TBSアナ井上貴博「アナウンサーになろうと思ったことは一度もなかった」

【WEBげんき連載】わたしが子どもだったころ #2井上貴博

ライター:山本 奈緒子

【WEBげんき新連載】わたしが子どもだったころ

「あの人は、子どものころ、どんな子どもだったんだろう」
「この人の親って、どんな人なんだろう」
「この人は、どんなふうに育ってきたんだろう」

今現在、活躍する著名人たちの、自身の幼少期~子ども時代の思い出や、子ども時代に印象に残っていること、そして、幼少期に「育児された側」として親へはどんな思いを持っていたのか、ひとかどの人物の親とは、いったいどんな存在なのか……。

そんな著名人の子ども時代や、親との関わり方、育ち方などを思い出とともにインタビューする新連載です。

第2回は、TBSで毎週月曜〜金曜の午後3時49分から放送されている『Nスタ』のメインキャスター・井上貴博さんです。

「年の離れた姉と兄を見て要領よく振る舞っていました」

撮影:岩田えり
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僕が育った環境はと言いますと、関西出身の両親ときょうだいが二人いました。それが12歳上の姉と9歳上の兄で。僕の人格は、完全にこのきょうだい構成によって確立されたといって過言ではないと思います。たとえば僕は小学校からずっと野球をやっていたんですけど、帰ってきて今日の活躍を親に報告しようとすると、両親と兄が深刻な顔をして就活の話をしていたりするんですよ。商社がどうのこうのとか言っていて、到底野球の話なんかする雰囲気じゃない。自分だけ子どものような気がして、何だかつまんないなーと思っていましたね。

そんなふうに一人だけ歳が離れていましたから、姉や兄たちを観察して「こう振る舞えば親は喜ぶんだな」ということを常に考えている子どもでした。「兄貴が大変なときだしワガママを言うのはやめよう」と調整したり、「こうしたら怒られないだろう」と要領よく行動したり。外面はいい子だったけど、自分ではかわいくない子だったなあと思います。

だからなのか、昔から自分の話をするより人の話を聞くほうが好きで。親からは「いまだに自分のことをあまり話さないよね」と言われるんですけど、別に我慢しているわけではなくて、それが僕にとっては自然なんです。離れたところから周囲を観察して、そこから「じゃあ自分はこう振る舞おう」と考えるのが、何だか楽しかったんですよね。

「学生時代は野球漬けの毎日」

親には、怒られた記憶はありません。姉や兄には厳しかったみたいなんですけど、僕はもう両親にとって孫感覚だったんでしょうね。とくに父親は、上2人のときは仕事が忙しくてあまり子育てできなかった分、僕のときはギアが入っていたみたいで。めちゃくちゃ可愛がられていたんですけど、僕としては子ども扱いされているような気がして反発を覚えていた。でも逆にそれが反骨心となって、「野球で見返す!」といったようなエネルギーになってはいましたね。

ただ勉強は決してデキるほうではなくて、学校では下のほうでした。僕は幼稚舎から慶應に通っていたので受験はなかったんですけど、成績が悪いと進級はできないんですね。そこでも得意の要領の良さを生かして、いつもその落第ギリギリのところをクリアしていました。親にはよく「勉強しなさい」と言われたんですけど、言われると余計したくなくなって。「そういうこと言わないほうがいいよ」とか「自発的に勉強しないと意味がないし」とか屁理屈を言っている、マセた子どもでもありましたね。

中高大はずっと野球部に所属していて、勉強よりも野球、の毎日でした。ウチの部はそこまでガチガチの体育会系ではなかったんですけど、それなりに上下関係は厳しかった。でも僕は、けっこう先輩にタメ口をきいたりしていて。ここでも観察力を生かして、「この人は大丈夫だ」とか見極めていたんです。子ども時代だけでなく、ある程度大きくなっても同じように振る舞っていたところを見ると、そうやって人のフトコロに入るということがもともと好きな性格だったんだろうなあと思いますね。

観察癖が養ってくれた「ナナメに見る」力

撮影:岩田えり
僕のこういった子ども時代の環境は、良く言えば「物事をいろんな方向から見る」、悪く言えば「ナナメに見る」という特質を養ってくれた気がします。

僕は大学生のとき、高校の野球部のコーチをやっていたんですね。そこで生徒たちと一緒に甲子園を目指していると、当たり前にやっている練習に疑問を持つようになって。「そういえば僕が高校時代も監督はこれをやれと言ってきたけど、何のためなんだろう?」と。それが自分の考えとは違っていても、気にせず従う人も多いと思います。でも僕は小さいころから常に周囲を観察して、「これってこういうことなんだな」と考えながらやってきたので、ただ「こうしろ」と言われても納得できないとやりたくない。あえて「これをやらなかったらどうだろう?」とか、「反対から見たらどうなるだろう?」とか考えてみるところがあったんです。

このことは、結果的に今の仕事にものすごくプラスに働いていると思います。アナウンサーはいろんな方向からの意見を聞いて、バランスをとる仕事でもありますから。ただ、『Nスタ』の放送前の打ち合せでも「いや、でもこれって反対から見ると……」とやっているので、スタッフさんたちには相当めんどくさい人と思われていると思います。まあ、番組も6年目に入って、この性格もだいぶ認知されてきましたけど……(笑)。
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