子どもの発達の見守り方 「今できること」を見つける親の心がけ
信州大学医学部・本田秀夫教授#3~子どもの発達の見守り方~
2022.07.25
児童精神科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授:本田 秀夫
子どもの「できないこと」に、パパママはどう対応すればよいのでしょう。
さらにそれが挨拶や片付けなど、社会では多くの人が「基本」や「常識」として必要と考えていることだったら……。
つい「○歳なんだから△△しなさい」などと、半ば無理矢理教え込もうとしてしまうこともあるかもしれません。
そんなときこそ発想の転換が必要だと本田秀夫先生(児童精神科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)は話します。
※全5回の3回目(#1、#2を読む)
学ぶ時期や教え方は子どもによって違う
児童精神科医として臨床経験30年以上、発達障害における日本屈指のスペシャリスト・本田秀夫先生率いる信州大学医学部子どものこころの発達医学教室が、独自開発したアプリ「TOIRO(トイロ)」を通して伝えているのが「多様な子育て」の大切さです。
今、幼児の早期教育や英才教育を良しとする風潮がある世の中だからこそ、子どもたちの心の健康を損なわないためにも、もっと一人ひとりの状態や個性に合わせたオーダーメイドの子育てをしていこうよ、と提案しています。
本田先生は、「いわゆる育児書などに載っているような、平均的な子育てマニュアルに沿ってやっていると、子どもにとっては逆効果になることもある」と話します。
「例えば、ASD(自閉スペクトラム症)の子どものなかには、挨拶がとても苦手な子どもがいます。
2~3歳になると、ニコっと笑って挨拶に近いようなことができる子が多いなか、自分の子が知っている人に対しても素っ気なかったりすると、親御さんが気にして『ほら、挨拶しなさい』なんて無理矢理頭を下げさせるのを目にすることがあります。
でも、そのときには挨拶ができなかったASDの子どもにも、『挨拶を身につける時期』があるんです。
むしろ大人になっても挨拶を一切しないという人のほうが少なくて、本人にとって挨拶に興味が出る時期に、適切に教えるとできるようになるんですね。
親御さんが焦って無理矢理教え込もうとすると、かえって苦手意識や拒否感が強くなり、人前に出ることすら怖くなってしまう場合もあるんですよ」(本田先生)
「挨拶は基本」という考えが多くを占める世の中において、もし子どもが挨拶をできなかったら……。その問題を克服させようと焦ってしまうパパママの気持ちも分かります。
発達障害の特性の有無に関わらず、「物事を教えるときには、それぞれの子どもに合った教え方や時期がある。無理矢理は絶対禁物」と本田先生は話します。
子どものために良かれと思ってやっていることが、かえって追い込んでしまう可能性があるということです。
伸びかけていることを大事にする
「言葉が遅い」「お友達のようにしゃべれない」といった言葉の発達についても、よく聞かれる悩みのひとつです。母子手帳には、1歳6ヵ月ごろの目安として「ママ、ブーブーなど意味のある言葉をいくつか話しますか」というチェック項目があることも。
個人差があると分かっていても、つい心配になってしまうのがパパママの心情です。
「言葉の発達についてはかなり個人差がある」と前提したうえで、清水亜矢子先生(小児科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室特任助教)は続けます。
「言葉が遅れていると判断された場合でも、その時点からどう言葉を引き出すかを考えるのはNG。
例えば手を合わせて『お願い』のポーズができるか、パパママが発した言葉を真似しようとするかなど、子どもの『今できること』や『今、伸びかかっていること』を把握したうえで、『この子は次、何ができるかな』と考えることが大切です。
例えば『おうむ返ししかできない』と悩む親御さんも多いですが、おうむ返しができるなら、『あなたの言葉はコレですね』と分かっている証拠です。本当は、すごい一歩だと評価できることなんですよ」(清水先生)
「ワンワン」など、意味のある言葉を言わせることをつい目標にしてしまいがちですが、いきなりゴールを目指してしまうと、「今、できること」を見落としがちになってしまう。
まずは行動の真似っこができるよう「お願い」のポーズを見せてあげるなど、言葉の前段階のコミュニケーションを取り入れる。その子に応じて、小さなステップを踏みながら、「伸びかけていること」を探すよう心がけることが大切なようです。