
第66回 講談社児童文学新人賞 受賞作決定のお知らせ
第66回(2025年度)入選作品が決定いたしましたのでお知らせいたします
2025.08.29

第66回(2025年) 講談社児童文学新人賞 受賞作決定のお知らせ
2025年度児童文学新人賞の選考委員会が2025年8月27日(水)17時より、文京区音羽の講談社にて開催されました。
2025年度は560作品の応募があり、一次・二次選考を経て選ばれた最終候補5作品から慎重な審議の結果、下記の作品が選ばれました。
〔選考委員:安東みきえ氏、如月かずさ氏、村上しいこ氏、弊社児童図書編集長(五十音順)〕
受賞作品
◆新人賞
正賞 賞状・記念品 / 副賞 50万円・単行本として刊行
『放課後死体クラブ(仮題)』
日奈多 黄菜(ひなた きな)
◆佳作
なし
受賞作のあらすじと作者プロフィール
◆新人賞
『放課後死体クラブ(仮題)』
<ジャンル:少年少女小説>
【筆名】
日奈多 黄菜(ひなた きな)
【出身地】
奈良県
【プロフィール】
大阪府在住。梅花女子大学児童文学科卒業。在学中は児童文学創作ゼミに所属。職員として働きながら、全国児童文学同人誌連絡会「季節風」で創作活動に励み、現在に至る。
【あらすじ】
中学二年の瑞希はホラー映画を心から愛しているが、浮かないよう本心を隠して友達に合わせている。そんな瑞希が心ひかれるのは、好きを貫き、教室で堂々とホラー本を読む由木。映画館で偶然出会ったことをきっかけに、二人はホラー映画の巨匠・矢澤監督の映画で死体役を演じる夢を共有、「死体クラブ」を結成する。異なる傷を抱える二人は、支え合いながら演技と死体役の練習に励んでいくが……。
審査員の先生方の選評(五十音順)
安東みきえ先生
「放課後死体クラブ(仮題)」には驚かされた。スキルを磨くべく練習に励み、たがいに切磋琢磨するうちに友情も育つ。まさに部活ジャンルなのだが、目指すは死体になりきること。キャッチーな題でテンポも良い、新人賞一択で推した。ただしこの後は、真似ではない死は目的を叶える最終手段にはなり得ない、それを伝える箇所も必要になるかもしれない。
「カミツレ食堂へようこそ」食堂に集う人々が死者との不思議な再会や交流を果たす物語。見えない誰かに守られていると信じるのは、辛い現実での一歩を踏み出す支えになろう。戦争を扱ったのも好感が持てた。
「星くず館のストロベリー」ランプやバラのある癒し系洋館を舞台に、マルチ商法まがいの仕事に励む母と万引き癖のある祖母が登場するという現代ならではの話。善悪の境界に切り込んだ作者の姿勢は評価したい。
「魔草師と小間使い」ファンタジーの源泉の豊かさが頼もしい。が、魔草師と少女の恋が児童婚を連想させてしまうのが心地悪く残念だった。
「水色の音」バンド演奏の描写は生き生きしているのだが、指の欠損や抜毛症を人物造形のひとつのように安易に使っているのが乱暴に思えた。
如月かずさ先生
「魔草師の小間使い」は生活の描写が丁寧で、主人公のルルが無理なく活躍できているのも好印象でした。しかし、いい大人である魔草師の、中学生程度と思しきルルへの恋心と行動に拒否感が強く、積極的には賞に推せませんでした。終盤もあまり盛りあがらなかったのがもったいなかったです。
「水色の音」は作中で描かれるさまざまな要素が、どれも物語の主旋律にはなっておらず、ぼんやりとした印象でした。なにが書きたいのか、なにを伝えたいのかをしっかり意識すれば、もっと魅力的な物語をつくれるのではないでしょうか。
「星くず館のストロベリー」は高学年向けにしては難解な語彙や表現が目立ちました。主人公の個性が弱く、終盤の変化が急なことなども気になりました。
「カミツレ食堂へようこそ」は、幽霊の依頼で家族などに思い出の料理を提供する食堂の物語で、料理ではなく主人公が幽霊との会話等を伝えることで家族の心が救われるという展開は問題だと思いました。幽霊たちとの交流で主人公が変わることもなく、妹とのエピソードもろくに対話もせず終わってしまうのが残念でした。
「放課後死体クラブ(仮題)」は大賞に選ばれましたが、登場人物の造形や言動の不自然さ、主人公が死体演技の稽古につきあう展開に説得力が乏しいことなど、見直さなくてはならない点は多々あるかと思います。出版に向けた改稿で、大賞に相応しい作品となることを期待しています。
村上しいこ先生
めまぐるしく変化する時代の中で、児童文学はどのような立ち位置を取るのか、それぞれの選者が自由に考えられる楽しい五年間でした。とにもかくにも読者が「読みたくて仕方ない」と、そんな作品を書いてほしいし、私も書きたいと思っています。
そうした思いの中で「放課後死体クラブ(仮題)」を、私は推しました。粗い部分も欠点というより、むしろ頼もしく感じられ、なによりも、これから先、「誰か」が読みたくなる作品を書き続けられる力があると、信じられる作者です。はじめから予定調和を狙うのでは無く、どうせなら本作品も、同級生の死体を見つけてしまうくらい、もっと振り切ってしまってもいいと思います。
さて、次回からは新しい選者のもと、他の四名の候補者の方たちもどうか書き続けてください。
五年間、どうもありがとうございました。
<講談社 児童文学新人賞について>
講談社児童文学新人賞は、子どもたちのための、オリジナリティあふれる作品を発掘する新人賞です。
1959年に講談社創立50周年記念の文学賞として創設、現在では児童文学作家の登竜門として知られています。
これまで、
松谷みよ子 『龍の子太郎』(第1回)
福永令三 『クレヨン王国の十二か月』(第5回)
柏葉幸子『気ちがい通りのリナ』(『霧のむこうのふしぎな町』に改題:第15回)
斉藤洋 『ルドルフとイッパイアッテナ』(第27回)
森絵都『リズム』(第31回)
椰月美智子 『十二歳』(第42回)など、
児童文学から一般文芸まで幅広く活躍する作家・作品を輩出しています。
講談社児童文学新人賞 既刊:13冊をご紹介
児童文学新人賞を受賞した作品は、佳作も含めて改稿ののち、刊行中です。
今回は受賞作品既刊の13冊をご紹介いたします。
ぜひ、こちらもご覧ください。

『てまりのナゾほどき帳 出島と秘密の紅い石』
荒川衣歩

『王様のキャリー』
まひる

『ピーチとチョコレート』
福木はる

『15歳の昆虫図鑑』
五十嵐美怜

『波あとが白く輝いている』
蒼沼洋人

『黒紙の魔術師と白銀の龍』
鳥美山貴子

『星屑すぴりっと』
林けんじろう

『カトリと眠れる石の街』
東曜太郎

『境界のポラリス』
中島空

『小梅の七つのお祝いに』
愛川美也

『保健室経由、かねやま本館。』
松素めぐり

『魔女と花火と100万円』
望月雪絵

『あおいの世界』
花里真希