熊本発・自由進度学習成功のカギ 子ども同士のコミュニケーションを育てるには?

【小学校教育2.0】熊本市立弓削(ゆげ)小学校・松永先生の挑戦#3 「自由進度学習のポイント」

必要なときに必要なコミュニケーションを取れる文化が大切

松永先生は、クラスのなかで「ある程度誰とでも話すことができるようになる状態」を目指して、さまざまなアクティビティを行っています。

例えば、くじ引きで席替えを行った後は、「シャベリカ」というカードゲームを使って近くの4人で話す時間を設けます。

席替え後の「シャベリカ」タイムを楽しむ子どもたち。  写真提供 松永賢斗氏

シャベリカは、「1億円あったらどうする」や「自分をエライと思う瞬間」など、いろいろなテーマが書かれているトランプで、そのカードを渡して各グループでおしゃべりをしてもらいます。

「クラス替えしたばかりのときは、しゃべっている本人以外はふーんっという感じで、あまり興味がない雰囲気なのですが、席替えのたびにくり返していくと、だんだんみんなの頭が寄ってきて、とても盛り上がるようになるんですよ。その様子で、クラスの子たちの関係性がわかりますね」(松永先生)

その他、朝の時間を活用したサークル対話や「教室リフォームプロジェクト」(子どもたち自身が自分たちが学びやすいよう話し合いながら、教室を自由にリフォームする取り組み)も行っており、ありとあらゆる方法で、子どもたちのコミュニケーションの量を確保しています。

「教室リフォームプロジェクト」で子どもたちが作ったコーナー。  写真提供 松永賢斗氏
教室の外にも、子どもたちが作ったポスターが飾られています。 写真提供 松永賢斗氏 

こうした、子どもたち同士で自然と会話が生まれる活動を丁寧に積み上げていくことで、距離が近づき、誰とでも話せる関係性ができ上がっていくといいます。

希望者の提案で設置された「生き物コーナー」。  写真提供 松永賢斗氏
描いた絵を誰でも掲示できる「おえかきひろば」。  写真提供 松永賢斗氏

「この状態は、『仲が良いこと』とイコールではありません。同じクラスだからといって、全員と仲良くなれるわけでも、しなくてはいけないわけでもないですから。

『仲良し』を増やすことではなく、必要なときに必要な人とコミュニケーションが取れるようになること、そして、困っている人がいたらいつでも寄り添えることが大切だと思っています。

必要に応じて誰とでも話せる状態、つまり『ゆるやかな協同性』※がクラスの根底に敷かれていると、自由進度学習でわからないところが出てきても、自然と子どもたち同士で助け合います。その結果、自分の学びも深まるし、自分の学んだことで他者に貢献することもできる。

学びの面白さだけでなく、自己承認にもつながり、全体として充実した学びの経験になっていくと感じています」(松永先生)

「ゆるやかな協同性
長年公立小学校で教員を務め、現在は私立軽沢風越学園校長・園長を務める岩瀬直樹さんの言葉。

自然に生まれる“ゆるやかな協同性”に意味がある

クラスの雰囲気づくり、コミュニケーションの醸成に努め、子どもたち同士の「教え合い」や「学び合い」を大切にしている松永先生ですが、「自然発生的な学び合い」でなければ意味がないと語ります。

「例えば、単に僕が子どもたちに『ここの4人は机をくっつけて、協力し合って算数の○○を学びなさいね』っていうやり方もできなくはないんですが、これだと“協同の押しつけ”になってしまいます。

関係性を築かないまま、強制的にやらされると、『わからないから教えて』と言ってきた友達に対して、『ちょっと今忙しいから無理』と突き放すようなことが起きかねません。

でも、たくさんのコミュニケーションを通して関係性ができていれば、困っている友達に対して協力しない、サポートしない、ということはないと思います。必ず、友達のために一緒に考えよう、となります。それは、1年目のクラスでも、2年目でも同様でした」(松永先生)

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