TBSアナ井上貴博「アナウンサーになろうと思ったことは一度もなかった」

【WEBげんき連載】わたしが子どもだったころ #2井上貴博

ライター:山本 奈緒子

アナウンサーになろうと思ったことは一度もなかった

アナウンサーになろうと思ったきっかけは、入社試験での面接です。もともと僕は商社とかベンチャー企業への就職を考えていて、アナウンサーになろうとは1回も考えたことがありませんでした。それどころかテレビというもの自体、実は嫌いだったんです。テレビの人って「自分たちが世の中を動かしている」と思っていて、いつも西麻布で遊んでいる、というイメージがあったので(笑)。そんな想いはありながらですが、アナウンサー試験というのは就活において、他の業種に先駆けてスタートするんです。だから練習の意味もあって面接を受けてみたのですが、これが自分の性格にピタリとハマったというか。

というのも、というのも、定型の質問が一切なかったんですよ。「志望動機は?」とか「学生時代は何に打ち込みましたか?」といった質問はなくて、「この写真を見て30秒間話してください」などと言ってきたりする。これは本気でふるいにかけているな、めちゃくちゃ面白い! と思ったのが、興味を持った最初のきっかけでした。それで奇跡的にTBSから内定をもらって。迷ったんですけど、最後は「嫌いなところに行ってみよう」というのが決め手でした。気の合う人たちと、自分に合う仕事をしていくのは幸せだと思うんですけど、嫌いなところのほうが自分が成長できるんじゃないかと思ったんです。

そんなふうに「テレビは嫌い」という“底”から入ったので、入ってからは逆に「テレビって捨てたもんじゃないな」と思うことのほうが多くて。熱い人がいっぱいいるし、マイペースなように見えて皆チームのために頑張っている。かつての僕は「チームのためとか言わないほうがいいよ」なんて言っていたタイプなんですけど、どんどんチームに対する愛が大きくなって。気持ち悪いから愛とか言いたくないんですけど、愛社精神が確実に醸成されています(笑)。

両親には感謝しているけど、同じ子育てをしようとは思わない

撮影:岩田えり
大人になった今、親から与えてもらった環境で「もっとこうしてくれたら良かったのに」と思うことはとくにありません。幼稚舎から大学まで一貫校だったので、その中にいるときは世間知らずで外の世界に出て戦えるのかと不安に思っていましたけど、「隣の芝生は青い」で、どの環境に育ってもメリットデメリットはあるもの。今になれば、社会に出ていく不安を環境のせいにしていただけだな、ということが分かります。

ただ、両親に感謝はしていますけど、子育ては百人百様で正解はないとも思っています。正解は存在しないし、過去とこれまでの選択を正解にするのは、結局、自分ですから。だから両親のような子育てをしようとも思っていなくて。僕はまだ結婚をしていないし子どももいませんが、いつか子どもを持ったら軸にしたいと思っているのは、「自由にやりたいことをやってほしい、そのためのチャンスは与えてあげたい」ということだけです。学校も同じところに入れたいと過度には思わないし、押し付けたくない。子どもがやりたいことを尊重して、可能性の芽を摘むことは避けたいと考えています。

僕の親はどちらかというと子どもに安定を求めるタイプで、僕がベンチャー企業に行きたいと言ったときも抵抗を示していました。僕は、その感じは出したくないなと思っていて。昭和59年生まれの僕の価値観で物事を見ても、子どもが大きくなるころには確実に世の中は変わっているはずです。上の世代の価値観を押し付けたり、可能性の幅を狭めてしまったりしたくない。本人の感覚を大切に、自分の手で切り拓いていって欲しいんです。

一メディア人として思うこれからの時代のSNSとの付き合い方

子どもの「やりたい」を大切にしたいという点では、SNSとの付き合い方についても同じ考え方を持っていて。テレビと新聞が絶対だった僕の子ども時代と違って、今はさまざまなSNSからも情報が入ってくるし、今日は正解だと言っていたことが翌日には180度ひっくり返っていることも当たり前。アナウンサーという一メディア人として、情報をシャットアウトするのではなく、たくさん触れたうえで鵜吞みにせず疑ってみる、という力を養うことのほうが大事なのではないかと思っています。

そもそも「これ見ちゃダメ」「あれ見ちゃダメ」と言ったところで、制限するのは限界がありますよね。大人たちは閲覧禁止設定をおこない、必死で情報から遠ざけようとしますけど、SNSに触れることが多い分、子どもたちは同時にリテラシーもちゃんと育てている気がしていて。誹謗中傷はなくならないと思いますけど、今の子どもたちが中心となってSNSを使うころには、状況は良い方向に変わっていくと思うんですよ。しょせんはまだ子育てをしていないので他人事な意見なのかもしれないですけど、大人が想像してる以上に子どもはしっかりしている。可能な限り、子どもを信じてあげたいなというのが僕の素直な気持ちです。
撮影:岩田えり
撮影:岩田えり
取材・文:山本 奈緒子
井上貴博
TBSアナウンサー1984年東京生まれ。慶應義塾幼稚舎、普通部、慶應義塾高校を経て、慶應義塾大学経済学部卒業。2007年、TBSテレビに入社。以来、情報・報道番組を中心に担当。2010年1月より『みのもんたの朝ズバッ!』でニュース・取材キャスターを務め、みのもんた不在時には総合司会を代行。2013年11月より『朝ズバッ!』2代目総合司会に就任。2017年4月から、『Nスタ』平日版の総合司会を担当。2022年4月から自身初の冠ラジオ番組『井上貴博 土曜日の「あ」』がスタート。同年同月、第30回橋田賞受賞。
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ビジネスパーソンに限らず学生、主婦(主夫)など、今や全ての人にとって欠かせないスキルとなっている「話し方」「聞き方」そして「伝え方」。自分では伝えているつもりでも、伝わらなければ何の意味もない。TBSの人気報道番組『Nスタ』の総合司会である井上貴博アナが、「伝わらない」を「伝える」に変えるテクニックを余すところなく伝授した一冊。「『信頼感』が高まる9つの言葉づかい」、「『自分の意見』をはっきりさせる7つの話し方」など、きちんと伝わる話し方を手取り足取り解説。仕事でもプライベートでも役立つヒントが満載です! ダイヤモンド社/¥1540
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やまもと なおこ

山本 奈緒子

ライター

1972年生まれ。愛媛県出身。放送局勤務を経てフリーライターに。 『ViVi』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、 インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、 主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。

1972年生まれ。愛媛県出身。放送局勤務を経てフリーライターに。 『ViVi』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、 インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、 主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。

げんきへんしゅうぶ

げんき編集部

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「いないいないばあっ!」と、幼児向けの絵本を刊行している講談社げんき編集部のサイトです。1・2・3歳のお子さんがいるパパ・ママを中心に、おもしろくて役に立つ子育てや絵本の情報が満載! Instagram : genki_magazine Twitter : @kodanshagenki LINE : @genki

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