻く環境は、とても悪いですね」(杉浦代表)

世界中どこにいても信頼できる専門家とオンラインでつながれる安心感

「じょさんしONLINE」を訪れるのは、妊娠中から出産前後、そして産後1年ほどたったママたちが中心。リピーターが約3割と多く、毎回同じ助産師を指名する人も少なくないそうです。「相談しにいけば、必ず応えてくれる」という安心感こそ、“孤育て”に欠かせないものなのかもしれません。

「コロナ禍で増えたのが、夫婦二人でセミナーに参加したり、パパが妻の様子を心配して相談にきたりするケース。やはり実家や子育てセンターなどに頼れない分、夫婦の協力がより不可欠になっているのでしょう。そんな方々には、事前に登録しておけば、子育て相談を受けられる自治体のサービスなどをご案内します。アドバイスをするだけでなく、『妊娠中に登録しておくとスムーズですよ』などと、それぞれに役立つ情報を提供するようにしています」(杉浦代表)

海外に住んでいたり、夫の単身赴任でバラバラに住んでいたりする夫婦にも、「妊婦まるわかり講座」「パパ向け講座」「離乳食講座」などのオンライン講座は、とても好評のようです。

「海外出産や夫不在の状況に不安に思っている方が多く、とても喜ばれています。またコロナ禍の影響として、オンラインへのハードルがとても下がったことも大きいですね。以前は『ZOOMって何ですか?』という方が多かったのですが、今ではみなさん、何の苦もなく入ってくるんですよ」(杉浦代表)

大切なのは「やならければいけない」ではなく「自分はどうしたいのか」を見つめること

コロナ禍に襲われたことで、思うような妊婦生活や出産育児ができていない、と不満や不安を募らせているママがたくさんいると杉浦さん。

「コロナ禍に影響で、出産前の両親学級やマタニティーヨガなどの妊婦向けプログラムや、出産後に支援センターや児童館でのイベントが軒並み中止に。妊産婦が、同じ立場のママ友を作ることができない状況が続いています。孤独な出産を経験された人が多く、『こんなはずじゃなかった、理想がすべて壊されてしまった』とひっかかりをもっている方がたくさんいるのです」(杉浦代表)

現在、「じょさんしONLINE」では月に50件ほどの相談を受けています。初めて妊娠・出産・育児をする方がほとんどで、経産婦は2割ほどだそうです。

「年齢層は20代〜30代前半より、35歳以上のママのほうが多いですね。いろいろな情報や選択肢があるなかで、『こうするべき』『こうしなければ』と抱え込んでしまうママがたくさんいます。そんな方には、『あなた自身は、どうしたいのですか?』と聞くようにしています」(杉浦代表)

いくら世間で「いい」と言われていることでも、ママがしんどいと感じることは避けていい。そうアドバイスすると、利用者はみな顔が明るくなるそうです。

「助産師に相談したことで、『安心しました』と言ってくださる方が多いです。家にこもって情報を集めてばかりいると、多すぎる情報に踊らされてしまいがち。ですから私たちお産のプロとコミュニケーションをとることで、『いろいろな考え方があって、いいんだ』と気づくことはとても大事なのです。また、人と会って話すことが難しい時期なので、『単純に、誰かと話したかった』という理由でこられるママもいて、リフレッシュの場としても活用されています」(杉浦代表)

自身の経験から世界中で利用できる妊産婦ケアのサイトを立ち上げ、コロナ禍のママたちを救ってきた杉浦さん。では実際どんなママたちが、どのような悩みを抱えているのでしょう。

次回は、助産師たちのアドバイスとあわせて、コロナ禍のママたちの現状について伺います。

助産師としての経験をもちながらも、海外での妊娠・出産・育児には不安があったと杉浦さん。夫の会社にかけあった結果、無事に第二子を出産してから帰国を実現。
写真提供:じょさんしONLINE

PROFILE
杉浦加菜子(すぎうらかなこ)

助産師として都内産科病院の産婦人科とNICU(新生児治療室)に勤務後、夫のオランダ赴任に帯同。海外での妊娠・出産・育児経験から、2019年にじょさんしONLINEを立ち上げる。2020年4月、コロナ禍のなか2週間にわたって「オンラオイン両親学級&児童館」を開催。2020年10月、ICTビジネスデザイン発見&発表会全国大会「女性起業家大賞」受賞、日経ソーシャルビジネスコンテストのファイナリストに選出される。現在、助産師によるオンラインでの妊産婦ケアの第一人者として活躍中。
じょさんしONLINE https://josanshi-cafe.com/

はぎわら はるな

萩原 はるな

情報誌『TOKYO★1週間』の創刊スタッフとして参加後、フリーのエディター・ライターとなる。現在は書籍とムックの編集及び執筆、女性誌や...