子どもの発達障害 「定型発達を目指さない」育て方と環境

信州大学医学部・本田秀夫教授#2~発達障害の今と親の接し方~

児童精神科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授:本田 秀夫

近年、発達障害の子どもは増加していると言うが、データの内情について発達障害専門医の本田秀夫先生に教わりました。  写真:アフロ

近年、よく耳にするようになった「発達障害」。

落ち着きがなかったり、話がうまく嚙みあわなかったり、「もしかしてうちの子って……」などと思ったことのある方も少なくないかもしれません。改めて、発達障害とはどんなものなのか。

発達障害を専門とする本田秀夫先生(児童精神科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)らに伺いました。

※全5回の2回目(#1を読む)

発達障害の子どもは増えている!?

発達の気になる子どもの子育てをサポートする無料アプリ「TOIRO(トイロ)」を開発した、本田秀夫先生(児童精神科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)が専門としているのが「発達障害」です。

近年、メディアで取り上げられることも多く、よく耳にするようになりましたが、改めて発達障害とはどういったことを指すのでしょうか。

「発達障害とは、生まれつき脳機能の発達がアンバランスで、日常生活に困難をきたす障害の総称です。主な3つの障害と特性は次のとおりです。

①ASD(自閉スペクトラム症):こだわりが強い、コミュニケーションが苦手など。

②ADHD(注意欠如・多動症):じっとしていられない、うっかりミスが多いなど。

③LD(学習障害):読む、書く、計算など特定分野の学習が苦手。


それぞれの特性が単独で見られる場合もあれば、複数見られる場合もあります」(本田先生)

2012年、文部科学省では、全国の公立の小・中学校の生徒約5万4000人に「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」(※1)を行いました。
※1=通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査(文部科学省)

それによると、「学習面又は行動面で著しい困難を示す」割合は、6.5%。15人に1人は発達障害の可能性があることが分かります。

また、同省による、小・中学・高等学校を対象とした「通級による指導を受けている児童生徒数の推移」(※2)では、2009年は5万4021人に対し、2019年は13万4185人と、その数は右肩上がりに増え続けています。通級とは、「軽度の障害のある児童・生徒を対象として特別な教育課程によって指導を行う制度」のことです。
※2=通級による指導を受けている児童生徒数の推移(文部科学省)

「この十数年で発達障害の子どもが増えてきているとよく言われますが、今増えていると言われるのは、発達障害の特性が薄い、または知的な遅れがないために今までは見分けにくかったという子どもたちですね。

メディアやインターネットの普及などで一般的にも知識が浸透してきたため、特性が薄い人たちも見つかりやすくなったというだけです。数としてはものすごく増えたように感じるけど、重度の人たちの数は変わりません」(本田先生)

児童精神科医として30年以上、発達障害を専門に診察にあたってきた、信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授の本田秀夫先生。  写真:稲葉美映子

特性が障害になるとは限らない─発達障害を正しく知ろう

発達障害の特性は生まれ持ったものと考えられています。本田先生は、それら特性が、必ずしも「障害」に直結するとは考えていません。

「例えばADHDの方の場合、うっかりミスが多くても笑って済ませられるような場合と、ミスが多いことで仕事にマイナスの影響が出る場合があります。

どう頑張って工夫しても、うっかりミスが致命的になってしまう場合は、発達障害の診断を受けて、障害者手帳を取得し生活するということになるでしょう。

しかし、それって実は、その人がどんな仕事をやりたいと思っているのか、また住んでいる地域に向いている仕事があるかどうか、なども大きく影響するんです。発達障害は、本人だけの要因で一概に決まるわけでもないんですね」(本田先生)

生まれ持った特性が、生活上に支障をきたす場合は障害となり、そして支障となるかどうかは、社会との関係の中である程度決まっていくということがわかります。特性があっても、生活に特に支障のないケースもあるといいます。

また、「一度、発達障害の診断を受けても、その後も障害であり続けるかどうかは、特性の特徴や今後の育ちによる」と、清水亜矢子先生(小児科医・信州大学医学部子どものこころの発達医学教室特任助教)は続けます。

「発達障害の方がメディアなどで取り上げられるときは、『困った人』として登場する場合がなぜか多いのですが、環境に適応できることで困難が軽減し、その人なりに楽しく暮らしている人もたくさんいます。

お子さんが発達障害と診断されると、最初は抵抗を強く感じる親御さんも多いです。診察時には、『今は特別な支援や工夫が必要ですが、将来、そうした工夫のうえで環境に適応することができて、支援が不要になったならば、それは障害ではないんですよ』というお話をします。

また、診断名がつかないグレーなのか、または障害の診断があった場合は軽度なのか重度なのか。その程度に重点を置く親御さんもいます。

グレーや軽度だからといって社会に適応しやすいかというと、そういうわけでもないんです。特性が消えることはありませんが、環境によって適応状態は大きく違ってきます。

ですので、診断名や程度に、親御さんは一喜一憂する必要はないんですよ。それよりも、子どもの特性そのものを受け入れて、『なんでこうするのかな?』と考え、特性に合わせて工夫をしていくことが、その子らしく成長していくために必要なんです」(清水先生)

発達障害の特性は消えてなくなるものではありませんが、育て方次第で、その後の本人の生活は大きく変わっていくと言われています。

年齢によっては子ども本人も自分の特性を理解して工夫したり、周りの大人が特性に合わせてやり方を変えたり、環境を調整するなどのサポートが何より大切なのだそうです。

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