驚きのアカギカメムシの大集団! まだまだ謎が多いカメムシの不思議な習性とは?

【ちょっとマニアな季節の生きもの】昆虫研究家・伊藤弥寿彦先生が見つけた生きもののふしぎ

昆虫研究家:伊藤 弥寿彦

続・昆虫の島・奄美大島で昆虫観察の旅

アカギカメムシ
奄美大島は、九州の鹿児島から約380キロ、沖縄本島から約340キロと九州~沖縄間のほぼ中間に位置する亜熱帯の島です。アマミノクロウサギやルリカケスなど世界中でここにしかいない生きものが何百種類も生息している素晴らしい島。昆虫も奄美大島特有の固有種が数えられないほどいます。

アカギカメムシの謎!

前回(その1)に続いて、奄美大島で出会った虫のお話をしましょう。

一緒に虫採りをしていた養老孟司先生が、「おーい!すごいのがいるよー!」と声を上げられました(養老先生は、「MOVE昆虫」の監修をされた先生です)。近づいてみると、先生のかたわらにあるアカメガシワの木の葉が、大きなかたまりのようになってたわんでいました。
アカギカメムシの集団。
「お~っ!これは見事ですね~!」

私たちが驚いたものの正体は、アカギカメムシの大集団でした。何百頭ものカメムシが1ヵ所により集まって、その重みで木の葉が垂れ下がっていたのです。

アカギカメムシは東南アジアの熱帯地域を中心に分布しており、日本では主に奄美大島や沖縄などの南西諸島で見ることができます。日本最大級(体長2.5cmほど)のカメムシで、色もとても目立つ昆虫なのですが、実はこの虫については、まだわからないことがたくさんあります。
まず、なぜこんな大集団を作るのか? これが不思議です。オスとメスの出会いの場であるとか、天敵を避けるためだとか、いろいろな説があるようなのですが、実際のところはナゾなのです。ぜひ、誰か研究して解明してください。

また、アカギカメムシは最近、日を追うごとに分布を北へと広げています。ここ数年、九州や本州でも記録されるようになり、2018年にはなんと北海道で発見されてしまって、これには誰もが驚きました。2020年には北海道の海岸に何百もの死体が打ち上げられました。どうやらこのカメムシは、長距離、しかも海の上を飛んで北上しているようです。なぜこのような行動をとるのでしょう? ……わかりません(誰か解明してください!)。
アカギカメムシの中にハエが?
さらに……現場では全く気づかなかったのですが、養老先生が見つけたこのアカギカメムシの写真を撮って家に帰った後でよく見たところ、カメムシと一緒に見たことのない美しいハエが写っていました。これはカメムシに卵を産み付けて幼虫のエサにする寄生バエに違いありません。ハエの近くにいるアカギカメムシはいかにも警戒している様子で、一方のハエはカメムシが油断する一瞬のスキを狙っているのでしょう。

養老先生も私もハエの種類は全くわかりません。SNSでこのハエを紹介してみたところ、ハエの研究者から連絡がありました。なんとまだ学会に発表されていない未記載種、つまり新種のハエだというのです。採集して標本にすればよかった!(標本がないと新種として記載ができません)。現場では大量のカメムシに圧倒されて、ハエには全く気がつかず残念でした。

とにかく、このカメムシひとつとってみても、虫の世界はわからないことだらけです。虫だけではありません。実際には世の中のありとあらゆることが知らないことだらけ。どんな人も知っていることより知らないことのほうがずっとずっと多いのです。

どんなことでもよいから、知らないことに気づき、興味をもって探求すると、きっと楽しい人生を送れると思いますよ。

写真提供/伊藤弥寿彦

いとう やすひこ

伊藤 弥寿彦

Ito Yasuhiko
自然番組ディレクター・昆虫研究家

1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。

1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。