ハナコ秋山寛貴「美大を蹴ってお笑い芸人の道に。僕の役割はMr.ビーンのエキストラ」

【WEBげんき連載】わたしが子どもだったころ #12ハナコ秋山寛貴

編集者・ライター:山口 真央

親に迷惑をかけないために「お笑い」の道を選択

でも、そこから「お笑い芸人を目指そう!」とスムーズにいったわけではありません。実は僕は、幼いころから、絵や工作を、家族や先生からたくさん褒められてきたので、美術が大好きでした。アルバムには、僕がつくったものやそれらを撮っている写真がたくさん! 小学生、中学生で僕が目立つことと言えば、美術の才能を発揮したときだけでした。

その流れで、高校は美術系のコースを選択。でも、ここでまた、これまでは自分のことを「絵が上手いやつ」と思ってきたのに、まわりは自分より絵のうまい人ばかりで圧倒されました。「絵のテーマが重要だ」「もっとうまくならなきゃ」と、どんどん頭が固くなっていきました。がんばろうがんばろうと意気込む反面、少しずつ少しずつ、絵を描くことが楽しくなくなっていってしまったんです。

そんななかお笑いの「M‐1甲子園」で結果を出してしまったので、どちらの道に進むべきか、卒業するギリギリまで悩みました。それで、高3の12月、ワタナベコメディスクールの高校生オーディションを受けに行ったんです。ここでも、まさかの合格。ただし、それでも踏ん切りがつかず、美大の受験もして、こちらもいくつか合格通知をいただきました。迷いながらも、両方やっちゃうところが、正直、自分でも真面目すぎるなと思います。
さて、どうしようと考えたときに、浮かんだのが実家のお金のこと。美大の入学金や学費を払ったあとに、東京で芸人を目指したいと言っても、せっかく親に学費を払ってもらったのに申し訳ない。それならいったんお笑いの養成所に入ってみて、ダメだったら地元に戻り、美術系の仕事で働くという流れにしたほうが迷惑をかけないかなと思ったんです。

親に「お笑い芸人を目指して上京する」と話したら、「大した支援はできないけれど、好きにしなさい」と応援してくれました。家族もお笑いが好きなので、僕が漫才をすることを面白がってくれていたんです。一番ショックを受けたのは美術の先生でした。「学校のない日も真面目に学校にきて、黙々とデッサンしていたじゃないか!」と最後まで引き止めてくれました。先生には申し訳ないことをしてしまったけれど、こうしてやっと、自分の進路が決まりました。

Mr.ビーンのエキストラからツッコミを学んでいた

ワタナベコメディスクールに入学したら、まわりはお笑いが好きな人ばかり。それまで友達には、『エンタの神様』の話はできても、『爆笑オンエアバトル』の話はできなかった。そんなふうに、ある意味、手加減してきたお笑いの話を、何も気にせずどんどん話して共感し合えることに、本当に喜びを感じました。お笑いのことを考えることも、初めてのことばかり、知らないことばかりで、学ぶことが楽しかった。これを知らずに人生を送れないなと。自分のことを売れそうだなとか、面白いなと思うことはなかったけれど、お笑いが好きな気持ちは揺るぎませんでした。

芸人をやりだすと逆に絵が趣味になっていって、徐々に純粋に描くことが楽しい気持ちが戻ってきました。高校生のときは失敗することが怖くて、表現が凝り固まってしまっていたんですが、もっといっぱい挑戦すればよかったなと思います。当時だったら、今僕が出したイラスト集「#秋山動物園」みたいな絵は、「遊びみたいだ」と感じてしまっていたはず。でも、今は、うまい絵も、下手な絵も、それぞれの味があって素敵だなと思うようになったんです。
芸人として少しずつみんなから認められてきたころ、ある先輩芸人に「秋山は正面からツッコむんじゃなくて、リアクターだよね」と言われました。そのときは「そうかもな」ぐらいにしか思ってなかったんですけど、大好きなMr.ビーンを見返していて「これは僕だ!」って気づいたんです。いえ、Mr.ビーンじゃなく、まわりのエキストラの方々です。Mr.ビーンのお話は、彼の奇妙な行動に正面からツッコまず、エキストラさんが席を遠ざけたり、迷惑そうな顔をしているのが面白い。まさか自分がMr.ビーンから、ツッコミを学んでいたとは気づきませんでした。父ちゃんが録っておいてくれたVHSが、僕の人生に役立ったんですね。

そんな僕も、一児の父になりました。先日、息子がストローでお茶を吸っている様子を見ていて、笑いがとまらなくなってしまって。まだ言葉も話せないうちから、ストローを吸ったら飲み物が出てくると理解している。思わず「君、すごいね!」と息子に声をかけてしまいました。成長ひとつひとつを、興味深く感じながら育てています。僕が父から影響を受けたように、息子も僕のすることに何かを感じて、それが彼の人生のパーツになるのかな。そう思うと、なんだか神秘的ですよね。
秋山寛貴

1991年岡山県生まれ。ワタナベエンターテインメント所属。2014年、同じくワタナベコメディスクールの12期生だった岡部大、菊田竜大とともにお笑いトリオ・ハナコを結成。「キングオブコント2018」優勝。「ワタナベお笑いNo.1決定戦 2018/2019」2年連続優勝。数多くのネタ番組や情報番組に出演するほか、「小説 野性時代」にてエッセイ「人前に立つのは苦手だけど」を連載。2023年3月より文化放送の「レコメン!」の火曜パーソナリティーに就任するなど、活動の幅を広げている。
『#秋山動物園』
秋山寛貴 ¥1210(税込)
【内容紹介】
お笑いトリオ・ハナコの秋山寛貴さんが、Instagramに投稿している動物イラストをまとめたイラスト集。授業中に自信なさそうに手を半上げしているテナガザル、口のなかで鳥に長居をされるカバなど、秋山さんらしいユニークな発想で、くすっと笑える動物たちを描きます。書籍には、Instagramには投稿されていない、それぞれの動物たちの「その後」も収録されています。
撮影/市谷明美 取材/山口真央
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げんきへんしゅうぶ

げんき編集部

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「いないいないばあっ!」と、幼児向けの絵本を刊行している講談社げんき編集部のサイトです。1・2・3歳のお子さんがいるパパ・ママを中心に、おもしろくて役に立つ子育てや絵本の情報が満載! Instagram : genki_magazine Twitter : @kodanshagenki LINE : @genki

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やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。