これはハエ? めずらしいヨロイバエにヒマラヤで出会った

【ちょっとマニアな初夏の生きもの】昆虫研究家・伊藤先生が見つけた生きもののふしぎ

これ、なーんだ?

今回はちょっと(というより、ものすごく)変わった昆虫を紹介しましょう。これは何のなかまの昆虫だと思いますか?

撮影/伊藤 弥寿彦

撮影したのはヒマラヤの山脈南側の国、ブータンです。ブータンは九州と同じくらいの面積の小さな国ですが、高低差が標高100mから7561mまでなんと7000m以上もあります。標高2334mの首都ティンプーから、標高の低い南のダガナ県に向かって車を走らせて行きました。

ブータンでは外国人旅行者は行くことの出来る場所が制限されています。ダガナ地域にはそれまで日本人はほとんど入ったことがありませんでした。

今にも崩れそうな川沿いの道をひた走りました。どんどん標高が下がると蒸し暑く、ヤシやバナナがしげる亜熱帯の森になりました。車を止めて休憩したとき、森の中に続く小みちがあったのでわけいってみると一本の倒木の上に大きさわずか5mmほどの甲虫(?)が止まっていました。

しかしよく目をこらしてみると……「あっ! これ甲虫じゃない!」

思わず興奮しました。それは昔から一度見てみたいと思っていた昆虫「ヨロイバエ」だったのです。

撮影/伊藤 弥寿彦

どうしてこれがハエなの? と思うでしょう?

一番わかりやすいのは頭の部分です。触角、口(なめるタイプ)などを見るとまさにハエなのです(上の写真のハエと見比べてみてください)。どうしてこんな姿になったのか? 飛ぶためのはねはどこにあるのか?

実はヨロイバエは、小楯版(しょうじゅんばん)とよばれる部分が極端に大きくなって2枚の飛ぶはねをおおいかくしているのです。どうしてそのような進化の道筋をたどったのか、 私にはわかりません。昆虫の世界は不思議なことだらけですね。

ヨロイバエのなかまは、熱帯で繁栄しており、東南アジアでは他にもいろいろな種類が知られています。日本では長崎県の対馬で1種類見つかっていますが、なかなか見る機会はありません。写真を撮ったあと、このヨロイバエはあっという間に飛んでしまい、深い森の中へ消えていきました。
いとう やすひこ

伊藤 弥寿彦

Ito Yasuhiko
自然番組ディレクター・昆虫研究家

1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクタ...