新種アンモナイトの学名は「ゆるふわパーマ」!? 新種の化石、学名はどうやってつけるの?

【ちょっとマニアな古生物のはなし】古生物学者・相場大佑先生が見つけた古生物のふしぎ

古生物学者:相場 大佑



新種は特別な存在!

僕が専門としている中生代白亜紀のアンモナイトは、国内では130年以上も研究が続いていますが、未だに新種が見つかることがあります。
地層から掘り出した瞬間に「新種だ!」とわかることもあれば、他の種類と何年もかけて比較して新種であることがわかる場合や、これまで見つかっていた種類の中の個性と思われていたものが個性ではなく実は別の種類だった、ということもあります。
新種化石の発見は、図鑑や論文にも載っていない、まだ誰も見たことがない姿の大昔の生き物に出会った初めての人になるということです。新種の化石を目の前にして「君は誰だ……?」と頭の中が「?」でいっぱいになる瞬間は、研究で出会えるさまざまな発見の中でも特別なものです。

どうやって新種を発表する?

新種は、論文として発表してはじめて新種になります。学会での口頭発表や、博物館で「新種」とラベルをつけて展示しても、それだけでは新種としては認められないのです。新種を発表する論文は、化石の写真やスケッチなどの図を添えて、世界中の人が読めるように英語で書きます。

論文には、新種の化石がどんな形をしているか、これまで見つかった種とどこが違うのか、いつの時代の地層から見つかったのかなどを説明し、その新種は何から進化してきたのか、どんな生活を送っていたのかなどについても書きます。書いた論文を、専門の雑誌に提出すると、他の専門家からの審査を受けることになります。この審査に受かると、晴れて新種の論文が発表されます。

論文を書くのは結構大変です。新種の化石を見つけて、これまで見つかっている種類と違うということがわかっていても、論文が発表されるまでに数年かかることがあります。
ユーボストリコセラス・ヴァルデラクサムの記載論文が掲載された、日本古生物学会が発行する専門雑誌Paleontological Research

新種の学名をつける

新種を発表するときの楽しみのひとつが新しい学名をつけることです。論文中で提案する新種の学名は自分で考えた好きな名前をつけることができますが、新種の形の特徴や発見地、研究に協力してくれた人や尊敬する人にちなんだ学名をつける場合が多いです。また、新種の学名はラテン語(もしくはギリシャ語)でつけます。僕の机にはラテン語の辞書が何冊かあって、暇があるとページを捲って新種の学名に使えそうな言葉を探しています。

ちなみに、「新種を見つけると自分の名前をつけられるんでしょ」とときどき言われますが、実は新種の学名には自分自身の名前をつけることはできません。自分の名前は新種の命名者として残り、学名の後に書かれます。例えば、ティラノサウルス・レックスは、オズボーンさんが1905年に命名したので、Tyrannosaurus rex Osborn, 1905と表記されます。

僕が以前アンモナイトにつけた学名は…

僕は、これまでに2種の新種のアンモナイトを発表しました。

2017年に発表した新種の異常巻アンモナイトには、ユーボストリコセラス・ヴァルデラクサムという学名をつけました。前半のユーボストリコセラスは元々あった学名(属名)で、ユーボストリコは「(髪型の)パーマ」、セラスはアンモナイトの学名によくつけられる「角」という意味の言葉です(恐竜のサウルスのようなもの)。後半のヴァルデラクサムが新しく考えた名前です。ヴァルデラクサムはラテン語ですが、日本語にすると「とてもゆるい」という意味になります。

つまり、ユーボストリコセラス・ヴァルデラクサムという学名全体で「とてもゆるいパーマのアンモナイト」というような意味になります。実際の化石の写真がこちらです。

どうでしょう、“ゆるふわパーマ”に見えませんか?
ユーボストリコセラス・ヴァルデラクサム。三笠市立博物館所蔵標本)
2021年に発表した新種にはエゾセラス・エレガンスという学名をつけました。エゾセラスは元々あった「北海道の角」という意味の学名(属名)で、新しくつけたエレガンスの部分は「優雅」「上品」という意味です。

日本でも上品な様子をときどき「エレガントだ」と言いますね。僕は新種の化石を岩石から掘り出す作業をしている最中ずっと、「なんてエレガントな化石なんだ」とうっとりしていました。その感動をそのまま学名にしたわけです。
エゾセラス・エレガンス。(三笠市立博物館所蔵標本)
新種に学名をつけよう

何十年も何百年も残り、ずっと呼ばれ続ける新種の学名をつけることは責任のあることだと思います。できるだけ良い学名をつけたいものです。

アンモナイト以外の古生物でも、新種の化石自体はまだたくさん地層の中に眠っているはずで、もしも皆さんが新種の化石を見つけて発表することがあったら、化石自体が喜ぶような、また、みんなに親しみを込めて呼んでもらえるような、カッコよくて素敵な学名をつけてあげてください。

ちなみに、今僕は、北海道で見つかった新種のアンモナイトを発表する論文を書いています。博物館の収蔵庫で最初の1個を発見したのは、博士論文を書いていた2016年のことですが、なかなか納得のいく論文に仕上がらず、書いては消しを繰り返しています。誰かに先を越されないか、不安に思いながらも7年も経ってしまいました。

でも、完成まであと少しのところまで来ました。来年くらいには発表できるようにしたいと思います。
どんな形の、どんな学名の新種のアンモナイトが登場するか、楽しみにしていてください!


写真提供/相場大佑

あいば だいすけ

相場 大佑

Daisuke Aiba
古生物学者

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。