千原せいじ「子育ては自分のイヤな面に直面することが多かった」

【WEBげんき連載】わたしが子どもだったころ 最終回 #13千原せいじ

編集者・ライター:木下 千寿

子育ては自分のイヤな面に直面することが多かった

そういう家庭環境で育ったので、僕は社会に出てから知ったことがいっぱいあります。この間、ジュニアと話していたんですけど、ウチの家は親の友達が遊びに来ることがなかったので、“人の家にお邪魔するときには手土産を持っていく”という習慣を僕ら2人とも知らなかったんですよ。自分や嫁はんの友達が家に遊びに来るとき、何か持ってきはりますやん? それを見て初めて「大人にはこんなやりとりがあるんやな」というのを知ったんです。家の近所にチョコレート専門店があって、「ここでみんな、何を買うねん?」とずっと不思議に思っていたんですけど、「こういうのが、手土産にええんやな」と分かりました(笑)。

そんなわけで自分の親が、僕の人生の反面教師です。子どものころ、「親の言うことを聞け」と押し付けられるのが嫌いやったから、「子どもにはそういうことをしないようにしよう」と思っていました。でもいざとなると、同じようなことをしてしまうときがあるんですよ。それで自分のことをすごく嫌になったり、「俺、親として最悪やな」と思ったりしたことは、多々あります。「(息子が)すごく傷ついているやろうな。俺も子どものとき、つらかったもんな……」と苦しい気持ちになる。子育てというと、自分のイヤな面に直面することのほうが多かったんちゃうかな。

海外で見た教育の歴史と日本の教育の違い

本で「親にできるのは、子どもがとにかく自分の思うまま、興味のあること、やってみたいことに手を伸ばせるようにすることじゃないかと思います。『いろいろなことにチャレンジしていいんだ』という、精神的土台を作ることです」と書きましたが、これは大学も出ていない、高校を出て芸人になった僕が、何を言っても説得力がない、ということを踏まえての言葉です。でもね、親にできることはホンマに、子どもの後押しをすることだけやと思うんですよ。
以前、北欧に行ったときに、何百年、何千年も前から学校があったという場所を訪れました。建物の一部が今も残っていて、石に彫刻が彫られていたんですけど、それは教師が下にいて、上の若者(生徒)を押し上げているという構図でした。話を聞いたら、その国の教育では何百年、何千年も前から、教師というのは若き者、生徒を高みに上げるために下から押し上げる存在だというんです。すごい考え方でしょ? 日本の“教師が生徒を教え導く”考え方とは真逆。日本は寺子屋を含めても、“教育”の歴史は400年ぐらいしかない。「これは日本の教育が遅れていても、しゃあないわ」と思いました。

子どもの“好き”を否定しない

『WEBげんき』の読者の方は、小さなお子さんの親御さんが多いと聞きました。親としては、子どもがいてる世界や、子どもが興味あるものに親が首を突っ込みすぎるのはあまりよくないなと思います。俺もうっかりやってしまうから、あれやねんけど……。昔は息子が好きなバンドの話を聞くと、「今度、(メンバーの人たちと)一緒にメシ食いに行くか?」とか言ってしまっていたんですけど、彼はそれがすごくイヤやったらしくて。最近は、俺が絶対に聴かんジャンルの音楽を選んで聴いていたりするみたいです。自分が良かれと思ってやったことが、逆に子どもの選択肢を狭めていることってあるんですよね。

だから余計なことはせず、子どもの“好き”を否定しないのがええんでしょうね。僕は息子に「音楽を聞きなさい」「本を読みなさい」と言うたことはないですけど、自分でキーボードを買うてきて、打ち込んで、曲作りみたいなことをやっていますよ。ゲームが好きで、ジュニアが言うてたけど、哲学も好きみたい。完全、オタク気質です。俺もオタク気質やから、「あぁ、似てんねんな」と思います。そうやって子どもが自分でいろいろ“好き”を見つければ、それでええかなと思っています。

親も自分を知ることが大切

親は、子どもに対して「こんなにしてあげたのに」とか思わんこっちゃな。だいたい、「あなたのためを思って」という考えは間違いです。「○○のため」は結局、自分のためなんですよ。それをしている自分が好き、というだけ。親が「私はこんなにしてあげたのに!」と言い出したらもう、終わりです。

言葉の呪縛っちゅうんはヤバいですよ。僕自身、子どものころに親から言われたことが、今も頭に鮮明に残っていますから。この間、ある人と喋っているときに、「呪いって、誰でも簡単にかけられるんですよ」って言われたんです。「何をいうてんのや?」と思って聞いていたんですが、人間って基本的に物事を悪いほうに考えるから、人から言われた否定的な言葉には縛られてしまうんですって。それが“呪い”やって。

僕はこれまで好きなように発言してきているので、僕の過去の発言に縛られている人がいるかもわからないと思ったら、申し訳なさと共に怖さが出てきました。自分が誰かに呪縛をかけている可能性があるし、かけられている可能性もある。親から子どもに対しても、そういうことってきっとあるでしょう。その怖さを、自覚しないとね
子どもが何か上手にできへんときに、「私(俺)の子なのに、なんで!?」と怒るのは筋違い。「お前の子やからや」です(笑)。そこのズレに気づかない親は、やっぱりバカや。「なんでできないの?」の答えは、「お前の子やから、できへんねん」です。それに人間には、“できない”という選択肢もあるんやからね。Aができなくても、Bはできるかもしれへん。親も自分を知ることが大事やと思います。
千原せいじ

芸人。1970年1月25日生まれ。京都府出身。1989年に、弟である千原ジュニアとコンビ「千原兄弟」を結成。テレビ番組の企画などでこれまでに70ヵ国以上を訪問し、卓越したコミュニケーション能力が話題となる。2018年にメンタルケアカウンセラーの資格を取得。2021年、貧困・就学困難者への支援や国際協力の推進などを主な事業とする一般社団法人ギブアウェイを設立、代表理事となる。
『無神経の達人』
千原せいじ ¥990
【内容紹介】
マサイ族をも虜にする「コミュ力おばけ」の社交術

そもそも「コミュニケーション下手」といわれる日本人。コロナ禍でその傾向はいっそう強まり、「人と会うことは暴力的」との論調さえ生まれている。

だが、世の中を見渡せば問題が山積み。国内外を問わず今まで以上に人との関わりが重要になり、よりはっきりと自身の意思を伝えなければならない場面が増えることは必須である。

「言わずもがな」「以心伝心」「ツーカー」「腹の探り合い」「あ、うん」……そんな従来の日本的なコミュニケーションはとっくにオワコン。日本人には「無神経さ」が足りないし、コミュニケーションはもっと「雑」でいいのである!

「マサイ族とも打ち解ける男」「コミュ力モンスター」として知られる千原せいじが、日本人離れしたコミュニケーションの極意を語る。
撮影/岩田えり 文/木下千寿
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げんきへんしゅうぶ

げんき編集部

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「いないいないばあっ!」と、幼児向けの絵本を刊行している講談社げんき編集部のサイトです。1・2・3歳のお子さんがいるパパ・ママを中心に、おもしろくて役に立つ子育てや絵本の情報が満載! Instagram : genki_magazine Twitter : @kodanshagenki LINE : @genki

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きのした ちず

木下 千寿

ライター

福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。

福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。