0・1・2歳むけの「赤ちゃん絵本」と「絵本」は何が違う? 絵本作家・ぬまのうまきが明かした制作秘話

げんき2024年冬号別冊付録 絵本「くるりん! せなかだあれ?」の著者と編集者によるトークイベントレポート【前編】

げんき編集部

あたたかな「ひるねこBOOKS」さんの会場には、アットホームな空気が流れていました。
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「げんき2024年冬号」の別冊付録の絵本「しりたがりのこりすくん くるりん! せなかだあれ?」。書き下ろしで制作されたこの絵本では、絵本作家・ぬまのうまきさんの優しい色使いとほっこりとした物語が楽しめます。

刊行を記念し2024年2月、東京・谷中「ひるねこBOOKS」で、ぬまのうさんと担当編集者(飯島)とのトークイベントを開催。穏やかな雰囲気からは想像もできない、絵本制作にかけるぬまのうさんのストイックさを感じられた貴重なイベントとなりました!
「げんき2024冬号」別冊ふろく絵本「しりたがりのこりすくん くるりん! せなかだあれ?」の表紙。
いつもよりも原色を意識して、パッキリした色使いで仕上げたそう。
──ぬまのうさんに最初にご依頼したのは「げんき」誌面、キャラクターページで背景のイラストを描いていただきましたね。

ぬまのうまきさん(以下、ぬまのう):私はもともと有隣堂の書店員だったんですけど、当時も「げんき」には商品として触れていましたが、ちゃんと見たことはありませんでした。でも子どもたちが食いつくように買っていたんです。お仕事のお話をいただいて、ちゃんとページを開いてみて、「こんな面白い要素がたくさん詰まってるんだな」と思いました。そんな雑誌に関われたことはとてもうれしかったです。
──今回制作いただいた「しりたがりのこりすくん~」はぬまのうさんにとって初めての赤ちゃん絵本となりました。

ぬまのう:正直、不安はありました。4歳、5歳のときって覚えているかもしれないけど、0歳の記憶はない。なので、0歳の感覚に戻ってやるっていうのは難しい。これまで赤ちゃん絵本も作ったことがないので、「赤ちゃん絵本を片っ端から読もう!」と、代表的な松谷みよ子先生文の「いない いない ばあ」(絵:瀬川康男/童心社)とか、「うさこちゃんの たんじょうび」(文・絵:ディック・ブルーナ/訳:いしい ももこ/福音館書店)とか、とにかくいろいろな絵本を読みました。
そこで感じたのが「0・1・2歳」の赤ちゃん絵本は、明度や彩度が高く、4原色をしっかりと印象的に見せているものが多いということ。イエロー、シアン(青)、マゼンタ(赤)、ブラックをしっかりとグラフィカルな形で見せているんです。

赤ちゃん絵本の「絵」と「言葉」

奈良県の本屋「ito ito」で開催された原画展設営の様子。一枚一枚の絵に込めた思いをぬまのうさんがあたたかなコメントペーパーで彩っていく様子が印象的でした。
ぬまのう:赤ちゃんは、色を知覚できるようになるまでに過程があるということも学びました。まずモノクロが見えるようになって、その後彩度と濃度が高い白黒はっきりしたものが見えるようになる。その次に柔らかい色が見えるそうです。赤ちゃん絵本に正解はないし、この色でつくらなければならない、ということはないと思うのですが、私がつくるにあたっては、色に意識を置いてみました。

私の絵本は暖色を使った柔らかい色がすごく多いんです。それだともしかしたら赤ちゃん向けじゃないかもしれないと、今回はイエローとオレンジとグリーンとブラック、この4原色を少しいじって自分の配色になるように配色設定を考えました。そこにブルーを入れた5色で作りました。これまでの私の作品に比べると、色がはっきりとしている印象になるかもしれないですね。

──ぬまのうさんの一つ一つに対して真摯に向き合って、ストイックに進まれていく姿が、この絵本の中にも出ていたなと思います。

ぬまのう:とんでもないです。いろいろな赤ちゃん絵本から吸収して、つくることができました。ただ、絵だけでなく言葉も難しくて! 赤ちゃん絵本って、4歳5歳むけの絵本に比べるとだいぶ言葉が少ないんですよね。言葉の関係性ってシンプルで難しい。「いない いない ばあ」だったら「ばあ」の部分を、編集者の飯島さんに添削してもらう作業が長かったというか、絵本の色や物語を決めるよりも時間がかかったかもしれません。私、この主人公のこりすくんを「くるりん」って名前で呼んでいたんですが、この「くるりん」が、「いない いない ばあ」の「ばあ!」に当たるかも。この絵本の特徴になりました。

──最後のシーンの「むぎゅっ」は、ぬまのうさんから出てきた言葉。見た瞬間、私、会社で「やった!」って拍手してしまいました。やりとりしていく中で、どんどんぬまのうさんの中から言葉が出てきて、すごいなって思っていました。

ぬまのう親子でむぎゅっと寄り添う、体温のような温かさを表現したかったんです。原画展のテーマにもしました。

主人公は「リス」ではなく「ネズミ」だった……?

鏡のシーン。大きな姿見で自慢のしましませなかを眺めているこりすくん。
──主人公のこりすくん、実は最初はリスではなくネズミでしたね。ネズミがいろいろな動物の背中を見に行くっていう設定は変わらないんですが……。

ぬまのう:もともと私の描いたイラストのクマの背中を「ふわふわだー」って飯島さんが気に入ってくださったことが物語のきっかけでもありました。そこから「背中の絵本を作ろう」ってことになったんです。

そこで「背中が特徴的な主人公がいい。どうしましょう? 亀にしましょうか」とか「もっとフサフサした動物がいい」とかいろいろな案を出し合って、そのなかでシマリスは今まで書いたことなくて面白そうだなと思い、リスになりました。

あと、こりすくんの前髪は当初なかったんですよね。飯島さんから「この子が元気で楽しく遊び回っている雰囲気を感じる要素がひとつ欲しい」とリクエストがあって。その日の晩は全然思いつかなくて、そのまま寝てしまったんですけど、翌朝起きて、自分の姿を鏡を見たときに、寝ぐせで前髪がくるりんとしてて(笑)。「あ、この前髪、この子に入れちゃえ」と思って入れちゃいました。だからこりすくんの前髪は、私の寝ぐせが乗り移ったんですね。

──なんてかわいい寝ぐせでしょう(笑)。

ぬまのう:あと「背中」をポイントにするうえで、最初のページの鏡のサイズも、飯島さんから「もっと大きくしてください」と言われて、背中がよく見える構図にしました。ここをちゃんと直さないと、この絵本は成り立たなかったかもしれません。

──表紙も最初は尻尾が上にありましたね。それだと「背中」が見えなくなってしまうので、リクエストして背中を強調する構図にしてもらいました。ここもポイントでもありますね。......でも、私からのリクエストは「違うぞ!」と思ったら無視してくださいね(笑)。あまり編集者を信じすぎずに。

古典の童話や作品を吸収することで、自分だけの絵本が生まれる

たくさんの名作絵本の「せなか」を見つめながら、どんどん前へ進むぬまのうさん。今後の活躍が楽しみです!
──寝ぐせが絵本に反映されたり、逆に絵本の言葉が展示のテーマになったり。ぬまのうさんにとって、絵本と生活は、密接につながっているんですね。

ぬまのう:そうですね。私は古典の童話が好きなので、グリムとかアンデルセンとかも好きで読んでいます。古典の童話を読んで吸収して、ほかの絵本もたくさん読んで吸収して、そこからまた自分のお話が生まれたりする。

あらすじはだいたい知っているんですけど、「親指姫」とかも本当はすごい長いんですよ! それをかいつまんで、絵本にするときに削られている文章がある。そう思うと面白くて、今、全文が読める本を集めているところです。いつか古典の挿絵なども描いてみたいですね。

こりすくんの絵本がふろくで付いてくる!「げんき2024年冬号」好評発売中

親子で楽しめるよみきかせ絵本「しりたがりのこりすくん くるりん!せなかだあれ」が読めるのは「げんき冬号」だけ。ほかにも「サンリオキャラクターズ デザートやさんごっこ」の付録や、しかけページ、シールなどもたっぷりの、大充実の一冊です!
げんき 2024年冬号
発売:2024/01/30
定価:1540円(税込み)
後編も近日公開予定! お楽しみに。
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ぬまのう まき

絵本作家

絵本作家。女子美術大学芸術学部デザイン学科卒業。懐かしさが薫る、動物や人々の暮らしを描く。2022年『メルシーのすてきなおへんじ』(ひるねこBOOKSレーベル)『かくれんぼハウスへようこそ』(ほるぷ出版)で出版デビューする。2024年1月に幼年雑誌「げんき」の別冊ふろくで絵本が発売。他に私家版絵本『わたしのおうちで』など。2024年秋に新刊絵本発売予定。

絵本作家。女子美術大学芸術学部デザイン学科卒業。懐かしさが薫る、動物や人々の暮らしを描く。2022年『メルシーのすてきなおへんじ』(ひるねこBOOKSレーベル)『かくれんぼハウスへようこそ』(ほるぷ出版)で出版デビューする。2024年1月に幼年雑誌「げんき」の別冊ふろくで絵本が発売。他に私家版絵本『わたしのおうちで』など。2024年秋に新刊絵本発売予定。

げんきへんしゅうぶ

げんき編集部

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「いないいないばあっ!」と、幼児向けの絵本を刊行している講談社げんき編集部のサイトです。1・2・3歳のお子さんがいるパパ・ママを中心に、おもしろくて役に立つ子育てや絵本の情報が満載! Instagram : genki_magazine Twitter : @kodanshagenki LINE : @genki

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