世界で一番ヘンテコなアンモナイト「ニッポニテス」の形に隠された意外なヒミツ

【ちょっとマニアな古生物のふしぎ】古生物学者・相場大佑先生が見つけた古生物のふしぎ

古生物学者:相場 大佑

この謎を解明したのは、1980年台、当時東京大学の大学院生だった岡本 隆さんです。岡本さんはニッポニテスの形が右巻き・平面巻き・左巻きの組み合わせからできていて、これらの巻きを交互に繰り返していることを発見しました。さらに、実際の化石とコンピューターと数学を駆使し、ニッポニテスの巻き方をなんと数式で表すことに成功したのです!
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ニッポニテスの形は左巻き、平面巻き、右巻きが組み合わさってできている。
岡本さんは、さらに研究を続け、ニッポニテスの殻と顔の向きの成長変化をコンピューターで解析し、驚くべき関係性に気がつきました。それは、「ニッポニテスの形は、顔がいつも同じ方向を向くように調整された結果作られたものである」ということです。
ニッポニテスは顔が同じ向きを向くように殻をひねって調整しながら成長する。
ニッポニテスは成長の中で体の浮力のバランスが変化し、顔が上や下を向きすぎることがあったようです。そんなときは、上を向きすぎてしまったら顔の向きが下がるように殻をひねり、またしばらく成長をして下を向きすぎてしまったら、今度は顔の向きが上がるように逆方向に殻をひねって調整していることがわかりました。そのように成長の中でひねることを繰り返した結果、あのようなヘンテコな形になったようです。

私たち人間は寝ているとき以外はいつも同じ方向を向いて生活しています。しかし、もし月毎に体が180度ひっくり返って、偶数月だけ逆立ちして生活することを強いられたらどうでしょうか。頭に血が昇ってしまい、目が回ってしまいそうで、イヤですよね。落ち着いて生活できなさそうです。顔の向きが変わって困るのはニッポニテスにとっても同じだったようです。

世界で一番ヘンテコな形には、何かヘンテコな理由があったのかと思いきや、そこに隠されていたのは、「いつも同じ方向を向いていたい」という、とても単純な理由だったのです!

以上、「化石の日」の由来となった不思議なアンモナイト「ニッポニテス」の形の秘密をご紹介しました。

ぜひ、「化石の日」には博物館に行ったり、化石・古生物の図鑑・本を開いたりして、化石に親しんでみてはいかがでしょうか。ニッポニテスの化石は、国立科学博物館(東京都)や東京大学総合研究博物館(こちらでは最初に発見されたニッポニテスが見られます)、三笠市立博物館(北海道)、群馬県立自然史博物館、大阪市立自然史博物館、北九州市立いのちのたび博物館(福岡県)などで見ることができます。

また、下のホームページではニッポニテスの3Dデータをグリグリ回していろんな角度から眺めることができます。ニッポニテスの形を立体的に学んでみよう!
画像提供/相場大佑
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あいば だいすけ

相場 大佑

Daisuke Aiba
古生物学者

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。