2021.02.17

事故から我が子を守る「歩かせ方」 なぜ子どもは車道に飛び出すのか?

交通工学の博士が明かす「衝撃の実験結果」からわかった子どもに足りない能力

寄稿家:稲垣具志

提供:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

交通事故で歩行者が死亡に至る割合は、日本は欧米の2倍以上。小学校に入れば保護者から離れて登校を始める日本の子どもたちのために、未就学の今からできることはあるのでしょうか? 子どもの横断判断能力に着目し、独自の実験データから交通安全教育の啓発活動に熱心に取り組まれている博士(工学)の稲垣具志先生(中央大学研究開発機構准教授)にお話をうかがいました。

低学年では車の速さに対応できない!? 安全に道路を横断する判断力実験

誇らしさと不安でいっぱいのランドセルを背負って、保護者がいない通学路を歩くピカピカの1年生。その姿を物陰から見守る保護者らしき人影は、ほほえましくも、胸がざわつく春の風景です。

警察庁の統計によると、令和元年、交通事故による小学生の死者・重傷者は493人。その半数以上が、歩行中に事故に巻き込まれています。平成22年から令和元年に、歩行中に事故死した小学生178人のうち、1年生が117人、2年生が126人。およそ62%を低学年が占めています。

稲垣具志先生は、「子どもの道路横断判断能力」に着目し、次のような実験を行いました。

1. 小学2年生、小学5年生、成人の3グループが、ひとりずつ、横断歩道がない生活道路脇で、合図のボタンを押しながら立つ。

2. 近づいてくる車両を見て「もう渡れない」と判断した時点でボタンを離し、その時の車両速度と、車と参加者との距離を測定。

3. 判断した直前に横断したら車両と衝突していた場合を「誤判断」とする。

4. 1.~3.をひとり10回以上繰り返して、全体のうち誤判断となった割合を誤判断率とする。

資料提供/中央大学研究開発機構准教授 稲垣具志先生

資料提供/中央大学研究開発機構准教授 稲垣具志先生

「やはり、大人より小学生の誤判断率が高い結果となりました。高速車両に対しては、とくに小学2年生の参加者の3/4が誤判断率60%以上という、驚くべき結果が出ました。低速車両になると、5年生の誤判断率の方が上がります。

また、車が速くなるほど、より早めに『もう渡れない』と判断するべきですが、子どもは車の速度の変化に対応することが非常に難しいこともわかりました。車両速度に関係なく、自分と車の間の距離だけで判断しやすいのです。小学2年生では、速度の変化に合わせて判断できたお子さんは皆無です。5年生になると、成人と同程度の判断ができるお子さんもいますが、まだまだ能力にバラツキがありました」(稲垣具志先生)

同様の実験で、走行車両に保護者を乗せたときは、ちょっとした騒ぎになったといいます。

「車が近づいているのに『まだまだ渡れる!』とボタンを押し続ける我が子に、保護者の悲鳴と怒号が飛び交いました(笑)。実験に協力したのに、親に怒られてしまったお子さんは気の毒ですが、保護者が現実を認識できたのは収穫でした」(稲垣具志先生)

なお、実験では、成人でも致命的な誤判断をする人がいました。

「慎重さの欠如が習慣化してしまったのでしょう。交通行動は若いうちに確立され、年齢を重ねるほど、修正が難しくなります。だからこそ、子どもたちには、なるべく早いうちから、交通社会人としての経験値を積ませてあげたいですね」(稲垣具志先生)

“手つなぎ実験”で我が子の「できなくて当たり前」を認識しよう

わたしたち大人は、向かってくる車のスピードと車までの距離から、「いま道路に出たらぶつかってしまうな」「車が通り過ぎてから渡ろう」と自然に判断しています。

距離とスピードから、車が近くに到達するまでの時間を感覚的に把握するためには、空間認知などの力が必要です。この能力が発達するのは、高学年になってから。算数の授業で「速さ」を習い始めるのが5年生からなのも、理にかなっています。

つまり、低学年の子どもは、速さは考えず、車との距離だけを根拠に、自信を持って危険な横断をしているのです。一か八か道路に飛び出しているわけではありません。

そうなると、気になるのが、我が子の横断判断力です。安全に確認できる以下のような実験を稲垣先生はおすすめしています。

〈一緒に横断歩道に立って実験してみよう〉
※子どもと大人の横断判断の違いを知るための実験です。実際に子どもの判断で道路を横断させてはいけません
1.実際に横断する場所に、子どもと手をつないで立つ

2.車が近づいてきたら、「横断できなくなる」と判断したタイミングで、お互いに手を強く握って合図を出す

「この実験は、『もう、渡っちゃダメなの!?』と、子どもが自分の判断の不確かさに気づければ成功です。『これより前なら渡れる』とは、決して教えないように注意してください。子どもだけのときは、『車が見えたら渡らない』が大原則です」(稲垣具志先生)

ひとりで道路を横断するのは、未就学児にはまだまだ危険です。当たり前の未熟さを、親子ともに、まずは受け止めること。大人はもちろん、子どもが自分の判断能力を過信しないで、慎重な対応を選択できるようになることが、安全教育のはじめの一歩と言えそうです。

取材・文/湯地真理子
編集プロダクション、出版社勤務を経て、独立。女性のライフスタイル、趣味実用、健康などの分野で、雑誌、書籍などの編集・執筆に携わる。理系オタクの息子&夫と暮らす文系ママ。

寄稿家紹介

稲垣具志 いながき・ともゆき

稲垣具志(いながき・ともゆき)
中央大学研究開発機構准教授。博士(工学)。令和2年より現職。専門は交通計画、交通安全対策・教育、ユニバーサルデザイン。独自の横断判断の研究データを元にした交通安全の講演は、人柄の良さが伝わる軽妙な語り口とともに、多くの自治体や学校で人気を博す。また、一般社団法人日本福祉のまちづくり学会の理事を務め、東京オリンピック ・パラリンピックのアクセシブル・ルートのチェックにも尽力している。