恐竜はお花見シーズンの「春」に絶滅したって本当? 意外なことからわかる大昔の季節

【ちょっとマニアな古生物のふしぎ】古生物学者・相場大佑先生が見つけた古生物のふしぎ

古生物学者:相場 大佑

正解は、「隕石が衝突したその瞬間に死んだ魚の骨を調べる」

なぜ、魚の骨を調べたら季節が春であるとわかったのでしょうか?

木や骨、二枚貝の殻などの断面には、成長とともに縞模様できることがあります。木では「年輪」と呼ばれるものです。このような縞模様がなぜできるかというと、季節により成長する量が違うためです。春から夏をピークとして秋まで成長し、密度が低く薄い色の縞模様ができます。一方、冬には成長が遅くなるか停滞し、成長停止線が現れます。
成長線の仕組み。この写真は北海道で見つかった恐竜カムイサウルス・ジャポニクスの脛骨の断面。春〜秋にかけて成長し、冬には成長が止まり、成長停止線が現れる(右の黒い矢印)。このような縞模様の繰り返しのひとつひとつが1年を表し、その数を数えると年齢がわかる(Kobayashi et al. 2019. CC BY 4.0)。
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アメリカの「ヘルクリーク層」はティラノサウルスやトリケラトプスが見つかる地層として、とても有名です。ヘルクリーク層は、白亜紀最末期に堆積がはじまった地層で、中生代と新生代の境界の隕石衝突したまさにそのときにできた層もあります。
ヘルクリーク層で見つかる様々な恐竜と翼竜。後ろ左側から前右側に向かって、アンキロサウルス、ティラノサウルス、ケツァルコアトルス、トリケラトプス、ストルティオミムス、パキケファロサウルス、アーケオラプトル、アンズー。©︎Durbed; Wikimedia Commons. CC BY-SA 3.0
隕石は北アメリカ大陸南部、現在のメキシコのユカタン半島に衝突しました。その衝撃により死んだ生きものの化石がヘルクリーク層には保存されていて、そのひとつにチョウザメ類の化石が含まれており、その骨の断面が詳しく調べられました。
現生のチョウザメ。軟骨魚類のサメとは遠い系統にある硬骨魚類の1グループである。高級食材のキャビアはチョウザメの卵巣をほぐしたものである。
魚の骨の断面にはまさに木の年輪のような縞模様があり、ここから見つかったチョウザメ類の骨を詳しく観察すると、どの個体も冬を終えた後〜夏を迎える前まで成長したところで死んでいることがわかりました。冬と夏の間、つまり春にこれらの魚は死に絶えたようです。
チョウザメ類化石の骨断面。赤の矢印が冬季にできる成長停止線。成長停止線の後、成長量が最大に達するよりも前、つまり夏を迎える前にこれらの魚が死んだことがわかる(©︎During et al. 2022. CC BY 4.0)
チョウザメ類化石の成長線の季節性は、化学分析(同位体分析)からも裏付けられている。骨に含まれる炭素から割り出した温度変化を成長線と比べると、成長停止線は温度の低い冬季(Aの折れ線グラフの右側;青いエリア)に対応しており、夏(Aの折れ線グラフの左側:赤いエリア)を迎える前に成長が終わっている(©︎During et al. 2022. CC BY 4.0; 日本語の説明を追加)。
その魚たちが大量死した季節を特定できただけでも素晴らしいことですが、隕石衝突の季節と結びつけるには、それらの魚が確実に隕石衝突で死んだものかどうかも重要です。
この魚たちの骨をCTスキャンで調べると、隕石の衝突時に空から降ったガラス球体(衝突球体)が鰓(えら)にたくさん含まれることが確認されました。このことにより、これらの魚が隕石衝突により死んだものであることがわかったのです。
チョウザメ類化石のえら内部の3D復元。緑色の部分がえらを支える軟骨で、黄色が衝突球体(©︎During et al. 2022. CC BY 4.0; 説明を日本語に置き換えた)
この研究は、CTスキャンや同位体分析などの最新技術も組み合わせたものですが、中心になっているのは非常にシンプルなアイディアと観察です。骨化石の成長線観察という古くからある手法に、隕石衝突時にしか現れない物体を魚化石の中に見出すという斬新なアイディアを加えたことで、隕石衝突の季節を推測したすごい研究だと思います。

古生物学研究はアイディア次第で誰でも大きな発見ができるという意味で全員が平等であるが良いところです。ぜひ自由な発想で色々なことを調べて、みなさんにも大きな発見をして欲しいです。

ところで、春に恐竜が絶滅したと思うとなんだか少し悲しくなりますね。でも、春は終わりの季節であると同時に始まりの季節でもあります。恐竜時代である中生代が終わって新生代が始まり、恐竜に変わって様々な哺乳類が進化して、私たちがいる現代に繋がっています。春に中生代が終わった季節であることは、春は新生代が始まった季節とも言い換えられるのです。

今年の春が、みなさんにとって良い季節になるといいですね。
参照文献:
During et al. (2022): The Mesozoic terminated in boreal spring. Nature, vol. 603, 91–94.
Kobayashi et al. (2019): A New Hadrosaurine (Dinosauria: Hadrosauridae) from the Marine Deposits of the Late Cretaceous Hakobuchi Formation, Yezo Group, Japan. scientific reports, 9:12389.

注: During et al. (2022)とほぼ同様の手法で類似した結論を導いた論文が、わずかに早いタイミングで発表されている(De Palma et al., 2021)。しかし、その論文はデータの透明性が疑われており、審議が行われているとの注意喚起が論文の掲載ページに付されている。ここでは、During et al. (2022)をもとに記事を作成している。(2025年3月時点)

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あいば だいすけ

相場 大佑

Daisuke Aiba
古生物学者

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。