熊本発・自由進度学習成功のカギ　子ども同士のコミュニケーションを育てるには？

熊本市立弓削小学校で教員を務める松永賢斗先生は、学びの個別化・協同化の実践として、算数の授業での自由進度学習に取り組んでいます。

自由進度学習は、一斉授業に代わる新しい手法として注目を集めていますが、子どもたちそれぞれのペースや主体性の尊重、学びを孤立させないための「文化づくり」などを合わせて行わなければ、うまく機能しないといいます。

第３回は、自由進度学習の実践、その効果を支えるクラス作り、他者の尊重につながるコミュニケーションの活性化などについてうかがいます。
※全４回の第３回

松永賢斗先生は、2020年度から本格的に算数の授業内で自由進度学習に取り組み始めました。当時は５年生の担任を務めていましたが、その結果は目を見張るものでした。

クラス全体の平均点が上がっただけでなく、算数を苦手としていた子どもたちの点数も、約２倍になったのです（この内容は、『徹底取材「自由進度学習」「イエナプラン教育」で本当に子どもは自ら勉強するの？』のなかでも取り上げています）。

2021年度も新しく受け持ったクラスで自由進度学習を行い、やはり、同様の効果があったと松永先生は話します。

「自由進度学習を行うと、ある程度時間はかかりますが、成績は上がりやすいと思います。ただ、大切なのは、その結果に至るプロセス。

子どもたちが学びの主導権を持つことで主体的になり、学びの楽しさを実感できる、そして、自分自身でもっとこうしたいと、学ぶ方法を改善していくことが重要だと考えています。

また、自由進度学習というと、子どもたちが一人で黙々と自習している姿を想像する方もいますが、僕は必ず『学びの協同化』とセットにしますので、子どもたち同士のコミュニケーションが活発になります。

お互いに教え合ったり、サポートし合ったりすることで、良好な関係性が築かれていき、安心して学びに集中できる。子どもたちは、『絆が深まった』と表現していましたが、友だちとのやりとりによって安心感が高まり、モチベーションが高まる部分も大きいと思いますね」

松永先生が実践する自由進度学習は、子どもたちがそれぞれ計画表を作成するところから始まります。

子どもたちは、いつ、何を学ぶかを自分で考えて計画表に書き込み、それに合わせて学習を進めていきます。授業の最後には必ず「ふり返り」を記入し、進捗を踏まえて計画表を修正します。

一つの単元（内容）が終わるころには、共通の課題として「レポートフォリオ」に取り組みます。これは、単純な計算問題などではなく、学んだ内容を記述式でアウトプットする内容で、自分の考えを含めて答える形式になっています。

その後はテストを受け、子どもたち自身がふりかえりを行って自己評価します。それらに基づき、松永先生は全員と個別に面談し、成果や課題についてフィードバック。今後の学習などについても話をします。そして、次の単元に入る、というサイクルです。

「僕は、どの授業でも常に子どもたちの声を聞いて、相談しながら進めるようにしているんですが、2020年度も2021年度も同じように、子どもたちからは、『算数が楽しくなった』『安心して勉強できる』という感想があがりました。

自分のペースで進められる、自分に合った教材を選べるなど、子どもたちが自分で選択して実行できるという面は、もちろんモチベーションアップにつながっていると思います。

でも、僕は充実した自由進度学習の根底を支えているのは、子どもたち同士のコミュニケーションの豊かさだと思っています。だから、クラス内で、その『土壌』ができてくるまでは、自由進度学習には入りません。

春からの新しいクラスで開始すると、クラスの基盤ができるのは秋になることが多く、そのころに自由進度学習を始めることになります」（松永先生）

自由進度学習の「土壌」となるコミュニケーションは、どうしたら生まれるのでしょうか？