子どもの叱り方 「しつけ」で大切な社会化と個性化のバランス 

東大教授・遠藤利彦先生に聞く「子どもの褒め方・叱り方」#1「しつけ」とは何か

東京大学大学院教授:遠藤 利彦

「叱る」ことは「しつけ」につながっていくのでしょうか。 写真:アフロ

子どもが成長するに伴い、彼らが危険から身を守ること、また社会のルールを守ることを学ぶために、お母さんお父さんは時に子どもを叱らなくてはいけません。

それは別の言葉でいえば“しつけ”とも言えるでしょう。

東京大学大学院教育研究科教授で、教育心理学者の遠藤利彦先生に、子どもを褒めること・叱ることの本質を教えていただきました。

第1回は、そもそも“しつけ”とは何か、についてです。
(全5回の1回目)

「しつけ」って本当はどういうもの?

――“しつけ”という言葉がひとり歩きをしてしまい、私たち親が間違った方法で子どもに対して接しているのではないかと、悩むときがあります。

遠藤利彦先生(以下、遠藤先生)「”しつけ”という言葉を漢字で書くと、“身”と”美しい”という文字で構成されています。

この文字が表すのは、常識的であり、他の人が見て恥ずかしくない行動がとれていて、見た目も美しくしていること。つまり武家の暮らしで重要視されてきたことです。

でもきっと、今の親御さんも同じように、”しつけ”は社会の常識やルールを教えることとイメージしている人が多いのではないでしょうか」

――そうですね。子どもが社会からはみ出さないこと、また、暗黙のルールを身につけること、と考える人が多いように思います。

遠藤先生「でも一方で、日本語には“躾糸(しつけいと)”という言葉もあります。これは着物を縫うプロセスにおいて、しっかりとした形になるように仮縫いをすることです。

しかし、この躾糸は美しい着物が出来上がったら、最終的に糸を抜き取りますよね。

そういう意味から考えると、“しつけ”とはルールを教え、身につけさせるというよりは、将来子どもが社会の中で自立して、たくましく生きていけるように“支え、促す”ことではないでしょうか」

「しつけ」に大切な『社会化』と『個性化』のバランスとは?

――最終的に親が手を離したときに、社会で暮らしていけるように支えてあげることがしつけなんですね。

遠藤先生「ただ、しつけを考える場合には、二つの大切な心理学の言葉を忘れないでほしいと思います。

ひとつは社会の中に溶け込み、そこに適用するためにルールなどを身につけ、行動できる『社会化』。

そしてもうひとつは、子どもの個性が社会の中で良い方向に伸びるように促してあげる『個性化』という言葉です。

しつけは、『社会化』の方がどうしても先行してしまい、親御さんたちはそれに対するプレッシャーや葛藤を抱えているように思います。

確かに、人と違った行動を取ることに対し、プレッシャーを感じる社会ではあります。

しかし、社会の常識に沿わせるだけではなく、子どもたちそれぞれが自分の個性を大切にしながら、幸せに健康に生きていくことができるように働きかけてあげること。

つまり『社会化』と『個性化』のバランスをとりながら子どもを支えてあげることが大切だと思います」

叱ることなくしっかりしつけるのは基本的に出来ない

――とはいえ、子どもが成長し、社会に入っていくにつれて危険なことや守らなくてはいけないことは増えていき、どうしても親御さんが”叱る”という行為をしなくてはならない場合が出てくると思います。

子どもを叱ることが必要な場面で、的確に、また効果的に伝える方法はあるのでしょうか?

遠藤先生「叱るという行為は、親側の働きかけとして必要なことだと思います。

叱ることなくしっかりしつける、というのは基本的にはできないでしょう。ただ、叱るのは子どものためであることを念頭に置くことが大切です。

親が自分の感情に振り回されて声を荒げるのは、“叱る”ではなく“怒る”という行為です。
そして、叱る場合には、どの年齢であっても大前提として“全否定”ではなく、“部分否定”をすることをが大事です。

つまり、『あなたのことは大好きだけど、今やったことはダメだよ』と、わかるように伝えることが必要なのです。

よく、駄々をこねてしまった子ども対して、“そんなことをするのはうちの子じゃないよ”とか、“言うこと聞かないなら置いていくよ”という言葉をかけているのを耳にしますが、こういった全否定の叱り方は、度を超すと大変なことになります。

親の考えに従わないと、愛情を引っ込めてしまう、という接し方はよくありません。

叱っている時でも、子どもには、“お父さんとお母さんは、あなたのことを受け止めているよ”というメッセージは必ず伝わるようにしてあげてくださいね」


第2回は「年齢別の叱り方、声の掛け方」についてお聞きします。

取材・文/知野美紀子

えんどうとしひこ

遠藤 利彦

東京大学大学院教授・教育心理学者

東京大学大学院教育学研究科教授、同附属発達保育実践制作学センター(Cedep)センター長、心理学博士。 山形県生まれ。東京大学教育学部卒。同大学院教育学研究科博士課程単位取得後退学。 聖心女子大学文学部講師、九州大学大学院人間環境学研究院助教授、京都大学大学院教育学研究科准教授などを経て、2013年から現職。 専門は発達心理学、感情心理学、進化心理学。 NHK子育て番組「すくすく子育て」にも専門家として登場。

東京大学大学院教育学研究科教授、同附属発達保育実践制作学センター(Cedep)センター長、心理学博士。 山形県生まれ。東京大学教育学部卒。同大学院教育学研究科博士課程単位取得後退学。 聖心女子大学文学部講師、九州大学大学院人間環境学研究院助教授、京都大学大学院教育学研究科准教授などを経て、2013年から現職。 専門は発達心理学、感情心理学、進化心理学。 NHK子育て番組「すくすく子育て」にも専門家として登場。